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ADHDの診断基準

注意欠如・多動症(attention-deficit / hyperactivity disorder; ADHD)は未就学児、学童、青年、成人にみられる疾患であり、注意を持続できない(不注意が目立つ)ことや、衝動性、多動性が顕著になることが特徴です。

ADHDは学童の5-8%にみられ、診断された子供のうち60-85%が思春期に入っても診断基準を満たし続け、なんと60%が成人になっても症状を呈することがわかってきました。

これに伴い診断マニュアル(DSM-5)でもいくつかの変更点がでています。
ここではADHDの診断基準と診断について解説します。


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ADHDの診断基準

アメリカ精神医学会より刊行されている「精神疾患の診断統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders; DSM)」に診断基準が記載されています。

世界保健機構(WHO)の推定では、世界的に成人期のADHDは3.4%の有病率と報告されており、2013年5月に改訂された第5版(DSM-5)では大人のADHDが初めて定義されました。
ADHDはこれまで子供の疾患として見られていたものが、大人になっても持ち越していることを前提とした診断基準にしたのです。

症状ももちろん成長によって子供の時とは異なります。

それではDSM-5によるADHDの診断基準を見ていきましょう。

ADHDの診断基準(DSM-5)

A.(1)不注意および/または(2)多動性・衝動性によって特徴づけられる。

(1)不注意
以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6か月以上持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである。

注:それらの症状は、単なる反抗的行動、挑戦、敵意の表れではなく、課題や指示を理解できないことでもない。
青年後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。

  • 学業、仕事、または他の活動中に、しばしば綿密に注意することができない。または不注意な間違いをする。(例:細部を見過ごしたり、見逃してしまう。作業が不正確である。)
  • 課題または遊びの活動中に、しばしば注意を持続することが困難である(例:講義、会議、または長時間の読書に集中し続けることが難しい)。
  • 直接話しかけられたときに、しばしば聞いていないように見える(例:明らかな注意をそらすものがない状況でさえ、心がどこか他所にあるように見える)。
  • しばしば指示に従えず、学業、用事、職場での義務をやり遂げることができない(例:課題を始めるがすぐに集中できなくなる、また容易に脱線する)。
  • 課題や活動を順序だてることがしばしば困難である(例:一連の課題を遂行することが難しい、資料や持ち物を整理しておくことが難しい、作業が乱雑でまとまりがない、時間の管理が苦手、〆切を守れない)。
  • 精神的努力の持続を要する課題(学業や宿題、青年後期および成人では報告書の作成、書類に漏れなく記入すること、長い文書を見直すこと)に従事するをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。
  • 課題や活動に必要なもの(例:学校教材、鉛筆、本、道具、財布、鍵、書類、眼鏡、携帯電話)をしばしばなくしてしまう。
  • しばしば外的な刺激(青年後期および成人では無関係な考えも含まれる)によってすぐ気が散ってしまう。
  • しばしば日々の活動(例:用事を足すこと、お使いをすること、青年後期および成人では、電話を折り返しかけること、お金の支払い、会合の約束を守ること)で忘れっぽい。

(2)多動性および衝動性
以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6か月以上持続したことがあり、その程度は発達の水準に不相応で、社会的および学業的/職業的活動に直接、悪影響を及ぼすほどである。

注:それらの症状は、単なる反抗的行動、挑戦、敵意の表れではなく、課題や指示を理解できないことでもない。
青年後期および成人(17歳以上)では、少なくとも5つ以上の症状が必要である。

  • しばしば手足をそわそわ動かしたりトントン叩いたりする、または椅子の上でもじもじする。
  • 席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる(例:教室、職場その他の作業場所で、またはそこにとどまることを要求される他の場面で自分の場所を離れる)。
  • 不適切な状況でしばしば走り回ったり高いところへ登ったりする(注:青年または成人では、落ち着かない感じのみにとどまるかもしれない)。
  • 静かに遊んだり余暇活動につくことがしばしばできない
  • しばしば「じっとしていない」、またはまるで「エンジンで動かされているように」行動する(例:レストランや会議に長時間とどまることができないかまたは不快に感じる:他の人たちには落ち着かないとか、一緒にいることが困難と感じられるかもしれない)。
  • しばしばしゃべりすぎる。
  • しばしば質問が終わる前に出し抜いて答え始めてしまう(例:他の人たちの言葉の続きを言ってしまう:会話で自分の番を待つことができない)
  • しばしば自分の順番を待つことが困難である(例:列に並んでいるとき)
  • しばしば他人を妨害し、邪魔する(例:会話、ゲームまたは活動に干渉する:相手に聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始める:青年または成人では他人のしていることに口出ししたり、横取りすることがあるかもしれない)

B.症状が12歳以前から存在。
C.症状が特定の場面だけでなく、2つ以上の状況で(例:家庭、学校、職場)存在。
D.症状が社会的、学業的、職業的な機能を損なわせている。
E.他の精神疾患(例:気分障害、不安症、解離症、パーソナリティ障害、物質中毒など)を否定できる。

以上が2013年5月に改訂されたマニュアル(DSM-5)の診断基準です。
ちなみに以前の診断マニュアル(DSM-Ⅳ-TR)では、診断項目は6個以上というのは共通ですが、17歳以上のADHDの診断においては5つ以上と少なく設定されているばかりでなく、各々の診断基準の項目内に成人ではこんな症状という例えばどんな具体例がつけられています。

症状は以前は7歳以前から存在を確認する必要があったものの、今回の改定では12歳以前としより軽度のADHDも診断できるようになっています(このことこそが大人のADHDを診断しやすくさせる)。
ある報告ではある集団においてADHDの診断基準を当てはめると、以前のマニュアル(DSM-Ⅳ-TR)において7.38%の頻度であったのが今回のマニュアル(DSM-5)では10.84%と頻度を増加させ、過剰に診断される恐れがあるとされています。

しかし、実際の臨床ではこれまで宙に浮いていることの多かった「大人のADHD」が正確に定義されることは本人の生きづらさを理解する一助になり気分的には楽になる方も多いのではないかと思います。

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ADHDの診断を支持する特徴

言語能力や運動能力の遅れはADHDに決して特異的ではありませんが、しばしばそれらを伴い併存していることも少なくありません。
また欲求不満状態への耐性は低く、容易に怒りやすく(キレやすい、易怒性)、気分の不安定さが目立ちます。

成人になるにつれ、職場での機能や成績、出勤状況の不良さ、対人過敏など葛藤する要素が増え生きづらさを自覚していることもしばしばです。
さらに、周囲からは怠惰、無責任、非協力的と解釈されがちで、こういった生きづらさからか気分障害や薬物依存症、反社会性パーソナリティ障害を合併することも多く、自殺率も高くなります。

ADHDの診断(子供と大人の違い)

ADHDという診断を確定するためには、不注意もしくは多動性・衝動性のどちらかもしくは両方が存在し、そのことが学校や職場、家庭など社会で生活していく上で障害になっていることを確認しなくてはいけません。

そしてそれらの症状の特徴は子供と大人でも変わります。

子供の場合

ADHDはすでに乳幼児期にあることもありますが、成長過程で目立たなくなることもあります。
最初のうちに診断することは容易ではありませんし、成長過程で目立たなくなればあまりにも早く診断することはあまり意味がないかもしれません。
傾向としてはベビーベッドの中で活発に動き、あまり眠らず、よく泣く傾向があります(この傾向があるからと言って過度に心配する必要はないでしょう)。

学童期にはその特徴が顕著になり、不注意が多い、集中力がない、思いつきの行動をする、段取りが悪い、ひどい場合には授業中に歩き回るなどの行動がみられ、親や学校の先生の指示に従うことが難しく注意されることが多くなります。
比較的簡単な課題でさえ、何度も注意を受けながらようやく行うこともしばしばです。

逆に勉強ができる場合には、当てられることを待つことができず他の人が当てられているのに即座に答えてしまいます。
とにかく「待つ」ということが難しく、衝動性や満足を先延ばしすることはできないのが特徴です。
ときに攻撃性や反抗的な態度が目立つ場合もあります。

一方で多動や衝動は、スポーツをしているときや1:1の面接のような場面では目立たなくなることもあります。

このようにADHDをもつ子供は、学習面と行動面の両方の問題が学校で起こるのが一般的です。

学習や振る舞いの問題が、はたして注意欠如からくるのか知的障害などがあり理解不足によるかはしっかり区別しなくてはなりません。
またけいれん発作(側頭葉てんかん)のある子供でこのような特徴の症状がでることもあります。

大人のADHDの診断

大人になって仕事中に会社中を勝手にうろうろ出歩くなんてことはないのはおわかりかと思います。
成長に伴って多動は改善していき、どちらかと言えば不注意の症状の方が目立ってきます。

これまでは、ADHDの大人に成長する過程で症状の変化については診断に考慮されていなかったので、大人のADHDの診断を的確に行うことは難しかったのです。

ところが2013年5月の診断基準(DSM-5)の改訂で初めて成人期のADHDが定義されました。

ADHDの診断には「不注意」と「多動・衝動性」の主症状の項目を満たすことが必要ですが、成人(17歳以上)と子供とでその必要な項目数が異なるように設定されたのです。

大人のADHDには2つのパターンがあります。

  1. 幼少期からADHDの症状が明らかで、そのまま成人に持ち越しの例
  2. 幼少期のときは症状は不明確で、成人してから症状が明らかになった例

1つは、幼少期から症状が明らかで学校や日常の生活に困難があり、すでに学童のときにはADHDの診断がなされてそのまま症状がいくらか継続したまま成人になった例と、もう一つは大人になってからADHDの症状が明らかになってきた例です。

間違えてはいけないのは大人になって新たにADHDが発症するというわけではないということです。
幼少期から症状は存在していたものの学校生活や日常生活にはさほど困難を生じていないものの、成人になって就職、結婚などを機に環境がより複雑化し負荷がかかるようになったことで対処能力を超えてしまった場合です。

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ICD-10における「多動性障害」の診断基準

実は、アメリカ精神医学会が刊行しているマニュアルであるDSM-5とは別に、「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Classification of Diseases、ICD)」といって死因や疾病の国際的な統計基準として、世界保健機関 (WHO) によって公表されている分類があります。

これの第10版(ICD-10)ではDSM-5における「注意欠如・多動症(ADHD)」に相当するものとして「F90 多動性障害」があります。

早期の発症、著しい不注意と持続した課題の遂行ができないことを伴った調節不良な多動、そしてこのような行動特徴が様々な状況でもいつまでも持続していることによって特徴づけられる」と定義されています。

DSM-5のように「注意欠如・多動性障害」とせずにICD-10の「多動性障害」としているのは、不注意(注意欠如)の要因が不明確であることと、不安などの精神状態でもそのようなことが起こりうるからとのことですが、ICD-10 自体が1990年のものであるため今後ICD-11として新しい解釈がでるまでは、「不注意症状」のとらえ方があいまいなままになっているのが特徴です。

ただし、おおまかな症状についてはDSM-5の一つ前の版であるDSM-Ⅳ-TRとほぼ同等な解釈となっていますが、さしあたりADHDについてはDSM-5を参考にするのが良いでしょう。

まとめ「ADHDの診断」

ADHDは診断マニュアル(DSM-5)において、自閉症スペクトラム障害などとともに「神経発達症・神経発達障害群」に属します。
従来はADHDが子供の疾患であり、成長につ入れ軽快するものと考えられてきました。

しかし、最近の子供の長期予後調査や成人の疫学調査において、ADHDが決して子供に限定される疾患ではなく、幼少期に発症し成人まで持続するものであるということが明らかになりました。

これをもとに、2013年5月に改訂されたDSM-5では大人のADHDがはじめて定義され診断基準に反映されるようになったのです。

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