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意思弱すぎっ!?アルコール依存症に対する4つの誤解と偏見

このコンテンツは医学論文データベース「PubMedパブメド」とわたくし医師個人の経験をもとに、正しい情報をわかりやすく解説することをモットーにしています。
意思弱すぎっ!?アルコール依存症に対する4つの誤解と偏見

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ある日の病院でのこと・・・・


Dr.G
おはようございます。
Dr.R崎
のんきにあいさつしている場合か!?
俺が昨日当直だったけど、お前の患者が再飲酒して警察沙汰を起こして昨日の夜入院になったぞ?
Dr.G
えっ?
Dr.R崎
まったく、アルコールのプログラムだか何だか知らないが、お前の教育が悪いんじゃないか?
ちゃんと医者が断酒の必要性を厳しく伝えていればやめられるものだ。
Dr.G
色々とお手数をおかけしてすみません・・・・。
Dr.R崎
入院させようとしたら、俺にまで食ってかかってきやがって。
これだからアルコールの患者は・・・。
とにかく早く行って厳しく注意してこい!

 
Dr.G病室に向かう。病室にて・・・


Dr.G
おはようございます。
患者
G先生!!俺、また飲んじゃったよ・・・・。
せっかく1年間頑張って断酒したのにこのザマだよ、情けないなあ・・・。
Dr.G
1年続いたのに残念でしたね・・・。
何がきっかけで飲んじゃったんですか?
患者
実は半年前から復職していて、しばらくは飲まないでしっかり仕事やってたんだよ。
先月ちょうど職場の忘年会があって、その時に俺は『酒は絶対に飲めません。』って断ったんだ。
Dr.G
それは素晴らしいですね。
患者
そしたら上司がこう言うんだ。

もう1年もやめているんだから、アル中治っただろ?
忘年会の時くらい飲め、それが社会の礼儀ってやつだよ。
もし飲めなかったら接待とか営業とかどうするんだ?
この先ずっと飲まないという訳には行かないだろ?
今のうちにしっかり飲んで慣れておけよ。
大丈夫、つぶれたら俺が何とかしてやるから。


患者
俺ももう大丈夫かなって思っていたこともあって、一杯だけならって飲んじゃったんだよ。
一杯飲んだら気持ち良くなっちゃって、そのまま止まらなくなって酔っ払って家に帰ったらうちのにひどく怒られてな・・・。
『次の日からやめるから許してくれ!!』って土下座して謝って、やっと許して貰ったんだ。
Dr.G
なるほど・・・
患者
次の日から仕事から帰ると、どうにもあの酒の味が忘れられなくて・・・。
一杯だけならいいやと思ってこっそりコンビニに買いに行って飲んだんだ。
その日は一杯でやめておこうと思って我慢したんだけど、次の日から段々増えていってな・・・。
Dr.G
それで奥さんに見つかったんですね?
患者
うん、そしたら妻が・・・

あの時やめるって言ったじゃない!
ホントにだらしない、意志が弱いんだから!
近所で私がなんて言われているか分かる?

『アル中の旦那さん持ってて奥さんも大変だろうけど、最近毎晩酔っ払って大声上げて迷惑かけてるんだから何とかしてよ。奥さんがちゃんと旦那さんのお酒の量を管理してあげれば大丈夫でしょ?あんなに深酒しないようにちゃんと見張ってやってよ。』って言われたのよ!

だから冷蔵庫のお酒のビンにもちゃんと印をつけてどれくらい減ったか確かめているのに、こっそり買ってくるんじゃ意味がないじゃない!!?


患者
ってこっぴどく言われたんだ。
飲んじゃったのは俺だから仕方ねえんだけど、それでも頑張って仕事で今の地位を築いてきたのに意志が弱いだのだらしないだの言われたら頭がカーってきちゃってな・・・・。
患者
それで、もうどうしていいか分からなくなって手当たり次第周りのものを壊し始めたんだ。
そうしたら近所からもいっぱい人が集まってきて俺のことを取り押さえて、それでも俺が暴れているから警察に通報されてしまって。
あとは、この通りってわけさ・・・
Dr.G
お酒を飲むという選択をしたのは御自身で、それは間違いないのですが上司の方もなかなか凄いことを言いますね。
ちゃんと僕、診断書出したんだけどなあ。
職場でなかなか病気を理解して貰えないようであれば、今後は飲み会などには一切出席しないか、もしくは何か別の対策を入院中に一緒に考えて行きましょうか?

入院している閉鎖病棟のナースステーションにて


Ns.A美
ちょっとー、G先生!
アルコールの人、何とかしてよー。
Dr.G
どうしましたか?
Ns.A美
昨日の夜ずっと入院に対して文句言いまくっていたのよ!
もう、アルコールの人っていっつもこう。
いっちょ前に偉そうに文句ばっかり言って色々要求してくるくせに、自分は結局意志弱くて飲んでるんでしょ?
平気で嘘だってつくし、ホント困るわ。
どうせ、ここで治療したって飲んじゃうんだから、もうこの病院のアルコール病棟とか閉鎖しちゃえばいいのに。
Dr.G
なるほど、対応大変だったのですね。お疲れ様です。
ところでA美さんってアルコールは飲むの?
Ns.A美
私?
私はちょっとしか飲まないわよ?
なーに、こんなところでお誘いかしら?
Dr.G
・・・。
Ns.A美
毎晩日本酒3合位よ。
友達のナースのNorinと一緒に飲むんだけどたしなむ程度よ。
ちゃんとコントロールして飲んでいるし、大丈夫よ。
Dr.G
既に純アルコール換算すると多量飲酒になっているけど・・・・?
Ns.A美
若いうちは肝臓も丈夫だから大丈夫なのよ。
それに家に帰ったら飲まないし、私はこう見えても意志が固い方なの。
だからちゃんと大学も出てこうやって看護師やっているのよ。
あんな偉そうに文句ばっかり言っているようなだらしないアル中になんて、なるはずないわ!
Dr.G
医療従事者であろうが、一流商社のサラリーマンであろうが、誰でもなりうるのがアルコール依存症という病気だよ・・・・。
A美さんも気をつけてね。

アルコール依存症の誤解と偏見

いくつかの場面を見てもらいましたが、この何気ない会話の中にもアルコール依存症への誤解や偏見の要素がたくさん含まれています。

1.厳しく注意すれば断酒できる?

まずは、R崎先生の話している場面です。


Dr.R崎
ちゃんと医者が断酒の必要性を厳しく伝えていればやめられるものだ。
とにかく早く行って厳しく注意してこい!

アルコール依存症は「お医者さんにいくら重症だと厳しく説明されたとしても、アルコールという薬物の魔力(飲酒欲求・渇望かつぼう)に取り憑かれてしまっている病気なのです。

R崎先生が言う「医者が厳しく注意すれば断酒できる」は正解ではありません。
ただ、そういった誤解は医療従事者の間にも根強く残っているのが現状です。

そもそも、医学部の講義で「アルコール依存症」について習う機会はほとんどないのです。
僕は、たまたま学生時代にダルクという薬物依存症リハビリ施設に見学に行く貴重な体験をすることが出来たので、早くから依存症特有の心理や治療の困難さについて学べました。(この辺りは「医療者であっても依存症には無力」の日記参照)

しかし、普通の医学生だと恐らく「アルコールによる臓器障害」、「アルコール依存症という病気がある」ということは習っても、実際の治療の話や症例について学ぶ機会なんてまずないと思います。

そして医学部を卒業すると、まずは初期研修と言う形で色々な診療科をまわることになります。
(漫画「ブラックジャックによろしく」のイメージです。)

その中で救急医療の研修を積むことは多くありますが、救急医療の現場では酔っぱらって運ばれてきたり、アルコールによる肝障害や膵炎すいえん、ときに肝硬変の食道静脈瘤じょうみゃくりゅうからの出血など、アルコールが関連した方々を多く目にすることになります。

彼らの中には、内科治療を受けて回復するとまたお酒を飲み始めて何度も救急車で運ばれてくる「常連」になっている人も少なくありません。
そんな患者さんの姿ばかりを見ていると、「やっぱりアルコールの人って懲りないんだな。意志がよっぽど弱いんだろう。」というイメージが確立していきます。

僕の研修医時代、救急医療の現場では「アルコール常連の患者さん」が運ばれてきた時、上級医の先生から「ホント、アル中の人達って治しても無駄だと思う。どうせ飲むんだから運ばれてこなきゃいいのに。」と言うボヤキを何度も聞いた経験があります。

救急医療に限らず、医療現場では、「アルコール」とか「依存症」というだけでも一歩引いてしまう傾向があります。
でもそんな上級医の先生が飲み会では酔って騒いでいたりするんですけどね(笑)

2.回復すれば飲酒をすすめても大丈夫?

 
次に患者さんにお酒をすすめた上司。

一般的には、アルコール依存症という病気はほとんど知られていません。
せいぜい「アルコールを飲まないと手が震えてしまう」「二日酔いで出勤する」「酔っ払って暴れる」といったイメージでしかないでしょう。


アルコール依存症の回復には、断酒の継続が絶対です。


「正月」「冠婚葬祭」「職場の忘年会」とか「少しなら飲んでもいい」は通用しません。
「アルコール依存症の治療を受けた」と聞くと、あたかも「アルコールが自分の意志でコントロールできるようになった」と解釈する人が多いのです。
お酒をすすめてしまった上司もそういう解釈をしたのでしょう。

アルコール依存症はそもそも「自分の意志でコントロールできなくなる病気」なので、ひとたびアルコールを口にしてしまえば元に戻ってしまうのです。
上司の言葉は酒の勢いで言った軽い一言だったかもしれませんが、アルコール依存症の患者さんにとっては殺人行為にまでなりかねない重いひとことなのです。

以前に比べると飲酒運転が厳罰化されたこともあって、だいぶお酒を無理やり勧める風潮は減りましたが、まだ一部の会社などでは根強く残っているようです。
ただ、飲み会にどうしても出席せざるを得ない場合対策は打っておく必要はあるでしょう。

3.アルコールは周囲の力でコントロールできる?

そして、奥さんに言った近所の人の言葉。

「お酒を奥さんが管理して飲む量をチェックしてあげれば大丈夫」これも大きな間違いです。
飲む量を決めたとしても、それ以上に飲んでしまってコントロールが出来なくなるのがアルコール依存症です。
飲み始めてしまったら最後、深酒しないようにするということがそもそも出来ないのです。

近所に関連するのですが、アルコール依存症のご家族の方にありがちな注意すべきことがあります。
それは「家族がアル中なんて恥ずかしいから親戚にも親にも絶対言えない。ましてや近所になんて言えるはずがない。他にバレたらまずいから、本人がした不始末はすぐに我々で何とかしないと」と言って問題を家族内だけで抱え込んでしまうパターンです。

これも抱え込もうとしているうちにいたずらに問題を大きくしてしまい、ますます家族の負担が大きくなり、そのまま押し潰されてしまうということになります。
結局抱え込もうとすることが一種のイネイブリングということにつながる訳です。


イネイブリングとは
本人がアルコールを飲めるような環境を整えてしまうことをいいます。
具体的には、

  • 本人の代わりにお酒を買ってくる
  • お金を渡す、本人にかわって借金の返済をする
  • 会社の休みの連絡をかわりにする
  • 酔って汚してしまった服をかわりに洗う
  • 酒量をチェックしてあげる


そうはいっても「世間体が大事」「家族がアル中なんて後ろ指差されそう」などなど多く耳にしますが、世間体とご本人やご家族の身体のどちらが大事でしょうか?

しっかりアルコール学習会で学んで頂いた上で、その知識を親戚中も含めて家族全体で同じ共通認識を持つために共有することを僕は指導していますが、そういうことで協力体制ができれば、ご家族の負担はだいぶ楽になります。
アルコール依存症当事者、家族は以下の3つの事を共通認識しておきましょう。


  1. アルコール依存症は単なる意志の弱さの問題ではない
  2. 家族内だけで対処するには大きすぎる問題である
  3. アルコール依存症は多大な影響のある病気である

アルコール依存症の当事者が家族内で問題を抱えている限り、いつまでたっても世間のアルコール依存症への理解は深まりませんし、誤解や偏見もなくならないのです。

4.アルコール依存症は性格に問題あり?

最後にナースのA美さんの言葉。


Ns.A美
偉そうに文句ばっかり言って色々要求してくるくせに、自分は結局意志弱くて飲んでるんでしょ?
私は飲酒量ちゃんとコントロールして飲んでいるし、大丈夫よ。

たとえ専門病院であったとしてもアルコール病棟以外では、アルコール依存症に対してのネガティブなイメージは相当強いです。
確かに病棟をかき回すような人もいるし、まだ病気を否認しているがために、医療者に対してその不満をぶつけてくるような人もいます。

他の病棟のスタッフに話を聞くと、アルコールの患者さんと聞いて思い浮かぶイメージは自己中心的、いい加減、不真面目、うそつき、意志が弱い、だらしがない、気が大きい、攻撃的、一方的、強情などなど、恐らく世間のイメージも同様にマイナスな印象でしょう。

でもこの特徴はアルコールの影響で出現していることが多く、もしアルコールを飲んでいなければ優しくて、真面目で、感性豊かで、楽しい、魅力的な患者さんが多いです(実際にアルコールを飲んでいなくても自己中心的だったりだらしがない、という方もいますが、そういう方は別にアルコールに限らずいますよね(笑))。

A美さんの酒量から行くと、純アルコール換算では多量飲酒の基準の60gを超えるので、危険な飲み方ということになります。
A美さんが既にアルコール依存症であるかどうかは別として、たとえ医療従事者であったとしてもアルコールという薬物に対しては無力です。
飲み続けてコントロールを失ってしまえば結局はどんな社会的立場の人であろうと関係なく、アルコール依存症になります。
ちなみに女性の方が男性よりも肝臓が小さいこともあって、依存を形成するのも男性に比べて早く、また肝障害も進みやすいという傾向があるので、A美さんも要注意です。

「アルコール依存症に対する誤解と偏見」まとめ

アルコール依存症になって色々なトラブルだったり、家族関係がバラバラになったり、やっとのことで治療につながり断酒を何十年にも渡って続けた人の話がとても印象的だったので紹介します。


俺は結局アルコール依存症という病気になって良かったと思う。
家族には散々迷惑をかけたし、傷つけたことは本当に数知れない。
だけど、このアルコール依存症という恐ろしい病気を乗り越えていく中で家族の絆が本当に深まったんだ。
多分、病気になっていなかったら、こんなに家族が豊かになることはなかっただろうなあ。


不思議と散々問題に巻き込まれてきたはずのご家族の方も、それに同意していたりするのです。
むしろ、アルコール依存症を乗り越えて回復している方々のほうが、僕よりもよほど人間的に深みがあると感じることも本当に多いです。

今現在アルコールの問題に悩んでいる方は、回復の道をたどってきた方々の話を聞けば、回復のモデルになると思いますし、いつか断酒を続けて「アルコール依存症になったけど、何十年もやめることができている。」という声を、またその時に悩んでいる当事者の方々に向けて発信して欲しいと思います。

アルコール依存症は意志の弱い人がなる恥ずかしい病気ではありません。
アルコールを飲んでいれば誰でもなり得る恐ろしい病気なのです。

誤解や偏見の多い世間に向けて発信していくためには、アルコール依存症とその当事者の方々の力が必要だと思いますし、実際にそういう声を発信している方々もたくさんいます。

僕の力だけでは世間は当たり前として一病棟の偏見ですら修正していくことはできません。
アルコール病棟で頑張って取り組んだこと、作り上げてきたプログラムの大事さを病院全体に発信してきましたが、全体の認識を変えることは難しいことです。
思った以上にアルコール依存症の方へのネガティブイメージは根強いのです。
少しでも皆様の理解を深めて頂ければ幸いです。

 

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