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抗酒剤(ノックビン・シアナマイド)は家族のための薬【アルコール依存症薬物療法のすべて】

このコンテンツは医学論文データベース「PubMedパブメド」とわたくし医師個人の経験をもとに、正しい情報をわかりやすく解説することをモットーにしています。
抗酒剤(ノックビン・シアナマイド)は家族のための薬【アルコール依存症薬物療法のすべて】
Dr.G
抗酒剤と呼ばれるノックビンシアナマイドについてのことを説明しましょう!
アルコール依存症関連の内服薬ですが、断酒補助剤のレグテクトとは全く異なる薬なので、断酒補助剤との違いを知りたい場合は以下を参照ください。


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抗酒剤(ノックビン・シアナマイド)について

抗酒薬はどんな薬か?

抗酒剤には、ノックビン(ジスルフィラム)という粉のお薬とシアナマイド(シアナミド)という液体のお薬があります。

<抗酒剤>

  • ノックビン®(ジスルフィラム)
  • シアナマイド®(シアナミド)

アルコール依存症の治療薬として長い間使われてきた薬ですが、正確に言うと治療薬ではありません

実際は「お酒に弱い体質を作り出すことによって、お酒を飲むとひどい目に遭う状態にし、もう酒なんてこりごりだ・・・。」と恐怖心を植えつけるお薬です。

西遊記の悟空の状態です。

どうやってお酒に弱い体質を作り出すのか?

肝臓にあるアルデヒド脱水素酵素の働きを邪魔することで、アルコール→アセトアルデヒド→酢酸という経路で起こる代謝をアセトアルデヒドの状態でストップします。

<アルコールの代謝と抗酒剤の作用>
アルコール → アセトアルデヒド↑ → 酢酸

アセトアルデヒドは体にとって有害な中毒物質で、この作用によって動悸・嘔気・嘔吐・頭痛などの不快な悪酔い症状の他、時に意識障害を引き起こすこともあります。

要は急性アルコール中毒と同じような症状が、少量のお酒を飲んだだけでも起こってしまうというお薬な訳です。

抗酒剤自体はアルコールを専門としている病院でなくても処方されることがあり、よく「お酒を嫌いになるお薬だよ。」という説明がなされているようですが、作用や危険性についてしっかり説明しないと飲酒してしまって救急車で運ばれた末に死亡ということにもなりかねません。

たまに、本人が全くやめる気がないからと、抗酒剤をこっそり本人の味噌汁などに混ぜるという使い方をする方もいますが、これは危険ですし、ご本人の治療にも全くつながらないので絶対にやめましょう。

  • 抗酒剤(ノックビン・シアナマイド)をこっそり混ぜるは危険です。
  • こっそり投与は治療効果もありません

それよりは、ちゃんと家族相談につながった方がよほど有益です。

抗酒剤の添付文書には、用法用量を決める際に、飲酒試験(平常の酒量の1/10以下を飲んでもらって抗酒剤の効果を確認する)を行うようにということが書かれていますが、特に行ってはいませんでした。
他の病院のお話なども聞きましたが、聞いた限りでは今では危険性の方が高いのであまり行っていないようですね。
少量とはいえ、試験で死亡のリスクはある訳ですから、やらない方が良いのかもしれません。

むしろ、服用した後の血液検査などをしっかりやってモニターすることの方が大事かと思われます。

抗酒剤(ノックビン・シアナマイド)の副作用

副作用としては、眠気、皮疹、頭痛、倦怠感などがありますが、実際のところ臨床で使っていた限りでは、薬自体の副作用というより、食品などに含まれる微量なアルコール分と反応して起きたものも数多くあると思われます。

他には、長期連用によって肝障害を起こすことがあり、ノックビンの方では劇症肝炎となった症例も存在するようです。(学会で聞いたお話ですが、実はノックビンで出現した劇症肝炎の事例は、ノックビンを服用しながら陰でこっそり飲酒していた事例だったそうで・・・・。)

抗酒剤には肝障害の危険性があるとはいえ、アルコールを飲むよりは遥かにマシです。

実際に治療で使う場合ご本人の現在の肝障害の程度と、飲酒の状況とを照らし合わせて抗酒剤を飲むことによって飲酒への歯止めとなるメリットの方が、抗酒剤で起こる肝障害のデメリットを上回ると判断される場合に本人・ご家族に十分説明の上、血液検査を定期的に行いながら使う、というのが一番適切な使い方になるでしょう。

  • 抗酒剤は肝障害の程度によっては使用します
  • 断酒に結び付けた方が肝機能にとってもいいかもしれない

抗酒剤:ノックビンとシアナマイドの違い

ノックビンとシアナマイドの違いとしては、粉薬と液体という違いがある他、作用時間の面で違いがあります。ノックビンが服用から十分な効果発現までに3日~1週間かかるのに対し、シアナマイドは数分で現れます。
逆に持続時間については、ノックビンが服用をやめてからも2週間程度効果が持続するのに対し、シアナマイドでは12~24時間しか持ちません。

抗酒剤 薬物の形態 効果が出るまでの時間 作用持続時間
ノックビン 粉末 3日-1週間 -2週間
シアナマイド 液剤 数分 12-24時間

このようなそれぞれの特性があるので、あとはご本人やご家族の状況に応じてどちらを選択するか話し合って決める、というのが前任の病院でのやり方でした。

GABA受容体に作用して飲酒欲求を抑制するレグテクトがアルコール依存症治療の場で広く使われるようになり、専門治療の現場では抗酒剤のような強制的に嫌いにならせるような方法は不適切なのではないかという考え方も出てきているようですが、前任の病院では抗酒剤とレグテクトは併用して使うことを推奨していました

抗酒剤とレグテクトは併用することもある

抗酒剤やレグテクトを飲むことは家族へのケアのため

そもそもアルコール依存症の再飲酒率は非常に高いので基本的に再飲酒の歯止めになるものは全て使った方が良いということがありますが、薬を使う一番大きな理由は、家族へのケアの為です。

飲むのは本人なのに家族へのケアとは?と思うかもしれませんが、ここで治療を始めた本人の家族の気持ちを考えてみましょう。

今まで、何度も本人から「もう酒はやめるよ。」ということを聞いて裏切られてということを繰り返してきている中で、本人からの「今度こそお酒をやめるよ。」という言葉を信用できるでしょうか?
もちろん、信じたい気持ちはあるでしょうが、実際のところは、「また飲んでしまうのではないか?」という不安を持つ家族がほとんどだと思います。
それでも、普段平穏な時は応援してあげる気持ちを維持できるかもしれませんが、例えば、本人と言い争いになってしまったときはどうでしょう?
アルコールがらみの原因でなかったとしても、日常の中で喧嘩になることは有りうるわけですし、本人も当然人間ですから、お酒が入っていなくても怒ることはあります。

しかし、その状況を家族が見た時、本人が実際には飲んでいなかったとしても「また実は飲んでいるんじゃないか?」と不安に思うのは当然の心情なのではないかと思うわけです。
思うだけでなく、「あなた、ひょっとしてお酒飲んでいるんじゃないの!?」とご本人にぶつけてしまったとしたらどうでしょう?
必死で飲酒欲求に耐えながら本当にちゃんと断酒を続けていた本人にとっては、「何だよ、信じてくれないならもう飲んでやるよ!!」ってなってしまいそうだと思いませんか?

実際にそういう形で再飲酒に至った事例は数多くあります。実は、アルコールの問題に本人や家族が巻き込まれていく中で、お互いの信頼関係が失われている場合が多く、その回復にはとても時間がかかってしまう訳です。
そこで、抗酒剤先生の登場です。

本人が「もう、絶対に、100%飲まない、絶対に飲まないって約束する!!契約書にもサインする!!」ということをいくら言うよりも信頼回復に効果があるのが

「俺、ちゃんと毎日抗酒剤飲むよ。」なのです。

どういうことかというと、先ほど、家族の方が本人の再飲酒に対しての不安をずっと持っているということを書きましたが、もし本人が抗酒剤を飲んでいる場合、再飲酒したらすぐに分かるため(中には効かない方もいるのですが・・・(汗)、家族が抗酒剤の内服さえ確認していれば、常に目くじらを立てなくて済むという訳です。

抗酒剤を処方し、家族と本人に対して説明する際に「ご家族の目の前で飲んでください。」ということで、一応物理的にでも信頼関係が出来ます。

逆にご家族の目の前で飲まなくなったりごまかすようになったりしたら、危険信号ということになります。

前任の病院では「ご家族の目の前で飲むように習慣づけましょう。」までしか指導していなかったのですが、実際に目の前で飲んだ振りをして後からこっそり吐き出すこともあるため、他の専門病院では「ご家族は目の前でご本人が抗酒剤を飲むのを確認した後に何か会話して下さい。ちゃんと飲み込んでもらう目的も含んでいます。」と説明しているところもあるようで、ここまで出来ていたら良かったなと今さらながら思います。

 

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