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サインバルタと食欲「太る?痩せる?」-医師が教える抗うつ剤-

このコンテンツは医学論文データベース「PubMedパブメド」とわたくし医師個人の経験をもとに、正しい情報をわかりやすく解説することをモットーにしています。
サインバルタと食欲「太る?痩せる?」-医師が教える抗うつ剤-

「抗うつ剤 = 太る」というイメージは患者さんも多く持たれているイメージで、実際他の院に通院している人がセカンドオピニオンに来ると「薬を飲んで10㎏以上太った!」とおっしゃる方も中にはいます。

抗うつ剤で初期に処方されるお薬には副作用で中断してしまうことが少ない「SSRI」「SNRI」「NaSSA」の3種類がメインです。
いずれの抗うつ薬も程度の差はあれ「太る」副作用があります。

これらの中でサインバルタカプセルはSNRI(選択的セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬)に分類されています。

とは言っても、サインバルタカプセルを飲むと確実に太るというわけではなく、逆に痩せる人もいます

ここではサインバルタカプセルの「体重変化」という副作用に焦点を当てて解説していきたいと思います。


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サインバルタは太る?痩せる?

サインバルタはSNRI(選択的セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬)に分類される抗うつ剤です。

サインバルタはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)同様、治療の初期では太るどころか逆に体重が落ちることが報告されています。
まずは飲み始め初期のデータを参考にしてみましょう。

下の図は、サインバルタカプセルを飲んで8週間(約2か月)の体重変化をみたものです(台湾人でのデータ)。

サインバルタは太る?痩せる?2サインバルタは太る?痩せる?

飲み始めると最初の1週間は急激に体重は減る方向に動き、その後もゆっくりと体重は落ちています。
最初の1週間の体重減少は、サインバルタの副作用である吐き気食欲不振が関連しています。

ちなみに欧米人のサインバルタと体重変化のデータでは、約0.5㎏体重が落ちると報告されていますが、アジア人のデータでは1.4㎏と欧米人よりも体重が落ちやすいデータになっています。

欧米でのサインバルタの用量は60-120mg/日、アジアでは30-60mg/日と明らかに少ない薬物量なのですが、これはサインバルタを代謝する(排出するための)肝臓の酵素のアジア人と西洋人の人種間の違いが指摘されています。

飲み始めは痩せることがお分かりいただけたでしょう。

参考文献
Chien-Han Lai. Observational Study of the Impact of Short-Term Duloxetine Treatment on Body Weight in Patients With Major Depressive Disorder: A Taiwanese Perspective. Prim Care Companion J Clin Psychiatry. 2010; 12(1)

そして長く薬を飲むと太ることが言われています。

うつ病の西洋人のデータ(サインバルタの内服用量は日本の倍量)では、100週間(約2年)内服するとおよそ4㎏の体重増加があったことが報告されています。

参考文献
Wohlreich MM, et al. Duloxetine for the treatment of major depressive disorder: safety and tolerability associated with dose escalation. Depress Anxiety. 2007;24(1):41-52.

サインバルタはうつ病以外に、慢性疼痛や線維筋痛症など痛みを主症状とする患者さんにも処方されます。
痛みが主症状である患者さんが1年間サインバルタを飲んだ時の体重変化は、やはり初期に体重は減って3か月以降は最大1.1㎏(ばらつきがあるなかでの中央値)体重が増えていたようです。

それでも1年後に体重減少していた患者さんもいたようで(-0.33~ -1.7kg)、結局太る方に作用した割合は0.4-16%, 痩せた方は2.5-9.9%の割合でした。

参考文献
Gaynor P, et al. Weight change with long-term duloxetine use in chronic painful conditions: an analysis of 16 clinical studies. Int J Clin Pract. 2011 Mar;65(3):341-9.

サインバルタは飲み始めは痩せる方向に、長期に飲み続ければ太る方向に作用する傾向がある

サインバルタを飲んで「太る」「痩せる」頻度

サインバルタカプセルの添付文書(インタビューフォーム)によると、日本の承認に関する審査での体重増加の副作用報告は1.78%、一方で体重減少の副作用報告は1.39%と報告しています。
データ上は若干太る方向に作用した人が多い程度で、太るも痩せるもどちらも1-2%程度の割合でいます。

先にも書きましたが、体重増加と減少、つまり太る・痩せるは時間的な差もあります。
飲み始めは痩せやすく、長く続けることで太る傾向はあります


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「太る」ことに関して他剤との比較

SSRIに限定せず抗うつ剤すべての中でみると、特に太るのは三環系抗うつ薬に分類されるトリプタノール・アナフラニールと、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)に分類されるリフレックス・レメロンです。

抗うつ剤すべての中ではNaSSA(リフレックス/レメロン)が最も太りやすい特徴があります。


抗うつ剤の太りやすさの比較
「NaSSA > 三環系抗うつ薬 > SSRI、SNRI」

太るという副作用頻度が特に高い抗うつ剤

  • 三環系抗うつ薬(トリプタノール、アナフラニール)
  • NaSSA(リフレックス・レメロン)

一覧表に示してみましょう。

抗うつ剤 体重増加 抗うつ剤 体重増加
SSRI 三環系
ルボックス
デプロメール
フルボキサミン
+- トリプタノール
アミトリプチリン
+++
パキシル
パロキセチン
+ トフラニール
イミドール
++
ジェイゾロフト
セルトラリン
+- アナフラニール ++
レクサプロ +- ノリトレン +
SNRI アモキサン +
トレドミン +- 四環系
サインバルタ +- テトラミド +
イフェクサー + ルジオミール ++
NaSSA その他
リフレックス
レメロン
++ デジレル
レスリン
+-
ドグマチール
スルピリド
+-


「今日の治療薬」より(一部改変)

サインバルタで太る機序

まず一般的に抗うつ剤によって太ってしまう理由について説明します。

動物実験でもわかっていますが、抗うつ剤をラットに投与するだけでは体重は増えません。
「食欲」と「脂肪の代謝」が関わっているのです。
つまり太るためには食事でカロリーをとるということも必要ということです。

具体的には以下の4つの要因があります。


  1. セロトニンやヒスタミンなど神経伝達物質やホルモンへの作用
  2. 活動量が下がり(鎮静作用)カロリー消費量が下がる
  3. 食事の嗜好が変わる
  4. 口が渇くために飴や甘い飲み物を飲んだり食べたりしてしまう

1の神経伝達物質に関してですが、「セロトニン」「ヒスタミン」と「レプチン」という3つのキーワードがでてきます。
どれも「食欲」と「脂肪の代謝」に関連します。
これらに作用してしまうので「太る」のが理由です。

ここからは詳細な機序を説明します。
少し難しい内容なので、飛ばす場合はこちらをクリックして「副作用の対処法」へ飛ぶことができます。

神経ヒスタミンには抗肥満作用、すなわち太りにくい作用があります。
具体的にはヒスタミンによって食欲の抑制や脂肪の分解を促すわけです。

そしてレプチンも食欲を抑える方向に働く脂肪で作られるホルモンで、具体的には上記の神経ヒスタミンを助ける働きです。


ヒスタミン(H1):抗肥満作用(食欲を抑える、脂肪の分解を促す)のある神経系の神経伝達物質
レプチン:食欲を抑えるホルモン


つまり、ヒスタミンをブロックすると食欲は出てしまいますし、脂肪の分解も悪くなり太ってしまうわけです。
(厳密にはヒスタミン自身が食欲に作用するというよりは、胃で多く分泌される強力な食欲増進ホルモン「グレリン」を増やしてしまうことが太りやすさと関連しています。)

ちなみにここで言っている「ヒスタミン」は胃薬で有名なガスターがブロックしているヒスタミン(H2)ではなく、神経ヒスタミン(H1)ですから胃薬で太る心配はありません。

さて抗うつ剤に話を戻しますと、抗うつ剤によってモノアミン(セロトニン、アドレナリン、ヒスタミン、ドパミン、ムスカリンなど)に作用します。
もうお気づきかと思いますが、この中に「ヒスタミン」いうワードが入っていますね。

太りやすい抗うつ剤である三環系抗うつ薬やNaSSA(リフレックス・レメロン)は特にヒスタミン(H1)をブロックする作用が強いのが特徴で、ヒスタミンが抑えられて食欲が出てしまい、脂肪の代謝も抑えてしまうのです。
(実はこの2種類の抗うつ薬が他より太りやすいのは、他に抗肥満作用をもつアディポネクチンを抑えることも関連しますがここでは省略します。)

一方、神経伝達物質の「セロトニン」に注目してみましょう。
サインバルタはセロトニンを増強するお薬です。
神経から次の神経にセロトニンという物質を介して伝達するので、イメージとしてはポストにセロトニンという荷物を届けてくるイメージです。

そしてセロトニンのポストは脳にだけではなく消化管など全身の神経に存在し、さらにマンションのように部屋番号が振り分けられており、その部屋のどこにセロトニンが届くかで作用が異なります。

サインバルタによる「太る」副作用は主にセロトニンの「2c」番の部屋に関連します。

「セロトニン2c」の部屋(5HT2c受容体)は食欲を抑える働きをもつ作用です。
具体的にはレプチン(食欲抑制ホルモン)を上昇させることで食欲をおさえます

あれっ?て思いますが、そうですこの作用は痩せる方向に働きます。

思い出してください、SSRIを飲み始めた初期には食欲が抑えられるので体重は減りやすくなるのです。
(ちなみに体重にだけ着目していましたが、レプチンには食欲を抑える以外にも抗うつ作用もあります!)

レプチンがSSRIを飲み始めた初期に増えることが一過性に痩せる方向に働くことはわかりました。
一方で長くSSRIを飲んだときに今度は体重が増える方向にいってしまう理由はまだ解明されていませんが、一過性にセロトニンが大量に届けられると、まるで迷惑メールをブロックする動きをしますので、これによって「セロトニン2c」のポストにセロトニンが届かなくなる(セロトニン受容体の脱感作だつかんさ)ことで逆に太りやすくなると考えられます。

参考文献
Lee SH, et al. Is increased antidepressant exposure a contributory factor to the obesity pandemic? Transl Psychiatry. 2016 Mar 15;6:e759.


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サインバルタで太ったときの対処法

ここまでで抗うつ剤によって太る理由は食欲増進脂肪の代謝が落ちてしまうことが原因であるのがわかったと思います。

しかもその原因は、セロトニン、神経ヒスタミンなどの神経伝達物質、レプチン・グレリンなど食欲を調整するホルモンも関連しているので、どうにも自身の意識で抵抗できるものではないのです。

そして抗うつ剤だけで勝手に太るわけではなく、食事の摂取が増えることが一因になるのです。
また、脂肪の代謝が落ちるので、いつもと同じ摂取カロリーであっても、もしかしたら太りやすい体質になっていることは知っておかなければなりません。

それでは対処法を見ていきましょう。

1.サインバルタから他剤へ変更する

サインバルタには体重変化の副作用はありますが、体重増加が目立つわけではありません。
ですから、どちらかと言えば併用している薬に問題がないかを考える方が先決なのかも知れません。

例えば、NaSSA(リフレックス/レメロン)や非定型抗精神病薬(エビリファイ、ジプレキサなど)などを併用しているのならこちらの可能性も高いでしょう。

もしお薬の変更を考慮するときはよく考えましょう。
抗うつ剤の効果や特徴がすべて一緒というわけではないので、主治医の先生がその抗うつ剤を選択したことには意味があるはずです。
病気の治療を目的とした薬ですから、太ることを過度に恐れるあまり本末転倒にならないように注意して主治医と相談するようにしましょう。

ちなみに、抗うつ薬は抗うつ効果の面においてその量は大事ですが、抗うつ剤の内服量と太る度合いの相関関係は明らかになっていないため、減薬が体重増加の副作用に有効かはわかりません。

こんなデータがあります。
サインバルタは太る?痩せる?

これは台湾人のデータで、縦軸が体重変化、横軸は8週間の経過を見ています。
サインバルタ60mg(〇)、30mg(■)それぞれを飲んだ時の体重変化をみているグラフとなります。

飲み始めの8週間ですからいずれにせよ痩せる方向にいきやすいのですが、最初の1週目の急激な体重の落ち方は60mgカプセルもも少な目の30mgカプセルも一緒です。
しかし、2週間をすぎたころから60mgカプセルの方は体重が戻り始め、30mgカプセルの方では落ちた体重がそのまま推移しています。

ここで大事なことは、薬物の量によって体重変化にも影響が出る可能性があるということです。
このデータだけ鵜呑みにすると少ない量では痩せる、多い量では太ると解釈されてしまうかもしれませんがそういうわけではありません。

8週間しか体重をみていませんし、何よりも薬を長く飲むとどうなるかはわかりません。
ただ減薬することで体重変化には影響がでるでしょう。

医療者側は体重増加しても糖尿病や高血圧が目立たなければ、見た目的な美容の観点の問題では太ってきていること気付いていないときもありますので、もし気になれば自分から言うことも大切です。

うつ病に併発して摂食障害を認めることがあります。
衝動の発散として過食がみられるときは、抗うつ薬の太る副作用というよりアクチベーションシンドロームの可能性もあります。
アクチベーションシンドロームは、要は活性化された状態で過食になったり、不眠になったり、攻撃性が増したりする副作用です。
このときにはうつ病と診断されていても、双極性障害(躁うつ病)が背景に潜在していることも考慮に入れ、主治医と相談の上、抗うつ剤から気分安定薬にしたほうが良いときもあります。

2.生活習慣を見直す

間食が多くなっていないか、一回の食事量が多くなっていないかは注意しましょう。
適度な運動も大事です。

筋力が落ちてしまってはこれだけで基礎代謝が落ちてしまい、薬とは無関係に太りやすい体質になってしまいます。

よく過度なダイエットをしているとあとで反動で太るのはこの基礎代謝が落ちるためかえって以前より太りやすい体質になっているのです。
筋肉は太りにくい体質に重要な要素です。

また、神経伝達物質のヒスタミンが薬でおさえられていると、脂肪の代謝が落ちているため、薬を飲む前と同じ食事量でも比較的高カロリーな食事をもともとしていた場合には、以前はあまり体重がかわらなくても薬をのんでいると太ることがあります。
飲み始めた時にはやはり日頃の食事量やカロリーに意識を払う必要があります。

よく噛むことはダイエットになる

抗うつ剤によってヒスタミン、レプチンなどの食欲をコントロールするホルモンの働きが、中枢から変化してしまい食べ物を求めるようになってしまいますから、こうなると食欲が自分のコントロール下にはなく制御できずに太るようになってしまいます。

食事をするときに咀嚼そしゃくをしっかりすることは健康に良いことは聞いたことがあるかもしれませんが実は科学的に根拠のあるお話です。

実際、咀嚼しているときの口の中の感覚をよく脳に伝えることは、なんと神経ヒスタミンがよく作用する方向に働くのです。
神経ヒスタミンは食欲をおさえ、脂肪の代謝を上げる方向に働く作用があるので満腹感を促進させるようにはたらくのでヒスタミンをブロックする抗うつ剤の作用に対抗するには合理的なのです。

抗うつ剤を飲んでいるときこそよく噛んで食べよう!

参考
第124回日本医学会シンポジウム「肥満症治療のアプローチ」吉松博信

まとめ「サインバルタは太る?痩せる?」

  1. サインバルタは、飲み始めは体重が減る方向にいきやすい
  2. サインバルタをそのまま長期に服用すると体重は増加して太る傾向がある
  3. ただしサインバルタの体重増加の副作用の頻度は他の抗うつ剤に比べて低い
  4. 太ってしまったとき、もしくは太らないための対応法は間食をしないこと・食事の摂取量を意識することが大事
  5. よく噛んで食べることで満腹感を得ることは、抗うつ剤の副作用の機序からは合理的に太ることを抑える効果がある

 

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