Dr.GDr.G

アルコール依存症専門治療病棟担当になった当時のこと、その後スタッフとどのように協力体制を築いて行ったかということについて書いていこうかと思います。

アルコール依存症の専門治療を任されたのは、ちょうど震災のすぐ後の時期でした。

それまでも精神科の後期研修の形でずっと勤務しながら、アルコールの臨床「にも」自身の精神科医としての勉強のために関わっていたのですが、震災の時期にちょうど今まで前の病院でアルコール依存症の専門治療に長いこと携わってきた先生が病院を去ることになり、結局他にその代わりが出来る人がいないとのことで、僕にその役割が回ってきた、という形でした。

今までアルコールの臨床にも関わっていたとはいえかなり重い役回りでしたが、アルコール重度加算を満たすための医師研修に行って病院実習にも行ってきた辺りから

「他の病院ではこんなことをやっているのか。」
「こんなことがうちの病院でも出来たらいいな。」

ということが何となく自分の中で形づくられつつあるのを感じました。


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行動が変わるときどんなステージを経験するか

両腕を伊上げる男性
その中で一番衝撃を受けたのが「変化のステージモデル」の概念でした。

1980年代に禁煙の研究からできたもので、「行動変容のステージモデル」とも呼ばれます。

簡単に言うと、人が行動を変える場合(例えば今まで飲んでいたお酒をやめる、など。)、無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期の5つのステージを通る、というもので、この理論をアルコール依存症の臨床の中でよくある「否認」に対しての我々のアプローチとして応用する方法について、研修会の中でやっていました。

  1. ①無関心期

    行動を変えようとは思っていない時期

  2. ②関心期

    行動を変える必要性は何となく感じているが、行動に移せていない時期

  3. ③準備期

    行動を変えようとして自分なりに行動しようとする時期

  4. ④実行期

    行動を変えて6ヶ月以内の時期

  5. ⑤維持期

    行動を変えて6ヶ月以上、段々安定しつつある時期

この考え方は、自分がアルコール依存症病棟の担当になってまず初めにスタッフ間で共有するようにしたので、ここでもご紹介したいと思います。

無関心期

行動を変えようとは思っていない時期(「自分はお酒を飲んでいても何の問題もない」)

いわゆるバリバリの否認の時期ですね。この時期については、起こっている問題そのものを認めないことも多いので、まずは起こっている問題を自分で認められるような状況に持って行くことが大事になります。

以前にご家族の接し方というところの項で書いたように、本人を変えようとするより、周りの環境を変えてみるということも有力です。重要なのは、本人に無理やり問題を認めさせようとしたり、やめさせようとしたりするのは逆効果になりかねないということです。まずは次の関心期に移れることを目指します。

関心期

行動を変える必要性は何となく感じているが、行動に移せていない時期(「自分はアルコールで問題があるかもしれないが、依存症とまではいえない。」)
バリバリの否認を脱し、少しずつ自分の問題を認め始めていますが、お酒を止めて欲しい家族からしたら、まだまだもどかしい時期です。

しかし、バリバリの否認から脱することが出来ている時期なので、まずはその変化をしっかりポジティブに評価してあげることが大事です。
更に、本人への提案が入りやすくなっている時期でもありますので、「このまま行動を変えないとまずい」という認識が出来る方向へさりげなく誘導できるようなアプローチが出来るとベストです。
次の準備期に入れることを目指します。

準備期

行動を変えようとして自分なりに行動しようとする時期。(「自分でお酒をやめようとトライしてみたいけど自信がない。」)
自分のアルコール問題については認め、アルコールをやめる必要性を感じ始め、やめるためにはどうしたらいいだろうと考え始める時期です。

一方でやめたらお酒の代わりに何を発散材料にすればいいんだろうと悩む時期でもあります。
このような時期に、やめられるための方法を一緒に考えたり、まずそこまで変われたことを評価したりして、少しずつ断酒するための準備を進めていきます。
この頃になると、自助グループへの参加を勧めていくのも重要です。

ただし、自助グループに実際参加することには抵抗を示す場合も多いですが・・・

実行期

行動を変えて6ヶ月以内の時期。

実際に断酒を始めてから6ヶ月以内の時期で、まだまだ実際には不安定な時期です。

段々と自信を持ち始めて、時に「もうこれだけやめたのだから少しくらい大丈夫だろう。」という飲酒欲求が出始めてくる時期でもありますので、油断せずに断酒継続につながる行動を続けながら何とか断酒のモチベーションを維持できるようにサポートしてあげることが必要な時期です。

維持期

断酒して6ヶ月以上が経ち、段々と安定してくる時期です。

この頃になると自助グループでも中心的な役割を担うようになったり、新たなアルコール依存症の方々に対してアドバイスをしてあげるような立場になったりする時期でもあります。
この時期にも油断せずに断酒のモチベーションを維持できるようなサポート、ステージを逆戻りしないようにするサポートが望ましい時期です。

行動変容のステージをスタッフと共有する

この5つのステージに分け、患者さんの今いるステージに応じたアプローチを全てのスタッフで共有してチームでケアに当たる、そんな体制が作れたらいいなと思い、僕がアルコール病棟の病棟長になった時にはまずこの行動変容のステージモデルをスタッフで共有することにしたのです。

長年前の病院に勤めてきたアルコール専門医の先輩の先生が病院を去り、僕が中心となってアルコール病棟及び専門外来を運営していくことになりました。

ノウハウをある程度でも知っている医師は僕一人という状況だけど、まだ精神科の臨床の経験ですらもやっと積めてきたかな、という中での大役になりました。

アルコール依存症の入院治療は、久里浜方式と呼ばれるプログラムに則っており、

  • 急性期の治療から断酒教育
  • ミーティング
  • 認知行動療法的アプローチ

以上を行う3ヶ月の入院プログラムで行われていました。

アルコール依存症の患者さんの中には、アルコールさえやめれば普通の方という人も多く、体内からアルコールが抜けた段階で「もう、自分はプログラムなんてやらなくてもいい。もうお酒は懲りたから退院させて欲しい。」という方もたくさんいましたし、外泊訓練中にお酒を飲んで帰ってくる方、病院内は集団生活なのでその集団生活の中でのトラブルがある方、入院中に身体状態が急変する方など、色々な方々がいました。

アルコール依存症の初診外来、再診外来も一人で回さざるを得ない(病棟もそういう状況なので、当然外来も毎日色々なことが起こります)状況で、さらに病棟からもこうしたトラブルで絶え間なくコールがかかってきました。

自分自身も未熟なのに指導してくれるような先生もいない中、「どうしたらこの状況は回るんだ・・?」とかなり悩んでいました。

そんな時に、心強かったのが、元々アルコール病棟で働いていた看護スタッフの方々でした。
彼らはそうした患者さんとの接し方には今までの中で慣れていましたので、僕自身がどうしても判断できない時など、何度もアドバイスを頂きました。
最初は、こうしたスタッフの意見がないと、正直言って自分だけではどうしようもありませんでした。

でも、自分だけではどうしようもなかった、自分が病棟をまとめるにはあまりにも未熟過ぎたことが、逆に色々なスタッフの意見をしっかり聞くことにつながり、どのスタッフも意見を出し合える雰囲気になり、段々と「チーム」が出来上がることにつながっていったと思っています。

更にここに心理士、ソーシャルワーカー、栄養士がチームとして加わり、毎週一度集まって入院患者さん一人ひとりについて、それぞれの職種がどうアプローチして行くのかを自由に話し合うカンファレンスを開くようになりました

アルコール病棟カンファレンス

カンファランス

例えば、入院してきたけど、「俺は家族に言われたから仕方なく入院しているだけで、別に酒やめるつもりもない。早く退院させて欲しい。」と主張している患者さんの場合、こんな感じの話し合いになります。

看護師K子看護師K子

私が、この患者さんの担当看護師なのですが、このまま退院したら多分間違いなく飲んでしまうと思うんです。どのように接していったらいいと思いますか?

Dr.GDr.G

今、この患者さんは変化のステージモデルで言うと、どの辺にいるでしょうかね?

看護師K子看護師K子

間違いなく無関心期だと思います。全く、自分のお酒の問題を認めようとしていませんし、ご家族に対して色々迷惑をかけていることに対しても内省が見られていないんですよ?

看護師B男看護師B男

でも、この間、私が夜勤のときに、この患者さん、『俺、本当は不安なんだよ。これ以上飲んだら肝硬変って言われたけど、肝硬変って治るのか?何とか酒を減らせば肝硬変にならなくてすむのかな・・・?』って言ってましたよ?無関心期に見えて、実は関心期と無関心期の間で揺れ動いているんじゃないのでしょうか?

Dr.GDr.G

だとすれば、ご本人が不安に感じていることをまず拾ってあげて、その不安を解決していくためにはどうしたらよいか、そこから『自分のアルコールの飲み方は問題かもしれない。何とかしないと。』という認識に持って行くことが出来れば、プログラムを継続してくれそうかもしれませんね。

臨床心理士臨床心理士

院内の家族会でこの方の奥さんがお話していたけど、本当にご本人のことではご苦労されていて、まだまだ傷が癒えないみたい・・・。多分このままご本人が帰ったとしたら奥さんも不安で仕方ないのではないかしら・・・?何か奥さんの認識とご本人の認識とをうまくすり合わせることは出来ないかしらね・・・?

ソーシャルワーカーソーシャルワーカー

入院前の状況では徘徊したり、物忘れがあったりと認知症症状と思われる様子もあったようで(アルコールの影響だけでもこういった状況はありますが)、今後の状況によっては介護サービスの利用なども検討していかなくてはいけないかもしれませんね。

Dr.GDr.G

そうしたら、一度ご家族、担当看護師、ソーシャルワーカーで面談を開いて、まずはご本人、ご家族の意見をすり合わせる機会を作ってみましょうか。その上で、どうやってアプローチしていけばよさそうか、考えましょう。

基本、それぞれのカンファレンス参加者が言いたいことを自由に言い合う方式になっていますので長くなることもありますがその分、

  • 医師側がどういう治療方針で考えているのか
  • 看護側が何を考えてどのように病棟でその患者さんに接しているか
  • 退院した後に患者さんを取り巻く環境で何が出来るか

といったことが段々回を重ねるごとにクリアになっていきます。

もちろん、この方法も本当に色々な試行錯誤を重ねながらだったので、最初の頃はただ時間だけ長くなってしまったり、お互いの苦労話のぶつけ合いみたいになってしまったり、ということもありました。

でも、少なくとも多職種間の風通しはかなり良くなったと思いますし、患者さんのケアに当たる全員が目的を共有できる体制は作れたと思っています。

ほとんど苦労話になってしまいましたが、「病棟の裏側ってこうなっているんだ。」と思って頂ければと思います。

アルコール専門外来の立ち上げ

アルコール病棟の担当になると同時にアルコールの専門外来も全て任されることになり、外来と病棟の両方を一人の医師で回さなければならない事態となったのですが、これもかなり大変な状況でした。

前任の先生から、「何とか週に5人位新患受けられて、新しい先生が来るまで維持できれば大丈夫だよ。」と言われていたので、週3回の外来で2人―1人―2人という枠を作って診ていく形を作ったのですが、県内でほとんど唯一のアルコール専門病院であったため、当然その数ではまかない切れない位の問い合わせがありました。

とはいえ、個性派揃いのアルコール病棟を回しながら、ひっきりなしに来る外来の再診を回しつつ、どんどん増える新規の患者さんに一人の医師だけで対応していくのは限界がありました。

他の医師に頼もうにもそれぞれの分野の外来や病棟業務でいっぱいいっぱいだったので、協力要請も出来ない状況でした。

そんな状況では昼食を取ることもままならなかったので、患者さん用の濃厚流動食(紙パックに入った手軽に飲めるもの)が僕の食事でしたが、このような状況に対して協力を申し出てくれたのがアルコールを担当してくれているソーシャルワーカーの人達でした。

アルコール外来の初診は実際にやってみると分かるのですが、本当に大変です。

通常の精神科の初診であっても時間はじっくりかけて聞くのですが、アルコール外来の場合、通常の精神科的な問診の他、酒歴、アルコールで起こっている問題の内容、今やっている家族の対応など、聞くことだけでも多岐にわたり、更にそれを聴取した上で、アルコール依存症の疾患教育まである程度しつつ、治療について説明しつつその治療を提案していかなければなりません。

ご本人もしらふでアルコールについての問題を認めてくれていればそれでも楽なのですが、実際は否認していることも多く、問診の途中でも、

pt♂

俺はそんなに飲んじゃいねえよ!!

Pt

うそよ!!あなた、本当にひどいじゃない!?先生、この 人の言うことはうそです!!何とか先生の方から「酒をやめなさい」って強く言って下さい!!

pt♂

そうやって、俺をアル中にしようとしやがって!!

なんて、言い争いが起こって長引くことも数知れずという状況です(3~4時間くらいかかることもありました)。
最初の頃は僕自身、「否認」についても十分理解していなかったので、問題を認めようとしない患者さんと言い争いになってしまうことも数知れず・・・・(本当にあの時は未熟でしたね・・・)。

そんな状況を見かねてソーシャルワーカーの人達が初診の患者さんが来たときにまず医師の本診察の前の予診という形で対応することを申し出てくれました。

今の状況ではどうやっても回らないことが分かり切っていたので、思い切ってお願いすることにしました。

予診というワンクッションが入ることで、まずご家族の気持ちが本診察の前に吐き出され、更にある程度の情報はこの予診のうちに聴取できます。

最初のうちは予診だけだったのですが、そのうち何度も改良を重ねて行って、アルコール依存症の一般論の疾患教育をしつつ情報を聴取するという方法論まで何とか出来上がり、本診察の時間を短縮、その分病棟の業務に時間を割けるようになりました。

更に、変化のステージモデルについて共有できた後は、予診の段階で本人が今どのステージにいるのか(無関心期、関心期、準備期、実行期etc)までソーシャルワーカーの人達が書いてくれるようになったので、本診察では、その情報に合わせて患者さん本人に対してそのステージに応じた提案を出来るようになっていきました。

例えば患者さん自身が無関心期だという情報があったらこんな感じ。

Dr.GDr.G

〇〇さん、こんにちは。今日は遠くから連れてこられちゃって大変でしたね。

pt♂

・・・・・まあ。

Dr.GDr.G

奥様にだいぶ怒られちゃいましたか?こんな遠くの病院に連れてこられて、アルコールの耳が痛い話なんか聞かされて大変でしたよね?でも、本当に良く来てくれました。

pt♂

はあ・・・そうですか。

Dr.GDr.G

多くの方は、ご家族の方からいくら説得されたとしても『俺は絶対に病気じゃない!!精神病院なんか行くもんか!!』って言って病院に頑として行かないんですよ。でも、〇〇さんは嫌々であったにしても今回素直に病院に来られましたよね?何か〇〇さん自身もお困りだったんですか?

pt♂

ん?妻がうるさかったんだよ。行かないと離婚するって。

Dr.GDr.G

そうですか・・・・。奥様に離婚されたら大変だって思ったんですね?

pt♂

そりゃそうだろ。うちのがいなくなったら飯とか・・・・・・。

Dr.GDr.G

そうですよね。色々大変ですよね。じゃあ、奥様に離婚されないようにするにはどうしたらいいか、一緒に考えてみましょうか?

もちろん、こういう感じでうまくいくパターンばかりではありませんが、それでも前に一人だけで抱えていたときとは本当に雲泥の差でした。

予診の時点でアルコールの「否認」についてもソーシャルワーカーからご家族に説明がある状況なので、本診察でご本人が何を言ったとしてもある程度受け入れる用意がある状況というのは本当に助かりました。

このような体制が出来たことにより、週5人→最大9人くらいまで初診枠ができ、しかも実際に本診察に入る前には病棟の業務に当たる余裕も出来たので、かなり業務を回しやすくなり、更に本診察の中でも余裕を持って患者さんに接することが出来るようになりました。

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