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「抗うつ剤を処方します」というと、
「でも抗うつ剤を飲むと太るのですよね?」とよく聞かれます。
太るという副作用は、抗うつ剤を飲み続けていくうえで無視できない副作用で、特に女性にとっては太る・太らないは聞いてなかったではすまされない問題だと思います。

とは言っても、抗うつ剤を飲むと確実に太るというわけではありません
抗うつ剤の添付文書(お薬の説明書)での頻度を見ると多いもので5%前後です。

実は抗うつ剤によってなぜ太るのかというメカニズムについては、まだすべて明らかになっていません。
ですから、正確には、抗うつ剤で治療をすると「太ることがある」というのが正しい表現かもしれません。

いくつかの知見をあわせつつ、ここではレクサプロ錠の「太る」という副作用にフォーカスを当て、対応法についてもみていきましょう。
データを示しながら説明していきますが、海外のデータですので日本人との個人差があることは頭にいれておいていただければと思います。

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レクサプロは太るのか?

レクサプロ(エスシタロプラム)はSSRIに分類される抗うつ剤です。
まず一般的にSSRIのお話をしますと、治療の初期では太るどころか逆に体重が落ちることが分かっています。
そして長く薬を飲むと太ることが言われています。

レクサプロのデータではないですが、具体的には最初の3か月で0.35㎏体重が落ちて、1年後に3㎏増えていたというデータが示されています(日本未発売のSSRIであるフルオキセチン)。

【参考文献】Michelson D, et al. Changes in weight during a 1-year trial of fluoxetine. Am J Psychiatry. 1999 Aug;156(8):1170-6.

SSRIは最初の3か月は体重落ちることがあるけど、その後は増える方向にいきやすい

頻度

生活や食習慣などもあるでしょうが、欧米でのデータではSSRIによる体重増加は6%の頻度で認めるとされています。
これは日本の抗うつ剤の添付文書全般でみられる頻度(1-5%)よりは若干高めです。
このあたりは食習慣の違いなのでしょうか・・・。

レクサプロの添付文書で見る、日本での承認に関する審査での体重増加の副作用報告は1%未満とされていますので海外より少ないイメージです。
逆に体重減少(痩せる方向)も1%未満で認めることも書かれていますが、上記で示しました通り、レクサプロをはじめとするSSRIは治療の初期は痩せて、長く続けると太るという特徴を考えると時間的な個人差をみているにすぎないかもしれません。

レクサプロで体重が増える頻度は日本人のデータでは1%未満

どのくらい太ってしまうか

SSRIの中でも種類によってその体重の増え方の違いが報告されています。
これももちろん海外のデータですので、日本人でここまで増えるということにはならないかもしれませんが、このデータから体重の増えやすさの参考にはなると思います。

パニック障害の患者さんに、1年間抗うつ剤を飲んでもらったときの体重の増え方を示します。
パキシル(パロキセチン)は特に体重が増えやすいとは言われていますが、その通りの結果のようです。

  1. パキシル(パロキセチン) 8.2㎏
  2. フルオキセチン(日本未発売) 5.2㎏
  3. シタロプラム(日本未発売ですがレクサプロに近い) 6.9㎏
  4. デプロメール・ルボックス(フルボキサミン) 6.3㎏

この中では3番目のシタロプラムがレクサプロに近いお薬ですが、レクサプロ(エスシタロプラム)のデータも示しますと、8か月飲んだときに体重が1.38㎏太ったという報告があります。

【参考文献】

レクサプロで体重が増えるときには数㎏増えてしまうこともある
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レクサプロと他の抗うつ剤との比較

SSRIに限定せず抗うつ剤すべての中でみると、特に太るのは三環系抗うつ薬に分類されるトリプタノール・アナフラニールと、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)に分類されるリフレックス・レメロンです。


太るという副作用頻度が特に高い抗うつ剤

  • 三環系抗うつ薬(トリプタノール、アナフラニール)
  • NaSSA(リフレックス・レメロン)

先にも示しましたが、日本人を対象としたデータからのレクサプロの添付文書では体重増加は1%未満としています。
一方、太りやすいと言われているレメロン・リフレックス(NaSSA)や三環系抗うつ薬(トリプタノール、アナフラニール)による体重増加の副作用の日本人での頻度は5%以上としていますから、レクサプロが頻度的に低いことがわかります。

体重の増え方についても違いがあります。
SSRIのレクサプロ(エスシタロプラム)と三環系抗うつ薬(ノリトレン)を比較したイギリスの研究があります(630名を対象)。
薬を飲み始めて3か月後、三環系抗うつ薬では1.2㎏体重が増えていたのに対し、レクサプロではわずか0.14㎏増えていただけでした。
6か月後は三環系抗うつ薬で1.8㎏、レクサプロで0.33㎏増えていただけでした。

「あれ?初期にレクサプロはSSRIなのに最初の3か月で体重減ってない」と言いたいところではありますが、レクサプロを3か月飲んで140g体重が増えたというのは元の体重と変わってないともとらえられます。
一方で三環系抗うつ薬では初期の3か月ですでに1㎏以上増えていますから、そこの違いに着目してもらえればと思います。

【参考文献】
Uher R, et al. Changes in body weight during pharmacological treatment of depression. Int J Neuropsychopharmacol. 2011 Apr;14(3):367-75.

抗うつ剤体重増加抗うつ剤体重増加
SSRI三環系
ルボックス
デプロメール
フルボキサミン
+-トリプタノール
アミトリプチリン
+++
パキシル
パロキセチン
+トフラニール
イミドール
++
ジェイゾロフト
セルトラリン
+-アナフラニール++
レクサプロ+-ノリトレン+
SNRIアモキサン+
トレドミン+-四環系
サインバルタ+-テトラミド+
イフェクサー+ルジオミール++
NaSSAその他
リフレックス
レメロン
++デジレル
レスリン
+-
ドグマチール
スルピリド
+-
「今日の治療薬」より(一部改変)

レクサプロで太る理由

まず一般的に抗うつ剤によって太ってしまう理由について説明します。
動物実験でもわかっていますが、抗うつ剤をラットに投与するだけでは体重は増えません。
「食欲」と「脂肪の代謝」が関わっているようなのです。
つまり太るためには食事をとるということも必要ということです。

少し難しい話になります。
太るという副作用を説明するために「ヒスタミン」と「レプチン」というキーワードがでてきます。
どちらも「食欲」と「脂肪の代謝」に関連します。

神経ヒスタミンには抗肥満作用、すなわち太りにくい作用があります。
具体的にはヒスタミンによって食欲の抑制や脂肪の分解を促すわけです。

そしてレプチンも食欲を抑える方向に働く脂肪で作られるホルモンで、具体的には上記の神経ヒスタミンを助ける働きです。

つまり、ヒスタミンをブロックすると食欲は出てしまいますし、脂肪の分解も悪くなり太ってしまうわけです。
(厳密にはヒスタミン自身が食欲に作用するというよりは、胃で多く分泌される強力な食欲増進ホルモン「グレリン」を増やしてしまうことが太りやすさと関連しています。)

ちなみにここで言っている「ヒスタミン」は胃薬で有名なガスターがブロックしているヒスタミン(H2)ではなく、神経ヒスタミン(H1)ですから胃薬でも太るのじゃないかとは思わないでくださいね。

さて抗うつ剤に話を戻します。
抗うつ剤によって、モノアミン(セロトニン、アドレナリン、ヒスタミン、ドパミン、ムスカリンなど)に作用します。
もうお気づきかと思いますが、この中に「ヒスタミン」いうワードが入っていますね。

太りやすい抗うつ剤である三環系抗うつ薬やNaSSA(リフレックス・レメロン)は特にヒスタミン(H1)をブロックする作用が強いのが特徴で、ヒスタミンが抑えられて食欲が出てしまい、脂肪の代謝も抑えてしまうのです。
(実はこの2種類の抗うつ薬が他より太りやすいのは、他に抗肥満作用をもつアディポネクチンを抑えることも関連しますがここでは省略します。)

一方セロトニンに注目してみましょう。
レクサプロが分類されるSSRIは主にセロトニン(5HT2C)に作用します。
SSRIは、5HT2C受容体と呼ばれる食欲を抑える働きをもつ受容体に作用し、こちらはレプチンを上昇させます。

レプチンは先ほどヒスタミンとセットででてきたキーワードの1つでしたね。
これは脂肪で作られるホルモンで神経ヒスタミンを増やします。
ヒスタミンは食欲をおさえ脂肪の代謝を働かせるわけですから、レプチンが増えると今度はヒスタミンをブロックしたときとは逆に、痩せる方向に働きます。
これによってSSRIを飲み始めた初期には食欲が抑えられるので体重は減りやすくなります。
(体重にだけ着目していましたが、レプチンには抗うつ作用もあります!)

抗うつ剤の太る機序

レプチンがSSRIを飲み始めた初期に増えることが一過性に痩せる方向に働くことはわかりましたが、一方で長くSSRIを飲んだときに今度は体重が増える方向にいってしまう理由はまだ解明されていません。

【参考文献】
Lee SH, et al. Is increased antidepressant exposure a contributory factor to the obesity pandemic? Transl Psychiatry. 2016 Mar 15;6:e759.

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レクサプロで太ってしまったときの対処法

ここまでで抗うつ剤によって太る理由は食欲増進と脂肪の代謝が悪くなることが原因であるのがわかったと思います。
しかもその原因は、神経ヒスタミンやレプチン、グレリンなど食欲を調整するホルモンなどが関連しているためどうにも自身の意識で抵抗できるものではない可能性が高いのです。

大前提として、動物実験にもあったように抗うつ剤だけで勝手に太るわけではなく食事の摂取が増えることも一因になるのです。

脂肪の代謝も落ちるので、いつもと同じ摂取カロリーであっても、もしかしたら太りやすい体質になっていることは考慮しなければなりません。

それでは対処法を見ていきましょう。

1.抗うつ剤を変更する

レクサプロは抗うつ剤の中でもともと体重増加が目立つものではないのでこの薬を変えたり、減量することはあまり考えなくてもよいかもしれません。

一般的に抗うつ剤は通常SSRI、SNRIを単剤で始めるのが普通なので最初から三環系抗うつ薬ということはないでしょうが、太ることを意識するのであればなかでも太りやすい抗うつ薬(三環系・NaSSA)を避けるのは手です。
SSRIの中でもパキシル(パロキセチン)は太りやすいことが知られていますのでこれ以外で相談するのが良いでしょう。

とはいっても、抗うつ剤の効果や特徴がすべて一緒というわけではないので、主治医がその抗うつ剤を選択したことには意味があるはずです。
病気の治療を目的とした薬ですから、太ることを過度に恐れるあまり本末転倒にならないように注意して主治医と相談するようにしましょう。

抗うつ薬は効果の面においてその量は大事ですが、抗うつ剤の内服量と太る度合いの関係は明らかになっていないため、減薬が体重増加の副作用に有効かはわかりません。

主治医側は体重増加しても糖尿病や高血圧が目立たなければ見た目的な問題では捉えないときもありますので、自分から言うことも大切です。

衝動の発散として過食がみられるときは、抗うつ薬の太る副作用というよりアクチベーションシンドロームの可能性もあります。
このときには双極性障害(躁うつ病)が潜在していることも考慮に入れ、主治医と相談の上抗うつ剤から気分安定薬にしたほうが良いときもあります。

2.生活習慣を見直す

間食が多くなっていないか、一回の食事量が多くなっていないかは注意しましょう。
適度な運動も大事です。
筋力が落ちてしまってはこれだけで基礎代謝が落ちてしまい、薬とは無関係に太りやすい体質になってしまいます。
また、ヒスタミンがおさえられていると脂肪の代謝が落ちているため、薬を飲む前と同じ食事量でも比較的高カロリーな食事をしていた場合には太ることがあります。
飲み始めた時にはやはり日頃の食事量やカロリーに意識を払う必要があります。

抗うつ剤によってヒスタミン、レプチンなどの食欲をコントロールする中枢から働きが変化してしまい食べ物を求めるようになってしまいますから、こうなると食欲が自分のコントロール下にはなく制御できずに太るようになってしまいます。

食事をするときに咀嚼をしっかりすることは健康に良いことは聞いたことがあるかもしれませんが非常に科学的な話です。
実際、咀嚼しているときの口の中の感覚をよく脳に伝えることは、なんと神経ヒスタミンがよく作用する方向に働くのです。
神経ヒスタミンは食欲をおさえ、脂肪の代謝を上げる方向に働く作用があるので満腹感を促進させるようにはたらくのでヒスタミンをブロックする抗うつ剤の作用には非常に合理的だと思います。

【参考】
第124回日本医学会シンポジウム「肥満症治療のアプローチ」吉松博信

まとめ

  1. レクサプロを始めSSRIは最初の3か月は体重はむしろ落ちる側に作用することがある
  2. SSRIをそのまま長期に服用すると体重は増加する傾向がある
  3. レクサプロは抗うつ剤の中では体重増加の副作用の頻度は低い
  4. 太ってしまったとき、もしくは太らないための対応法は間食をしないこと・食事の摂取量を意識することが大事
  5. 咀嚼をしっかり行うことで満腹感を作ることは、抗うつ剤の副作用の機序を考慮しても合理的である
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