
レクサプロはデンマークで生まれ、2001年に世界で発売され遅れること10年。
2011年に日本で発売された新しいSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の一つです。
現在最も使用されることの多いレクサプロは効果の面からも副作用の面からも日本でのシェア(販売額)もトップです。
ここではレクサプロ錠の効果と特徴についてお話したいと思います。
レクサプロの特徴をできるだけ簡単に知りたい方は以下が参考になります。
目次
1.レクサプロ®(エスシタロプラム)はどんな薬?
レクサプロ®は商品名で、一般名はエスシタロプラムです。日本では2011年7月に発売されました。現在はまだジェネリック薬品(後発医薬品)が出ていませんので、この成分のお薬はレクサプロ®だけとなります。今後ジェネリック薬品が登場すると、「エスシタロプラム錠」という名前で登場するはずです。
レクサプロ®(エスシタロプラム)の分類
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)に分類されます。抗うつ剤として分類されますが、単なる抗うつ剤にはとどまらないのがこの薬の特徴といえます。あとで説明しますが、レクサプロには他のSSRIと違う特徴・強みがあるのです。
レクサプロ®(エスシタロプラム)はこんな病気に処方されます
- 大うつ病
- 全般性不安障害(GAD)
- パニック障害
- 強迫性障害(OCD)
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
- 社交不安障害
- 月経前不快気分障害(PMDD)
臨床試験で、抗不安作用に効果があることが幅広く証明されているため、うつ病以外にも上記の病気に対して効果があるとされています。うつ病に関連した不安症状にも効くことを報告している研究者もいます。
このうち、日本で承認されているのは、「うつ病・うつ状態」「社会不安障害」です。
2.レクサプロ®(エスシタロプラム)の作用の仕方は?
やや専門的な内容です
どのような作用の機序ですか?
神経伝達物質であるセロトニンを増やし、セロトニン系神経伝達を増強します。
具体的には、セロトニンの再取り込みポンプを阻害(邪魔)することで神経と神経の接合部(接続している部分)でのセロトニンの量を増やします。
一見、単純な機序でセロトニンを増やすのですが、本当はそんなに単純ではありません。
実は、回収業者を邪魔して増やしたセロトニンに反応して、自分でセロトニンを放出するのをコントロールしてしまう機序があるのです(セロトニンオートレセプタ:セロトニンを放出をコントロールする役割)。
難しく言えば、セロトニン再取り込みを阻害する結果、増えたセロトニンはセロトニン神経のオートレセプタ(5- HT1A自己受容体)に作用し逆にセロトニンの遊離を抑制します。ですから投与初期は一瞬セロトニンは増えてもその後調節がかかってあまり増えないのです。
ところが長期にSSRIが作用することによりこのオートレセプタの脱感作が起こり、これでセロトニンを放出するのを調整していた部分が働かなくなり、やっとセロトニン神経系の活性化が起こるのです。それ故、SSRIが効果を発揮するには数週間の投与を要するということなのです。
効果が出るまでにかかる時間はどのくらい?
飲み始めてすぐには効果は出てきません。大体2-4週間くらいかかります。それでも1.5-2か月以内に効果がでなければ、薬の量を増やすことを考えなければなりません。症状の再燃・再発を防ぐには、何年も飲み続けなければならないこともあります。
レクサプロ®(エスシタロプラム)の効果
治療効果がでてきたら?
薬による治療の目標は症状が寛解(かんかい)することですが、再発を防ぐことも重要な目標です。寛解というのは、一般の病気で言う完治と同じことですが、うつ病をはじめ精神科・心療内科の病気は再発率が結構高いためにこの「寛解」という言い回しを使います。
レクサプロ®(エスシタロプラム)により仮にほとんどの症状が軽減、消失したとしても、飲むのを止めると症状が再燃・再発しうるので、うつ症状が改善してもまだ治癒したとは言い切れません。
すべての症状が消失(寛解)する、もしくはかなり楽になるまではかなり長く飲むことも念頭に置いておきましょう。特に強迫性障害(OCD)や心的外傷後ストレス障害(PTSD)では長期戦になります。
うつ病も寛解したら、最低でも1年は継続して飲む必要があります。再発したうつ病の治療である場合、また不安障害に対する治療である場合、レクサプロ®(エスシタロプラム)を飲むことを無期限に続ける必要があることもあります。
治療効果が出なかったときは?
通常、レクサプロ®(エスシタロプラム)を飲んだ多くの患者さんは改善がみられるはずですが、うつ症状や不安症状以外の部分(例えば不眠、疲労感、倦怠感(だるさ)、集中力がでない)は改善があまりなかったということがあります。
レクサプロ®(エスシタロプラム)を十分な時間(2か月以上)、しかも最大量まで増量しても効果が全く出ないとなると、治療抵抗性の状態を考えなければなりません。中には、飲み始めた初期は効いていたんだけど、だんだん効果がなくなって症状が悪くなってきているという例もあります。この場合薬物療法なら他の薬との組み合わせや、非薬物療法(磁気刺激治療や認知行動療法など)を考慮します。
また、躁うつ病(双極性障害)である可能性も考えなければなりません。(この鑑別のための補助診断に光トポグラフィー検査は有用とされています。)躁うつ病(双極性障害)といっても必ずしも躁状態(ハイテンションで気分がいい状態)が目立つわけではなく、潜在しているタイプでは色々な状態(ハイテンションまではいかないが調子が普通のとき、イライラしているとき、あきらかなうつ状態のとき)が日によって、ときには1日の中で混合しているような症状のときもあります。
閉経後の女性の場合、レクサプロ単独での効果が低いことがあり、女性ホルモンを併用した方が効果的な場合もあります(女性ホルモンは更年期障害で婦人科から処方してもらっていることが多いと思います。ただし女性ホルモンは子宮体がんや乳がんのリスクを増大させますので注意が必要です)。
レクサプロ®(エスシタロプラム)を補強する薬の組み合わせ
病態 | 併用するとよい薬 |
---|---|
不眠 | 睡眠薬、抗うつ剤のトラゾドン(レスリン®、デジレル®) |
不安症状 | 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)。これでも十分な効果が得られないときガバペン®(ガバペンチン)などの抗てんかん薬を併用することもあります。 |
強迫症状 | アナフラニール®(クロミプラミン)など三環系抗うつ薬を追加する。 |
疲労感、眠気、集中できない | 精神刺激薬(ベタナミン®10㎎錠 -軽症うつ病、抑うつ神経症に適応あり) |
躁うつ病(双極性障害)の潜在・混在 | 気分安定薬(デパケン®、ラミクタール®)や非定型抗精神病薬 |
レクサプロの強み
レクサプロは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)ですから、セロトニンの回収を抑えて、提供を増やすことでセロトニン神経系の強さを増すのでした(詳しくはこの記事の「2.レクサプロの作用の仕方は?」で説明しています)。
そして、レクサプロの強みはこのセロトニン再取り込み阻害作用が強くしかも持続するところです。それによって効果は持続しやすくしかも離脱症状がでにくい特徴を持つのです。
ではなぜ他のSSRIに比べてそんな強みをもっているのか、これには「アロステリック調節作用」が関与します。アロステリック?聞きなれないかもしれませんがこれもわかりやすく説明したいと思います。ただ専門的な内容になりますので、レクサプロはセロトニンを強める効果が強く、持続性があるという強みを知ってもらえればと思います。
アロステリック調節作用
まず次の図をみてください。これは神経が次の神経と連結する部分です。前の神経からセロトニンを放出して、そして次の神経の搬入口から伝達している図です。
そしてこの図の右側をみると、同時にセロトニンを回収している口(トランスポーターといいます)が見えます。これによってセロトニンが一方的に伝達されるのを調節しているのです。そしてその搬入口の両側に「A」と「B」の2つのパーツが見えます。この搬入口からどれくらいセロトニンを回収するか決めているメインパーツが「A」で、サブ的に決めている補助が「B」です。言ってみれば飛行機で言う「A:機長」と「B:副機長」でしょうか。
そしてSSRIはこの回収口(トランスポーター)を邪魔するのですが、実は「A:機長」を邪魔することでセロトニンの回収を抑えていたのです。しかし「B:副機長」は「A:機長」をすぐに助けてしまうのでその時間によって減弱します。
これに対してレクサプロはどうかというと「A:機長」だけでなく「B:副機長」も邪魔するのです。こうすると「A:機長」も「B:副機長」も邪魔するので、結果「A:機長」が再び働けるようになるまでの時間が長引くのです。これをアロステリック調節作用と呼ぶわけです。
まとめ「レクサプロの効果と特徴」
レクサプロ(エスシタロプラム)はうつ病に適応のあるSSRIですが、不安に対する幅広い作用を持っていることも特徴です。また他のSSRIと違い、アロステリック調節作用によって、セロトニンを増強する効果が強く、濃度が半分になってしまう半減期を超えて持続作用を持つのが強みです。
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レクサプロを本日から処方されました
まずは半分からで、朝と夜にのみますが、半分でも効果はあるのでしょうか。
コメントありがとうございます。
Dr.Gです。
レクサプロは抗うつ剤の中でも用量調整の比較的しやすいお薬です。
理由は1日標準投与量である10㎎がすでに効果を発揮するお薬だからです。
今回は半分ずつ朝夕に内服して1日量で10㎎にするということでしょうか?
どうしても副作用で困る場合、特に胃腸症状においては少量投与が有効です。
もし1日量で5㎎という意味であれば少ないのですが、様子を見ながらになると思いますが10㎎まではいずれ増量されると思います。
効果は5㎎でもないわけではありませんが抗うつ剤の特性として十分な量を服用していく必要はあるでしょう。
副作用を考慮しての先生のご判断だと思います。
娘16才で、1日夜1回半錠5㎎の処方です。若いから、薬への反応が早いだろうから、と言われ約3週間飲んだのち、ほんの少し軽減。昨日、同じ量で1カ月分処方されました。この時点で、効果が出ていると判断されるポイントがあるのでしょうか。
コメントありがとうございます。
Dr.Gです。
娘さんは未成年ということで、主治医の先生も抗うつ剤(レクサプロ)の投与に慎重になっていると思います。
抗うつ剤は未成年への投与は慎重にというのが鉄則です(ガイドラインでも言われています)。
なぜなら、かえって衝動性を高めてしまい、うつがよくなるどころか死にたい気持ちが強くなったり攻撃性だけを高めてしまう良くない結果になる頻度が高いためです。
抗うつ剤の投与は、ガイドラインに従うならば9~13か月間十分な量を投与しなくてはいけません。
しかし娘さんが16歳という年齢を考慮すると、漫然と続けることの方がよくないという主治医の先生のご判断だと思います(抗うつ剤が漫然と投与されることが多い中で、主治医の先生の素晴らしい判断だと重もいます)。
症状が良くなったからというよりは、最初の数週間だけ飲んで様子をみようという意図が感じられます。
パニック障害でレクサプロを処方されて19日目です。最初は10mgから始まり今は20mgになりました。動悸と息苦しさの症状が辛かったので効果が出るまでメイラックス1mgも一緒に内服していました。最初の頃に比べると症状も落ち着いてきたのですが26日からメイラックス0.5mg、レクサプロ20mgになって昨夜症状が出始めた頃のような動悸と息苦しさがあり屯用でもらっていたセルシン5mgを2回内服しました。それで症状自体は落ち着いたのですが徐々によくなってきていた予期不安が再び強くなってしまい辛いです。薬の調整の影響なのでしょうか。良くなってきたのに不安で不安でしょうがないです。
コメントありがとうございます。
Dr.Gです。
レクサプロはすでに10mgで効果を出せる量のお薬になります。
20mgが必要な例も確かにありますが、10mgという開始量がすでに十分量であることが他の抗うつ薬との違いになります。
SSRIといってセロトニンを増やす方向に作用するお薬ですが、症例によってはかえって賦活されすぎてじっとしていられない感覚やイライラ、不安が強まる例もあるでしょう。
10mgに減薬することを主治医と相談してみるのはいかがでしょうか?
ここで他のお薬が追加されてよく分からなくなってしまう事態は避けた方が良いかと思います。