このコンテンツは医学論文データベース「PubMedパブメド」とわたくし医師個人の経験をもとに、正しい情報をわかりやすく解説することをモットーにしています。
アルコール依存症と家族

現在日本にはアルコール依存症(俗にいうアルコール中毒、アル中)の方が全部で109万人いると言われています(2013、厚生労働省調査)。

しかし、そのうちでアルコール依存症として治療につながっているケースは約4万人という現状があります。

Dr.GDr.G

約4%という驚異的な低さですが、この背景には一体どんな要因が絡んでいるのでしょうか?


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アルコール依存症と否認「何でそもそも問題を認めないの?」

隠れアルコール依存が多い理由

アルコール依存の治療の難しさを説明する一つの要素として、「否認」という依存症でよく見られる防衛反応があります。

アルコール依存症病棟の担当医師になり、断酒成功率を上げていった方法


一般では「容疑者は犯行を否認しています。」のような形で使われている言葉ですが、ここでいう否認とは、「物質の摂取(アルコールの摂取)によって問題が起こっているのに、それを認めようとしないこと。」を指します。

私も診断基準に基づいてちゃんと「あなたはアルコール依存症という病気です。」と診断を下したことはそれこそ幾度となくありますが患者さんの中には、

「いや、先生はそういうけどよ?俺はあんなに手が震えたりすることはねえし、朝から飲んだりということもしねえ。うちのは俺が酔っ払って暴力振るったって言ったけどよ?それはうちのが俺に冷たくするからな んだよ。うちのがちゃんと俺に接してくれていれば俺は飲まずに済むんだからな?だからアル中なんかじゃねえよ?」

などと認めたがらない方が多いのですね。。

他の病気の場合だったら、困って病院に行って医師から診断を受けたら「ああ、そうなんだ。」と納得することが多いと思いますが、依存症の場合だとどうして否認してしまうのでしょうか?

認めない、否認することそれこそが依存症である

アルコールに対しての依存が形成されると、craving(渇望)と呼ばれる飲酒欲求の波のようなものが次々と襲ってきます。
今は、こうした飲酒欲求の波に対しての治療薬として従来使われていた抗酒薬の他、断酒補助薬というものもあります。
それは「飲みたい」という直接的な形で現れることもあれば、「なんとなく不安」「イライラする」という飲酒したいという欲求とは直接関係なさそうな形で現れることもあります。

そして、そのような中、ご本人の中の物事の優先順位ランキングが逆転してしまう訳です。

具体的に言うと、例えば普通の方の場合、「1位:家庭 2位:仕事 3位:酒等その他の趣味」といったランキングになると思われますが、これが「1位:酒 2位:その他」という形で、ご家族や仕事のことよりもまず酒の方の優先順位が高くなってしまうのです。

こうした状態を「お酒と結婚させられた状態」と前の病院のアルコール学習会では表現していました。

「今起こっている問題がお酒のせいである。」
「お酒が原因で今の問題が起きている。」

と認めてしまうことは、結局自分の中で優先順位1位になっているお酒をやめなければいけない、妻よりも大事なパートナーであるアルコールと別れなければいけない、というご本人にとってはいわば喪失体験に近いことになる訳です。

だからこそ、「自分の問題はアルコールで起きているのではない。」「自分はお酒には何の問題もない」と「否認」することで、このテリトリー、優先順位を守ろうとするわけですが、そもそもこの優先順位の逆転自体がお酒という「薬物」の魔力なのですよね・・・。

しょっちゅう問題を起こしているご本人の尻拭いをさせられているご家族の立場から言ったら、「ここまでお酒で問題を起こしているのにどうしてお前は問題を認めようとしないんだ!?」と責め立てたくなるのもまた確かで、実際にこうした否認する患者さんとご家族とのせめぎあいの中で板挟みになることは幾度もありましたし、初めにアルコール医療を任された時にはよく否認する患者さんとバトルすることが多かったですね・・・・。

しかし、やっていくうちに「否認とどう戦うか」ではなく、「否認とどう向き合うか」の方が大事だということに気がついていきました。

「否認」といかに向き合い、そして治療につなげて行くか -自身の臨床経験で得たことから-

「家族が変われば本人が変わる」

アルコール依存症の分野でよくスローガンのように言われていたり、本のタイトルにもなっていたりしますが、僕がアルコール依存症の臨床に携わる前、この言葉を見て、

「いやいやいや、そんなに簡単じゃないでしょ?家族が変わったって本人が変わらなきゃ意味ないでしょ?」

と、本気で思っていました。

しかし、アルコール依存症の臨床に携わり、様々な患者さんを診療していくにつれ、この言葉の真実味が重さを増して行くのを感じました。

家族が変われば本人は変わる!

家族の方が「どう変われば」本人が変わるのでしょうか?

そのためのキーワードとして「イネイブリング」という言葉があります。

「~できるようにする」の意味のenableにingをつけた造語ですが、アルコール依存症の分野では「本人がアルコールを飲めるような環境を整えてしまうこと」というニュアンスで使われ、「世話焼き行為」と呼ばれます。

よく行われている家族指導として、「まず、イネイブリングをやめて、本人の問題に巻き込まれないようにしましょう。」「本人が底つき体験をするまで待ちましょう。」といったようなことがあります。

どんな行為がイネイブリングに当たるか?

  • 酔いつぶれて動けない本人の代わりにお酒を買ってくる
  • お金を与えたり借金の返済をしたりする
  • 会社への休みの連絡を代わりにする
  • 酔っ払って汚した服などを洗う
  • 本人の飲んだ酒の量を逐一監視する

これらは全てイネイブリングと呼ばれる行為に当たります。

でもご家族としては、

「何とか本人に立ち直ってもらいたい。」
「何とか本人に問題を認識してもらいたい」

その一心でこれらのことを行っているはずです。決して「本人の飲酒を助けるため」に行っている訳ではないはずです。

しかし、お酒の魔力に取り憑かれてしまうと、こうしたご家族の本人のためを思った行動も、

「これだけ、家族に迷惑をかけているんだから、俺は酒をやめよう」

という方向ではなく、

「これだけ家族が助けてくれているんだから、いくらでも酒が飲めるぞ、はっはっは!」

にすり替わってしまうのです。恐ろしいですね・・・。

だからこそ、本人がアルコールでした不始末は全て本人に処理させる、というのがまず本人に問題認識のチャンスを与える上で重要、という訳なのです。

そして本人が、

「もう駄目だ、俺は・・・何とかしないといけない。」

と「底をついた時が介入のチャンス」という訳です。

底つき体験が依存症治療介入のチャンス!!

「底つき体験をするまで待ちましょう」

よく家族指導の現場で言われる言葉ですが、そもそも「底つき」とは何でしょうか・・・・?

先の項目でも書いたとおり、

「もう駄目だ、俺は・・・何とかしないといけない。」

と、本人が思った時というのが本来の意味なのですが、この言葉への解釈は結構人によって違っていて多くの場合、

「本人が肝硬変や肝癌など、身体的に蝕まれて、経済的にも社会的にも生活も破綻して、飲酒をすること自体も苦しくなるような、周りから見てどう見ても限界だと思われるような状態。」

と、いうような解釈になっていたりするのですよね。

でも、実はそうなった状態では遅いことも多いようです。

そもそも、そのような状態になってしまっていると認知症症状も進んでしまって、お酒を止めるということ自体が理解できない状態になっていることも多いですし、「周りから見てどう見ても限界」の状況になっていてすら飲酒欲求は本人に容赦なく襲いかかります。

家族相談にまずは行くべし!

底つきの「底」を少しでも上げて、本人を早く治療につなげられる為に、ご家族の皆様ができることを一つ、「まずは家族相談に行ってみましょう。」

実は上で書いたような指導はそれぞれの都道府県の精神保健福祉センターや保健所などでのアルコール問題家族相談では行われています。

また、以前に紹介した自助グループ(コチラ)でも酒害相談というのをやっているところが多いですので、そちらにまずは相談してみるというのもありでしょう。

どちらにしても、まずはご本人の問題をご家族が抱え込んでしまっている状況、そしてその辛い気持ちというのを吐き出し、ご家族が楽になることが大事です。

実際、ご家族が相談につながったことで、本人の酒害に悩まされている気持ちを外で吐き出して本人に対してぶつけずに済む状態になったことで、ご家族が本人の状態を冷静に見られるようになり、本人が

「もう無理だ、助けてくれ・・・。」
「じゃ、治療にいきましょ♪」

と、言う形ですんなりつながった例も数多く存在します。

一度の相談で全てを解決しようとせず、何度も足を運んでみること、これも本当に大事なんですね。

Dr.GDr.G

ちなみに、僕の経験では、県の家族相談につながった方の46%が最終的に通院につながったというデータが残っています。この数字を高いとみるか、低いとみるか・・・!?

でも、相談に行くだけなら損はないと見て良さそうです。

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