このコンテンツは医学論文データベース「PubMedパブメド」とわたくし医師個人の経験をもとに、正しい情報をわかりやすく解説することをモットーにしています。
アルコール依存症と内科医

Dr.GDr.G

皆様は、「アルコール依存症」は何科のお医者さんがる病気だと思いますか?

「そりゃあ精神科が診る病気でしょ!」ってツッコミが入りそうですが、実際のところアルコール依存症の治療を行っていく上で、アルコール多飲により起きた身体合併症(肝硬変かんこうへん膵炎すいえん食道静脈瘤しょくどうじょうみゃくりゅう、糖尿病、高血圧、アルコール性脳症など)の治療と内科とは切っても切り離せないものがありますし、最初に多くのアルコール依存症の方が受診するのは実際に内科だと言われています。

そこで肝機能などの異常を指摘され、それでもお酒がやめられないということを繰り返して始めて精神科にやっとつながるということが珍しくないのです。


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内科医からみたアルコール依存症

僕の前任の病院では、身体合併症を抱えて入院してくる方も多かったのですが、必ず入院時の検査を内科の先生に診てもらい、コントロール困難な方に関しては併診へいしんという形を取って頂いていました。

そんな中、内科医の先生(当時の病院の院長先生でした)に糖尿病の血糖コントロールをお願いしていた患者さんが夜中に高血糖を起こすということがありました。

その時に当直して対応した別の内科医の先生がこんなことを言っていました。

内科医内科医

僕は、アル中は内科の医者が診るべきだと思う。

精神科の医者なんて、内科の病気をほとんど知らないし、治療だってできないじゃないか。

大体、酒をやめられないっていうけど、内科の病気を良く知っている内科の医師がちゃんと危機感を持って『あなたは肝硬変だからやめなさい。これ以上飲んだら死ぬぞ。』と警告すれば酒をやめるものだよ。

精神科医の警告や注意の仕方が甘いんだよ。

Dr.GDr.G

この言葉をどう受け取りますか?

この先生の言うとおりだ、アル中は内科が診るべきだと思いますか?

それとも、この先生はアルコール依存症を全く理解していない!

いかに内科の知識がある医師が説明したところで、飲酒をやめられないところに「病気」の深い根っこがあると思いますか?

この言葉を聞いたとき、僕の中に浮かんだ感情としてはただただ反感だけでしたし、言い方からして夜遅くに当直で寝ていたところを起こされたことを当たり散らしたかっただけかのように思われましたが、よくよく振り返って考えてみるとただの嫌味と受け取ってしまうには勿体ない、とても重要な問題が含まれているということに気付きました。
    
内科の先生は、身体的な合併症の症状・予後よご(その後の経過のこと)・治療に対しての知識、そしてそれを治療するノウハウを持っています。

だからこそ、長年の飲酒によって肝臓を悪くした患者さんが来た時に、「アルコールは肝臓を障害します。あなたはこれ以上飲んだら肝硬変と呼ばれる病気になります。肝硬変になると・・・・・(以下略)だからこそ、これ以上飲んではいけないのです。」という説明を専門的な知識に基づいてすることができます。

内科の先生からしたら、

内科医内科医

治療のための生活指導をきちんとした!

当然患者さんは治りたいと思っているはずだから、それを本来は聞くはず!

聞かないということは治りたくないということだ!

という考えに至るのは自然です。断酒の生活指導を守らず、二度、三度と救急搬送 されてくる、ということがあればより一層そういう考えに至るでしょう。

逆に、アルコールをやめられない依存の根っこにある生きづらさアルコールでしか紛らわせない問題がどういうところにあって、その患者さんが今後断酒していくためにはどういった環境調整が必要で・・・といったところに寄り添うことに関しては精神科医が得意とするところです。

両方を完全に出来る医師であればベストなのかもしれませんが、現実問題としてなかなかそれを治療に携わる医師全員に求めるのは厳しいものがあります。

僕も、元々精神科の専門でしたが、アルコール臨床に本格的に携わるようになって、少なくともアルコールの合併症で頻度の高い肝臓の病気については、学生時代に使っていた教科書なども引っ張り出して再度勉強しました。

とはいえ、さすがに自分だけでは身体合併症のコントロールは全員分出来ないので、実際には内科の先生にお願いしている状況でしたけどね。

更に前の病院では夜間・休日の検査体制が血液検査、レントゲンや超音波などの画像検査も含めて何もできない、モニターですら精神科病棟では思うように使えない、という状況でしたので、そもそも身体的なリスクが高い方については一度内科の総合病院にお願いしてある程度治療してもらってから転院という形を取ったりもしていました。

内科医の先生からしても、「いくら体に悪いことが起こっていても飲酒を続けてしまうアルコール依存症特有の心理」というのはなかなか実感できないところも大きいのかもしれませんし、実際に身体的な治療やケアを行いながら、そこまで説明したり指導したりするのは困難なのかもしれません。

内科と精神科の連携体制

そう考えると現実的なのは、「内科と連携して身体合併症も含めて総合的に治療していく体制」というところでしょうか。

そして、この「連携」の中には、「内科の先生が患者さんにアルコールの問題がありそうということを早めにキャッチし早めに専門病院に紹介できる体制」、もっと言ってしまえば「専門病院に紹介してつなげられるまでの間、困っているご家族を家族相談に案内したり出来る体制」までを含め、そのような体制が出来ればいいのにと臨床をやっていて感じたことも多かったです。

もちろん、そのように理解して下さっている病院も多くありましたが、中には明らかにアルコール性肝硬変の患者さんに対し、「お酒は控えなさい!」というだけで、結局ずるずると進行していってしまったという事例もありました。

内科の先生としては、普通に生活指導のつもりで言った「お酒を控えなさい!」が、家族から「もうお酒をやめて!!」と言われて肩身の狭い思いをしている患者さんにとっては、「先生は少しだったらお酒を飲んでもいいと言った!!」という飲酒を続けるための理論的な裏づけが出来てしまうのですよね。

前任の病院で、何人か初期研修医の先生の研修も受け入れていましたが、アルコール外来を見学に来た先生達に毎回説明していたのはこんな話でした。

Dr.GDr.G

(研修医の)先生がどんな科に行ったとしても、多分アルコールに問題がある患者さんと接する機会は絶対あると思います。

「研修の中で依存症をどうやって早めにキャッチして専門病院につなげるか」というところを身につけてもらえると嬉しいです。

例えば、何度もアルコール性の膵炎で救急外来に運ばれてきている患者さんがいて、治療後にご家族から「この人は今治って退院させるとまた飲酒してしまうんです。どうしたらいいですか?」などと言われた時に、『保健所や精神保健福祉センターというところに家族相談というものがあります。

まずはご家族だけでも繋がってみてはいかがですか?』とアドバイスしてあげられればベストです。

残念なことに、アルコールの臨床に携わりたいという研修医の先生はいませんでしたが、それでも精神保健福祉センターで出しているアルコールの小冊子を紹介して、ご家族へのアドバイスと一緒に渡してあげることは指導させて頂きました。

あの当時の体制だと、保健所や精神保健福祉センターの家族相談につながったケースの46%が実際に治療につながり、そのうちの45%が完全断酒に至っていたので、それだけでも十分な対策になり得たのです。

単純計算として、「ご家族が家族相談につながる」という簡単な行動を取るだけで、最終的にその20.7%が完全断酒に至る、ということなのですから。

まとめ

結局のところ、「アルコール依存症は何科が診るべきか?」という問題の答えとしては、「内科と精神科が連携して診るべき。」という月並みなものに落ち着いてしまいそうです。

実際はその「連携」の内容が大事で、内科と精神科がお互いの患者さんに対しての立場の違いを理解し合い、そして依存症そのものの病態については同じ知識を共有できることが大事なのかなと思います。

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