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レグテクト(アカンプロセート)は断酒できる魔法の薬?【アルコール依存症】

このコンテンツは医学論文データベース「PubMedパブメド」とわたくし医師個人の経験をもとに、正しい情報をわかりやすく解説することをモットーにしています。
レグテクト(アカンプロセート)は断酒できる魔法の薬?【アルコール依存症】

2013年5月27日、日本新薬より飲酒欲求を抑える薬としてアカンプロセート(商品名:レグテクト)という薬が発売されました。
ここでは抗酒剤とは違うアルコール依存症治療のための補助のお薬「レグテクト」について説明したいと思います。


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アルコール依存症の薬物療法(断酒補助剤:レグテクト®<アカンプロセート>)

今までのアルコール依存症の治療の中では、抗酒剤(商品名:ノックビン、シアナマイド)と呼ばれる、お酒に弱い体質を作り出すお薬でお酒に対しての恐怖心を植えつけることで断酒に持って行くお薬しか選択肢がなく、我々アルコール病棟のスタッフチームの間でも非常に注目されていましたし、患者さんからも「いつ発売になるのかな?」と聞かれることがありました。

ちょうど僕は発売の時期、アルコール病棟の運営に段々と慣れてきた頃で、患者さんを断酒させることの困難さを嫌というほど感じていました(この頃だと全体断酒率は30%足らずだったのではないかと思います。)。
当然、この薬の発売には注目していました。
その一方で、「本当にそんなに飲酒欲求がこのお薬で軽減されるのか・・・・?」という疑問も強く感じていました。
    
そのような中、日本新薬の営業の方が発売直前のレグテクトの情報提供の目的で病院に来られました。
このお薬に限らず、様々なお薬が次々と発売になる訳ですが、当然我々医師もうまくその情報を仕入れて対応して行かなくてはなりませんので、こうした製薬会社の方との面会は情報を仕入れる数少ない手段となります(とはいえ、向こうも自社の薬の売り込み目的ではあるのですが)。

他の先生方は昼休憩や午後の外来の空いた時間にそういった面会を病院で行っていたようですが、僕の場合、業務時間中は本当に全く息がつけない状況だったので、こうした機会はまずなく(皮肉なことに病院を止める数ヶ月前辺りからその時間が出来ましたけど)、幸い日本新薬の営業所がちょうど 自宅の近くだったので、仕事後にその営業所に寄ることで情報を仕入れることになりました。

そしてそれはレグテクトが発売されて実際に臨床に運用されてからも続きました。

レグテクトの効果と用法・用量

まず見せられたのはプラセボ群(レグテクトを投与していない群)との完全断酒率の差でした。

レグテクト投与群(レグテクトを飲んだ患者さん達)では完全断酒率47.2%だったのに対し、プラセボ群(偽物の薬を飲んでいた患者さん達)では36.0%、その差は11%。この数字を見た時に皆様はどう感じるでしょうか?
(※偽薬を使った治験は製薬会社によって新薬発売前に行われています。)

「たった11%?それともされど11%?」

Dr.G
ところでプラセボという言葉がでてきましたが、新薬の研究のときになぜこのプラセボという偽薬はなぜ使うのでしょう?

それはレグテクトを飲むだけで47%の人が単純に断酒に成功するという意味ではないということを示します。

なんせ偽薬を飲んだ患者さんでも、薬(実際には砂糖??)を飲んだと思うだけで36%が断酒に成功するんですからね(プラセボ群の断酒率36%)。

でも多分アルコールの臨床に携わる人間であれば、「レグテクト VS 偽薬」の効果の差であるこの11%という数字は非常に大きいと考えると思います。
何せ、一般には3割弱しか完全断酒できない訳なのですから・・(そういう意味で偽薬での断酒率は妥当な数字というわけですね)。
この時の僕もそう考え、日本新薬の方の話を聞いていました。

錠剤そのものは結構大きくて、1錠333mg(薬価:1錠51.5円)

そして、この薬を毎食後に2錠ずつ飲むというのが用法・用量でした(副作用等により適宜減らしたりはしますが1ヶ月で3割負担でも約2595円)。

「いい薬かもしれないけど飲むのは大変そうだな・・・。それに結構飲み忘れとかありそうだな・・。」というのが第一印象でしたね。(なんせ毎食後に飲むんですから・・・)

ちなみに、投与期間は6ヶ月とのことでした。

「6ヶ月で良くなるのかな・・・?」というところも大きな疑問としてありましたが、特にそれ以上続けても問題ないとの説明を受けました。

レグテクトの副作用

そして、当然出てくる副作用のお話。
日本新薬の方のお話によると、どうやら副作用として最も頻度が高いのは下痢ということで、頻度は5%以上とのこと。
もし、下痢が出てどうしても服用継続が難しそうならまずは減量してみて下さい、とのことでした。

これを聞いた時に、漠然と
「そういえばアルコール依存症の人って、飲んでいる時には失禁してしまうほどの下痢状態になることがあるけど、断酒してすぐの人って、わりと便秘を訴える人が多かったような・・・。他にうつ病なども抱えていて便秘の副作用もある抗うつ薬や抗不安薬も飲んでいる人も多い中、むしろ逆に長所として働くこともあるのでは・・・?」
と、考えていました。
    
そのほか、頭痛や眠気、腹部膨満などが副作用として紹介されました(いずれも1%以下)。
効能と副作用を聞いた限りでは、あまりリスクが高くないけど効果がある人もいるようだから、まあまあ有効に使えるのではないか?というのが印象でした。

更に、このお薬の特性である、腎代謝である程度肝障害があっても使えるという性質が、肝障害で薬が使えないことも多いアルコール依存症の方にとっては使いやすいものになるなあと思いました。

今まで使っていた抗酒薬については、肝障害の副作用もあるため、もともと肝障害の悪化している方に対しては使えず、かといってお酒もやめられず肝障害がますます悪化していくばかり、という状況が多々あったのですが、そういった方々への有力な選択肢となり得る薬なのだなと聞いていて思いました。

しかし、その後に「頻度は不明で、本剤との因果関係も不明ですが、自殺企図、自殺念慮の報告もあります。なので、『アルコール依存症の治療に十分精通した医師が処方を行うこと。』という注意書きがあり、なかなか他の病院では採用を承諾して頂けないのが現状です。」という説明がありました。

頻度は不明、因果関係も不明ながら、自殺のリスクはある・・・端的に言うとそういうお話なのですが、元々アルコールの方は自殺が多いというのは臨床的に経験してきたことなので、単純にそのせいでは?と思ってしまっていましたが、その後、レグテクトの使用上の注意を聞いた時、ハッとしました。

<レグテクトの使用上の注意>

  1. アルコール依存症の診断は国際疾病分類等の適切な診断基準に基づき慎重に実施し、基準を満たす場合にのみ使用すること。
  2. 心理社会的治療と併用すること
  3. 断酒の意思がある患者にのみ使用すること。
  4. 離脱症状が見られる患者では離脱症状の治療が終了してから使用すること。

レグテクトの使用上の注意としては上記のものがありました。

Dr.G
この何気ない注意事項、先ほどの重大副作用の話と合わせてうまく使えるなと思ったのです。
何だかわかりますか?

そう、「心理社会的治療と併用すること」というのが、使用上の注意の中に入っているのです。

これが入っていることにより、このお薬を処方して説明する時に、「このお薬には頻度などは不明ですが、希死念慮が高まる可能性が報告されています
でも、だからこそ、このお薬だけで何とかしようとするのではなく、心理社会的治療とちゃんと併用することが大事なのです。」ということで、今まで外来の学習プログラムやミーティングに出ていなかった方々、自助グループに参加していなかった方々にそれらへの参加を促す大義名分ができたのです。

今までは、「抗酒剤・自助グループ・通院の三本柱は絶対大事だから、断酒を継続するためにはやめないようにしてくださいね。」としか言え なかったのですが、なかなか自助グループや通院プログラムにつながらない患者さんに対して、薬の副作用の怖さを伝えることで参加率を上げることに繋がったという訳です。

もちろん、これだけで自助グループには参加しない患者さんも多くいるわけですが、外来での学習会やミーティングの内容を充実させてより出席して聞いてみたくなるような対策を取ることで、実際に断酒するかどうかは別として、少なくとも「アルコール依存症の知識はしっかりと得る。自分が飲んでいる薬の効果・副作用は知っている。」状況の上で治療を進めることが出来るようになった訳です。

実際臨床で使ってみた限りではどうか、というと、ほとんどの患者さんは「あんまり飲酒欲求が下がったなあって感じはしない。」という感想を抱いていたようでした・・・。そもそも、患者さんの中には「飲酒欲求」というのを自覚していないで飲んでいる人も数多くいるのですよね・・・(汗

ただ、中には、「いやー、この薬は凄いですね。ピタッと飲酒欲求がなくなりましたよ。」という患者さんもいて、奏効する人もいるのだなあという印象でした。

中には、「いやー、あの薬いいなあ、便秘が治ったよー。(多分下痢の副作用のせいですが)」なんてことを言ってくる患者さんもいました。

まあ、その人は実際お酒をやめられた訳なのですが(笑)

実際のところの治療成績としては、レグテクト導入前には30%弱だった完全断酒率が、導入後には、全体で45%、入院治療を受けた方々の中では55%という成績に上がったので、レグテクト単独の効果がどこまでだったのかは不明ですが、結果としてはかなり大きかったのではないかと思います。

「心理社会的治療と併用すること。」という一文があったために、治療のプログラムをより一層充実させようという動きになったことも、この成果に繋がった大きな要因だったとも思いますが、実際他の病院でも4割強~5割程度の完全断酒率のデータが出ている、ということを日本新薬の方からお話で聞きました。

レグテクトと自殺の関係

自殺

ちなみに、問題になっていた自殺についてですが、レグテクトを服用していた方での自殺経験は僕の臨床経験では1例あります。

しかし、その事例は、「次にアルコールを飲んだら会社を解雇になる」という状況で再飲酒し、飲酒運転下で事故を起こしてしまい、その後に人生を悲観して自殺してしまったというものなので、レグテクトによるものかどうかは分かりません。

製薬会社の方からは、他の病院であった自殺のケースで、双極性障害を合併していて、その病状が不安定になっていたケース、末期のがんを宣告されて人生を悲観したケースを聞きましたが、いずれもレグテクト以外に要因がありそうなケースばかりでした。

まとめ<レグテクト>

結論として言うなら、レグテクトはアルコール依存症の治療薬としては、副作用も割と少なく使いやすい薬とは言えます。

しかし、単独での飲酒欲求抑制作用についてはまだまだ疑問も多く、今までの「抗酒剤・外来通院・自助グループ」という三本柱に四本目の柱が加わって、断酒の継続を「支えて行く」薬である。ということになるでしょうか。

少なくとも、飲酒欲求がピタッと止まってアルコール依存症が治ってしまうような魔法の薬ではないのは確かです。
ただ、印象としてアルコール依存症とうつ病や不安障害を合併しているケースでレグテクト服用を開始した後にうつ症状や不安症状が軽減されたということはありました。
単純に断酒率が高くなったせいもあるかもしれませんけどね。

 

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