
イフェクサーSRは2015年11月に国内で承認され、12月にファイザーから販売されたSNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)に属する抗うつ薬です。
世界的には1993年に登場しており、同じSNRIであるサインバルタより実は古いお薬なのです。
ここではイフェクサーSRについて解説していきます。
目次
1.イフェクサーSR(ベンラファキシン)はどんな薬?
イフェクサーSRカプセルは商品名、一般名はベンラファキシンです。
「SR」とはSustained-Releaseの略で、徐放製剤を示し、ゆっくりカプセルから放出されて体内に吸収されるようにできています。
このことによって1日1回の内服ですむようになっていることと、急激に血液中の濃度が上がらないようにすることで副作用がでにくい設計になっています。
現在はまだジェネリック薬品(後発医薬品)は出ていませんが、この成分の名前であるベンラファキシンが将来的にジェネリック医薬品名になるでしょう。
効果が出だすのが他の抗うつ薬に比べて早いのが特徴です。
イフェクサーSRの位置づけ
現在うつ病・うつ状態に対して最初に処方される抗うつ剤にはおおきく3種類あります。
(SSRI・SNRI・NaSSA)
このうちイフェクサーSRは「SNRI(選択的セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬)」に分類されます。
抗うつ剤というとセロトニンという神経伝達物質に働くということはなんとなく聞いたことがあると思います。
選択的にセロトニンに働くSSRIに対し、なんとセロトニンにとどまらずノルアドレナリンに対しても作用するのがSNRIの特徴なのです。
セロトニンにもノルアドレナリンにも効果を発揮するということでイフェクサーSRのデュアルアクション効果などともてはやされています。
実際セロトニンだけの作用より、ノルアドレナリンにも作用させた方が効果があるとする意見も確かにありますが、一応フラットな意見としてはSSRIもSNRIもNaSSAも優劣はつかないという立場で承認やガイドラインは作成されていることは知っておいてください。
イフェクサーSRはこんな病気に処方されます
- うつ病
- 全般性不安障害(GAD)
- 社交不安障害
- パニック障害
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
- 月経前不快気分障害(PMDD)
その他、成人のADHD(注意欠陥多動性障害)や神経障害性疼痛、線維筋痛症に対する有効性の報告があります。
痛みに対して効果があるのは他のSNRIであるサインバルタと同じです。
日本で承認されているのは、うつ病・うつ状態です。
2.イフェクサーSRの作用の仕方
どのような作用機序ですか?
神経伝達物質であるセロトニンとノルアドレナリンに作用します。
そもそも神経伝達物質というのは、神経から次の神経に情報を伝達するための物質で、それぞれの神経伝達物質に役割があります。
つまり、セロトニンとノルアドレナリン系の神経を増強することで不安・緊張を緩和し、意欲を上げ、気分や感情、認知機能を改善させるのです。
パキシルやジェイゾロフト、レクサプロに代表されるようなSSRIはセロトニンのみを増やすのに対し、イフェクサーSRは少量ではセロトニンを、多めの量でノルアドレナリンも増やしにかかるデュアルアクション(二刀流)なのです。
難しい内容ここをクリックして次の章「効果が出るまでどれくらい?」に飛ぶことができます。
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)はセロトニンとノルアドレナリン(ノルエピネフリン)の作用を増強することで、うつ症状を緩和させます。
セロトニンを例にとってイメージしてみましょう。
前の神経から次の神経のポストにセロトニンという荷物を届けてくるイメージです。
ただ一部のセロトニンは回収業者に回収されて戻っていきます。
このようにして大量にポストに届けられて迷惑メール化するのを防いでいます。
抗うつ薬はこの回収業者を邪魔するお薬なのです。
これによって大量にセロトニンを届けることができるのです。
これはセロトニンのイメージ図でしたが、お届けものをノルアドレナリンに変えてもらえばこれもイメージしやすいと思います。
少し難しいですが具体的にみてみましょう。
セロトニン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質は通常連絡通路に放出されると、次の神経の中にはいっていくものと、回収されて前の神経に戻っていってしまうものがあります。
このときイフェクサーSRは回収業者を邪魔して、より多くのセロトニンとノルアドレナリンが次の連絡口(受容体)に入って行けるように作用するのです。
トランスポーターというのが回収業者です。
SSRIはセロトニンだけのトランスポーターを邪魔していたのに対し、SNRIはセロトニンだけでなくノルアドレナリン(ノルエピネフリン)の回収業者も邪魔するのです。
このようにしてセロトニンとノルアドレナリンの神経伝達を増強させます。
さらにイフェクサーSR(ベンラファキシン)の特徴として、弱くはありますがドーパミンの再取り込みも阻害する作用を持っていますのでドパミン系の神経に関しても増強する力を持っています。
実はこのセロトニン、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害する機能は、昔の抗うつ薬である三環系とか四環系抗うつ剤にも備わっているのですが、SNRIはこのうち抗ヒスタミン作用や抗コリン作用のないものをいいます。
- 神経伝達物質であるセロトニンとノルアドレナリンを増やし、セロトニン系およびノルアドレナリン神経伝達を増強します。
- ドーパミン神経伝達についても弱いものの増強する作用を持ちます。
さて一見、単純な機序(回収させないこと)でセロトニンとノルアドレナリンを増やすのですが、本当はそんなに単純ではありません。
実は、増えたセロトニンに反応して、自分でセロトニンを放出するのをコントロールして自分で量を調整してしまうという薬にとってはよくない機序があるのです(セロトニンオートレセプタ:セロトニンを放出をコントロールする役割)。
難しく言えば、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込みを邪魔した結果、増えたセロトニンはセロトニン神経のオートレセプタ(5-HT1A自己受容体)に作用し、逆にセロトニンの遊離を抑制します。(セロトニンが増えすぎていることを教える賢い機能です。)ですから投与初期は一瞬セロトニンが増えても、その後は自分で調節がかかってあまり増えないのです。
ところが長期にイフェクサーSR(ベンラファキシン)が作用することによりこのオートレセプタの脱感作(受容体の機能が落ちること)が起こり、これでセロトニンを放出するのを調整していた部分が働かなくなり、やっとセロトニン神経系の活性化が再び、しかも定常的に起こるのです。
実はもうひとつ重要な作用があります。
それはβアドレナリン受容体の脱感作です。βアドレナリン受容体はノルアドレナリンを取り込む搬入口です。
実はノルアドレナリンの搬入口(アドレナリン受容体)は大きくαとβと2つの入り口があったのです(厳密にはαやβもさらに細かくわかれますが・・・)
このうちαは強めると、ストレス反応を抑えたり、海馬という記憶に関連する領域での神経の新生を高めるのですが、一方でβアドレナリン受容体は脳の扁桃体の活動を強め不安を増強する方向に動いてしまいます。
イフェクサーSRは服用を続けると、このβアドレナリン受容体に関しては脱感作され機能を弱めることで不安を抑える効果があるというわけです。
効果が出るまでにかかる時間はどのくらい?
効果が出だすのは普通は大体2-4週間くらいかかります。
(セロトニンはイフェクサーSRを内服するとすぐに神経間の接合部で増えますが、上記で説明しましたセロトニンオートレセプタによる作用ですぐにセロトニンにブレーキがかかります。このオートレセプタによる自己ブレーキ機能がオフになるまで何週間かかかるわけです。)
それでもイフェクサーSRはSSRIよりはうつ病に対する反応は早いと言われています。
それでも1.5-2か月以内に効果がでなければ、薬の量を増やすことを考えなければなりません。
特にイフェクサーSRはセロトニンは少ない薬の量から、ノルアドレナリンは薬の量を増やしていくほど効果を発揮しますので、このデュアルアクション効果を得るためにはなるべく量を増やしていきたいところです。
症状の再燃・再発を防ぐには、何年も飲み続けなければならないこともあります。
3.イフェクサーSR(ベンラファキシン)の効果
イフェクサーSRは37.5mgから開始し、1週間以上あけて37.5mgずつ増量することができます。
ただ少量では効果は出づらく、75mgカプセルを4つ(合計225mg)飲むのがお薬の最大量となりますが、イフェクサー販売後の国内の臨床試験(第Ⅲ相試験)で80%の患者さんで改善のために225mgを要したというデータがあります。
多めの量が必要になります。
SSRIに反応しなかった患者さんであっても効果的なことがあり、治療抵抗性うつ病に対しての1つの選択肢になります。
治療効果がでてきたら?
治療の目標は症状が寛解することです。そして、うつの再発を防ぐことも重要です。
寛解というのは、一般の病気で言う完治と同じことですが、うつ病をはじめ精神科・心療内科の病気は再発率が高いためにこの「寛解」という言い回しを使います。(医学用語として、癌や白血病も再発が多いことからこの言い方を使います。)
イフェクサーSRを飲んでほとんどの症状が軽減、消失したとしても、飲むのを止めると症状が再燃・再発しうるので、うつ症状が改善してもまだ治癒したとは言い切れません。
最低でも4-9か月は継続してそのままの量で飲む必要があります。(日本うつ病学会のガイドラインでも示されています。)
すべての症状が消失(寛解)する、もしくはかなり楽になるまではかなり長く飲むことも念頭に置いておきましょう。
2度目以降の再発したうつ病の治療である場合、また不安障害に対する治療である場合、イフェクサーSRを飲むことを無期限に続ける必要もあり得ます。
(日本うつ病学会ガイドラインでは再発例には改善後も2年以上続けるとされています。)
治療効果が出なかったときは?
通常、イフェクサーSRによって改善がみられるはずですが、うつ症状や不安症状以外の部分(例えば不眠、疲労感、倦怠感(だるさ)、集中力がでない)は改善があまりなかったということがあります。
イフェクサーSRを十分な期間(2か月以上)、しかも最大量(75mgカプセルを4つ:合計225mg)まで増量しても効果が全く出ないとなると、治療抵抗性の状態を考えなければなりません。
中には、飲み始めた初期は効いていたんだけど、だんだん効果がなくなって症状が悪くなってきているという例もあります。
この場合薬物療法なら他の薬との組み合わせや、非薬物療法(磁気刺激治療や認知行動療法など)を考慮します。
また、躁うつ病(双極性障害)である可能性も考えなければなりません。(この鑑別のための補助診断に光トポグラフィー検査は有用とされています。)
躁うつ病(双極性障害)といっても必ずしも躁状態(ハイテンションで気分がいい状態)が目立つわけではなく、潜在しているタイプでは色々な状態(ハイテンションまではいかないが調子が普通のとき、イライラしているとき、あきらかなうつ状態のとき)が日によって、ときには1日の中で混合しているような症状のときもあります。
4.イフェクサーSRを補強する薬の組み合わせ
カリフォルニアロケット療法
イフェクサーSRの属する「SNRI」もリフレックスなどの「NaSSA」もセロトニンとノルアドレナリン両方に作用する抗うつ剤です。
この2つを組み合わせれば強力にセロトニンとノルアドレナリンの増強を行えるだろうという考えの治療法をカリフォルニアロケット療法といいます。
SNRIとNaSSA(リフレックス、レメロン)の組み合わせで処方されることが多いです。
ただ基本は1つの抗うつ剤で治療をはじめましょうということになっていますから、最初からカリフォルニアロケットを行うということではありません。
2010年に、SSRIもしくはSNRIとNaSSAの組み合わせでの治療効果・有効性が検討された論文が出ております。
これに反対する意見もあるので、イフェクサーSRとNaSSAを併用することによる増強療法は最初の治療で上手くいかなかったときの次の一手として考えます。
SSRIはフルオキセチン(日本では発売されていない薬)を1種類だけ飲んだ場合と、イフェクサーSRとNaSSA、フルオキセチン(日本未発売のSSRI)とNaSSA、ブプロピオン(日本未発売の薬でノルアドレナリン・ドパミン再取り込み阻害薬)とNaSSAの4グループで比較しています。大うつ病と診断された105名の患者さんで、6週間の経過をみた研究です。
日本で発売していない薬も多いので、要はSSRI単独か、イフェクサーSR + NaSSAとどちらが効果が出るかをみたものと認識してください。
このグラフは横軸が時間で、縦軸がうつの状態を表しています。うつの状態に関しては下に行くほど正常になっていると考えて見てください。
この図のオレンジの線がイフェクサーSRとNaSSAの組み合わせです。緑のSSRI単独で飲むのに比べて、組み合わせて飲んだ人たちではうつが改善しているのがわかります。
もともと1種類の抗うつ剤でうつ病を寛解できるのは約30%に対し、組み合わせることでおよそ60%ちかくの人を寛解に導くことができたのです。
気になる副作用ですが、体重増加(太る)という副作用と、眠気が強くでてしまうようでした。
この論文では示されませんでしたが、当然セロトニンはかなり増強されますから、アクチベーションシンドローム(自殺念慮)やセロトニン症候群といった副作用にも注意が必要そうです。
参考文献
- Stahl, Stephen M. (2008). Stahl’s Essential Psychopharmacology Online: Print and Online. Cambridge, UK: Cambridge University Press. ISBN 9781107686465.
- Pierre Blier, M.D., Ph.D.et al.Combination of Antidepressant Medications From Treatment Initiation for Major Depressive Disorder: A Double-Blind Randomized Study. Am J of Psyciatry;Volume 167, Issue 3, March 2010, pp. 281-288.
その他の補強療法
病態 | 併用するとよい薬 |
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不眠 | 睡眠薬、抗うつ剤のトラゾドン(レスリン®、デジレル®) |
不安症状 | 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)。これでも十分な効果が得られないときガバペン®(ガバペンチン)などの抗てんかん薬を併用することもあります。 |
強迫症状 | アナフラニール®(クロミプラミン)など三環系抗うつ薬を追加する。 |
疲労感、眠気、集中できない | 精神刺激薬(ベタナミン®10㎎錠 -軽症うつ病、抑うつ神経症に適応あり) |
躁うつ病(双極性障害)の潜在・混在 | 気分安定薬(デパケン®、ラミクタール®)や非定型抗精神病薬 |
まとめ「イフェクサーSRの効果と特徴」
イフェクサーSRは日本ではうつ病・うつ状態に承認されたお薬ですが、その薬効は不安に対しても作用します。
神経伝達物質に関してはセロトニンはもちろん、量を多くするとノルアドレナリンも増強する方向に作用することから、セロトニンのみに作用させる抗うつ剤であるSSRIに比べ、その有効性は高いのではという意見もあるほどです。
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