
注意欠如多動症(ADHD)は、注意欠陥多動性障害の名で最近耳にすることが多くなってきています。
英語ではattention deficit / hyperactivity disorder、略してADHDと呼ばれます。
従来は子供の病気として認識されていましたが、最近では「大人のADHD」という呼ばれ方もメディアを通して耳にすることが多いと思います。
さて、ADHD(注意欠如・多動症)とは一体どんな疾患なのか解説していきましょう!
参考文献
特集「大人のADHDの診断はどのようにあるべきか?」精神神経学会誌 vol.117-No.9(2015), p756-779
目次
ADHDとは?-特徴的な3大症状-
ADHDとは、Attention Deficit / Hyperactivity Disorderの略で正式には注意欠如・多動症と呼ばれます。
一般には、そのままADHDとか注意欠陥・多動性障害などと呼ばれていることが多いことでしょう。
注意が欠陥していて、多動というそのものの症状なのですが、症状は主に3つに大別されています。
- 不注意
- 多動
- 衝動性
これまではADHDは幼少期に発症する(気付かれる)子供の病気として認識されており、その診断基準としても7歳までに症状が確認されていることが診断基準でした。
そしてそうした場合にはおよそ3:1で男児に多く、男児は多動と衝動性、女児は不注意がメインの症状であると考えられていたのです。
ADHDの不注意・多動・衝動性とはどんな症状?
不注意
- 忘れ物が多い、うっかりが多い
- 途中で放り投げやりかけになってしまう
- 注意が散漫で集中できない
- ときに過度に集中していることもある(特に興味のあること)
- 片付けできない
- 物をよくなくす
多動
- 落ち着きがない
- おしゃべり(一方的にしゃべる)
- そわそわして身体が動いてしまう
- 静かにすべき場所でも声が大きくなりがち
衝動性
- 相手の話の途中で割り込む
- 思いつくとすぐ発言してしまう
- カッとなってキレやすい
- 待てない
症状のイメージとしては、男児ならお調子者、女児なら不注意が多いだらしない印象になるでしょう。
学校の先生からは注意されることも少なくないです。
親もADHDの存在を知らないこともあるため、なんてダメな子なんだとか叱って(怒って?)ばかりになることが多いでしょう。
ADHDについては保育士や教育学部の大学生で勉強していることが多いので、最近はADHDについての理解は進んできています。
ADHDの原因
ADHDの原因は遺伝の関与が大きく、生まれついての体質的な特徴であり、その特性が出てしまった原因は親の育て方にあるわけではありません。
ADHDの発症リスク遺伝子としてドパミントランスポーター(DAT)、ドパミン受容体のD4・D5など7つの遺伝子関与が指摘されており、双生児研究からもADHDの平均遺伝率は76%と推定されています。
また、妊娠中の母親のアルコールや喫煙が妊娠中に影響している可能性や、未熟児としての出産、胎児のときの機械的な神経損傷(外傷や感染)が関与していることもあります。
つまり遺伝的な要因を基本とし、そこに環境的な要因が絡み症状が出現すると考えられます。
ADHDの診断
診断については世界保健機関(WHO)が公表する分類「疾病及び関連保険問題の国際統計分類(通称ICD-10)」と、アメリカ精神医学会が刊行する「精神障害の診断と統計マニュアル第5版(通称DSM-5)」に詳しく記載されています。
DSM-5は2013年に第4版(DSM-Ⅳ-TR)から改訂され、これまでの子供を主眼とした診断基準から、成人のADHDを考慮したものに変わっています。
ADHDとは本当に子供の病気か
大人になるにつれ女性のADHDが顕在化する!?
ADHDは子供の疾患であり、成長とともに改善すると考えられていました。
ところが最近の調査で、ADHDが決して子供に限定されるものではなく、幼少期に発覚して成人になっても持続する発達障害で慢性の疾患であると捉えられるようになってきました。
世界保健機構(WHO)の推定ではなんと成人のADHDの有病率は3.4%であると報告されています。
ADHDは子供の時には衝動性が目立って、一定の時間座っていることが困難だったり、おしゃべり、白日夢(白昼夢とも言い、現実味を帯びた非現実的な体験や、現実から離れて何かを考えている状態)などが典型的な症状です。
一方、女児は不注意症状がメインで多動や衝動性よりも不注意から発見されることが多いという特徴があります。
それが年齢とともに特に男児では多動が目立たなくなり、徐々に不注意や落ち着きのなさが症状の中心になっていきます。
女児の場合、不注意がメイン症状になるのですが軽い不注意だけではADHDが気づかれないこともあります。
ところが大人になって症状が初めて問題になるケースも増えています。
男女平等が言われてはいますが、それとはおかまいなしに女性は仕事や家庭生活において色々なことを同時にこなさなければならない風潮がまだあります。
このとき「仕事を効率よくやり遂げることができない」「子育てや家事を順序だててすることができない(特に子供は思い通りに動いてくれない)」などから不注意が際立ち、不適応におちいって新たに診断されるケースも少なくありません。
小児期にはADHDの有病率は3:1で男児に多いと報告されておりますが、成人になって女性が新たにADHDと診断されることがあってか1.6:1と男女差が狭まっていると報告されています。
大人のADHDとは?
ADHDはこれまで小児の病気と考えられ、成人するにつれて自然に症状が消えていくと考えられていました。
しかし、成人して大人になっても実質的に機能が改善している部分は10%程度にすぎず、小児のときにADHDであったものは大人になってもなんと75%とその大半は症状が持続していることがわかってきたのです。
このことから診断基準も少し変更が加えられました。
そもそも精神科領域における診断は、アメリカ精神医学会から精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、通称DSM)というマニュアルが出されており、そこに精神疾患の特徴がそこに記述されそれをもとに診断しています。
2013年5月にDSM-Ⅳ-TRからDSM-5に改訂され、改訂版ではADHDが慢性的な疾患であり、大人のADHDについてがはじめて明記されたのです。
ADHDで認める多動は成長とともに確かに改善することが多いのですが、大人のADHDでは不注意がその根幹となり、多動や衝動性は子供の時とは違った形で現れることもあります。
大人のADHDでよくみられる不注意症状は会議や事務処理でミスしたり、やるべき仕事にとりかかれていなかったり、仕事が遅く非効率であったり、ある業務をしていても他のことが思いつくと途中で放り出していたり、物を亡くしたり、約束の時間を守れなかったりなどがあります。
多動症状に関しては過剰におしゃべりであったり、貧乏ゆすりをしていたり、いつも忙しい印象を思わせます。
衝動症状は感情が高ぶりやすかったり、短期であったり、転職をよくしたり、交通事故、性的に依存しやすかったりなどが挙げられます。
これらが重なり、情緒不安定になっていたり、対人関係の問題をよく起こしていたりなどで不適応になりうつ症状が出現してくるのです。
ADHD自体は子供の時から特性を持つため、自身の中で何がこんなに生きづらさを作っているのか自覚できず、周囲も見逃していたりするのです。
生きづらさを感じながらも普通に生活していることもありますが、繰り返す留年、不登校、望まれない妊娠、物質乱用(アルコールや薬物)、交通事故、警察沙汰の問題など社会的な問題につながるケースもあります。
この場合、ADHDではなくパーソナリティ障害(人格障害)と診断されていることもあるでしょう。
大人のADHDが及ぼす仕事のトラブル
不注意を中心に仕事のミスが目立ったり、対人関係でトラブルがなぜか絶えないという問題が多く発生します。
その対処法についてはこちらを参考にしてください。
まとめ「ADHDとは?ADHDの特徴」
注意欠如・多動症(ADHD)は不注意・多動・衝動性を3大症状とする、幼児期・児童期に発症する発達障害です。
ADHDの世界的な有病率はおよそ3.4%と比較的高い頻度で認められるのが特徴です。
子供の障害であるイメージが強く、学校では問題児の男の子のイメージが強いです(宿題をよく忘れる、授業中で歩く、騒ぐ、お調子者など)。
これまで、成人するにつれて症状は消失していくものと考えられていましたが、その改善割合は10%に過ぎず、じつはその症状の特徴が形を変えて大人になっても残っていることが分かってきたのです。
もちろん大人になって問題児になることばかりを指すのではなく、多くは不注意症状がメインで仕事のミスが増えたり、過度に頑張らないと周りと同じことができなかったりなどです。
特に女性は幼少期のADHDの症状が不注意がメインであることから、幼少期にADHDは気付かれにくく、大人になって仕事や家事など様々なことをやらなければならなくなってから不注意が目立って不適応になり気づかれる例も多いのです(この結果、ADHDの男女差は幼少期は3:1と男児が圧倒的に多いのに、大人になると1.6:1にまで性差は狭まります)。
アメリカ精神医学会が出している診断マニュアル(DSM)も2013年5月の改訂で、初めて成人期(17歳以上)のADHDの定義がされました。
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