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サインバルタによる不眠-医師が教える抗うつ剤-

このコンテンツは医学論文データベース「PubMedパブメド」とわたくし医師個人の経験をもとに、正しい情報をわかりやすく解説することをモットーにしています。
サインバルタによる不眠-医師が教える抗うつ剤-

うつ病では「不眠・睡眠障害」がかなりの割合で認められます。
不眠といっても、夜間に途中で起きてしまう中途覚醒ちゅうとかくせい、朝早くに目覚めてしまう早朝覚醒そうちょうかくせい熟眠障害じゅくみんしょうがいなど障害のされ方は多様です。

うつ病に伴うこれらの症状に対して抗うつ剤を飲めば当然「不眠」も改善されるだろうと思う方は多いと思いますが、抗うつ剤は逆に「睡眠障害(不眠)」を起こしてしまうことがあるのです。

現在、最初に使用されることが多い抗うつ剤にSSRI、SNRI、NaSSAの3種類があります。


  • SSRI:レクサプロ、ジェイゾロフト(セルトラリン)、パキシル(パロキセチン)、デプロメール/ルボックス(フルボキサミン)
  • SNRI:トレドミン(ミルナシプラン)、サインバルタ、イフェクサーSR
  • NaSSA:リフレックス/レメロン

抗うつ剤には眠気をもたらす「鎮静系抗うつ剤」と、そうではない「非鎮静系抗うつ剤」がありますが、うつ病・うつ状態に対して最初に処方される上記3種類の抗うつ剤のグループの中では「鎮静系抗うつ剤」はNaSSAだけなのです。

サインバルタは眠気作用が極端には強くない「非鎮静系抗うつ剤」です。
抗うつ剤には全般に眠気の副作用がある一方で、逆に不眠の副作用をも出してしまうことがあるのも特徴です。

ここではサインバルタによって起こる「不眠」について説明します。


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サインバルタで不眠になる理由

不眠というと問題になるのはその睡眠の質があると思います。
実際に不眠の副作用はサインバルタの添付文書においても1-5%未満の頻度であると記載されています。

しかし、中には睡眠の質による不眠以外にも悪夢や足がむずむずしてしまうという副作用があったりします。
これらについて順を追って説明していきましょう。

睡眠の深さについて

睡眠の質を理解するために、まず睡眠について基本的なことを説明します。
「眠りが浅かった」などと表現しますので皆さん経験的にお分かりになると思いますが、睡眠には「深さ」があります。

1回の睡眠の中で眠りの深さは波を描いて変わるのです。


睡眠サプリより許可を得て転載>

起きている状態、すなわち「覚醒状態」から浅い睡眠「レム睡眠」、そして「ノンレム睡眠」と深くなっていきます。

レム睡眠

  • 浅い睡眠
  • 脳は活動しており(記憶を整理している)、身体が休んでいる状態(身体の睡眠とも呼ばれる)
  • この睡眠のときに夢を見ることが多い(脳は活性化している)

ノンレム睡眠

  • 深い睡眠(深さは4段階ある)
  • 脳も休んでいる状態(脳の睡眠)

この「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」を1回の睡眠時間の中では、90分周期で4,5回繰り返しているのです。

覚醒 (→レム睡眠) →ノンレム睡眠 →レム睡眠 →ノンレム睡眠 ・・・→覚醒

「不眠」とは浅い眠り(レム睡眠)が多い状態です。
もしくは深い眠り(ノンレム睡眠)が少ない状態でもあります。
要はこの睡眠のサイクルを正常に営めなくなっている状態なのです。

そしてうつ病では、まさにこの浅い睡眠(レム睡眠)の頻度が増すことが示されているのです。
さらに浅い睡眠(レム睡眠)では夢を見ていることが多く、悪夢になってしまう頻度も増します。

レム睡眠と睡眠の質には関係があるということです。

うつ病と睡眠の深さ

  • うつ病では浅い睡眠(レム睡眠)が増え、深い睡眠(ノンレム睡眠)は減る
  • 深い睡眠(ノンレム睡眠)が減る中で、さらにノンレム睡眠の深度も浅い傾向になる
  • 眠ってから浅い睡眠(レム睡眠)までにいく時間(レム睡眠潜時)は短くなる

参考文献
Berger M, et al. Normal and abnormal REM sleep regulation: REM sleep in depression-an overview. J Sleep Res. 1993 Dec;2(4):211-223.

サインバルタは睡眠をどう変える?

うつ病では浅い睡眠(レム睡眠)が増えています。
そして抗うつ剤はこの浅い睡眠(レム睡眠)を減らすことが言われていますので、当然睡眠の質の改善、悪夢が減ると考えます。

ここまでで以下のことがわかったはずです。


  • 不眠とレム睡眠(浅い睡眠)は関係している
  • うつ病ではレム睡眠(浅い睡眠)が増え、眠りからレム睡眠までの時間(レム睡眠潜時といいます)が短くなる。
  • ジェイゾロフトは浅い睡眠(レム睡眠)を減らし、レム睡眠潜時(眠り始めからレム睡眠までの時間)をのばすことで睡眠を改善する

ところが話はそう単純ではなく、SSRIやサインバルタをはじめとするSNRIでは抗うつ剤そのものによって「不眠」という副作用が報告されています。

睡眠の質が改善する方向に作用しているはずなのに何故・・・・?

サインバルタの添付文書(インタビューフォーム)の副作用の項目を見てみると日本で行われた臨床試験の結果をもとに、1-5%で「不眠症」を認めたことが記載されています。

逆に睡眠の質が悪くなる人がいる!?
たしかにサインバルタは浅い睡眠(レム睡眠)を減らし睡眠の質を改善させる方向にいくはずです。

しかし浅い睡眠(レム睡眠)を抑えつつも、実は深い睡眠の中でも深い睡眠(徐波睡眠じょはすいみん:ノンレム睡眠でも特に深いレベルの3番と4番の相)を邪魔する作用もあるのです。
これによってより深い睡眠(徐波睡眠)を障害して中途覚醒を起こしやすくさせるのです。

サインバルタは神経伝達物質である「セロトニン」「ノルアドレナリン」を増強することで効果を発揮する薬です。
これらのセロトニン・ノルアドレナリン増強によって賦活ふかつの方向へ、すなわちアクセルオンの方向へ動くことがこういった副作用を起こすことになります。
「睡眠の質の改善」と「賦活ふかつ(アクセルオン)」の絶妙なバランスによって良くも悪くも反応がでてしまうようです。

詳細なサインバルタの眠りに関する機序

難しい内容ですので、ここをクリックすると次の章へ飛びます。

まず「セロトニン」に着目します。

神経伝達物質「セロトニン」にはいろいろな種類があります。
正確にはセロトニンに種類が色々あるというより、セロトニンを受けるポスト(受容体じゅようたいといいます)に種類がありそれぞれに役割があるのです。

セロトニンは前の神経から次の神経に情報を伝達する物質の1つです。
ですからセロトニンを荷物に例えて、次の神経が受け取る部分をポストに例えるとこんなイメージになります。

そしてこのポストにはマンションの部屋番号のように2A号室、2B号室、2C号室、3号室・・・などのように割り振られています。
しかもセロトニンポストのあるマンションは脳だけでなく、胃や腸など他の地区にも存在しているのです。

この中で睡眠と関わっているセロトニンのポスト(受容体)は2A番と7番ですが、ジェイゾロフトによって増強したセロトニンは脳幹の睡眠中枢にあるセロトニン2Aのポスト(受容体、5HT-2A受容体)を刺激して深い睡眠(ノンレム睡眠)を障害するのです。

睡眠の質以外による不眠の理由

ここまで睡眠の質や悪夢に関してお話しましたが、実は睡眠そのものの質以外にも以下のような副作用によって睡眠が障害されることがあります。


  1. ミオクローヌス

  2. むずむず脚症候群

サインバルタによって増強したセロトニンは脳幹(のセロトニン2A受容体)に作用して深い睡眠(ノンレム睡眠)を障害するだけでなく、夜間に起こる急速な手足をピクッと動かすような筋肉の運動を誘発します(これを専門用語ではミオクローヌスといいます)。

またベッドに入ってから数時間にわたって、じっとしていると足がむずむずしてその不快感から寝付けないという症状が出ることがあります(これをむずむず足症候群/レストレスレッグ症候群といいます)。

参考文献
Belli H, et al. Duloxetine-related galactorrhea and restless legs syndrome: a case report. Psychiatr Danub. 2013 Sep;25(3):266-7.


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不眠に関して他の抗うつ剤との比較

抗うつ剤の中でSSRIやSNRI(サインバルタはSNRIに属します)は不眠を起こしやすいお薬です。

一方で鎮静系抗うつ薬であるNaSSA(ただし悪夢の副作用はないわけではない)、四環系抗うつ薬、トラゾドン(デジレル/レスリン)には不眠の副作用はほとんどありません。

三環系抗うつ薬ではSSRIほどではありませんが、不眠を認めることがあります。

抗うつ剤 不眠 抗うつ剤 不眠
<SSRI> <三環系>
ルボックス
デプロメール
フルボキサミン
トリプタノール
アミトリプチリン
パキシル
パロキセチン
++ トフラニール
イミドール
++
ジェイゾロフト
セルトラリン
++ アナフラニール
レクサプロ ++ ノリトレン
<SNRI> アモキサン ++
トレドミン ++ <四環系>
サインバルタ ++ テトラミド
イフェクサー ++ ルジオミール
<NaSSA> <その他>
リフレックス
レメロン
デジレル
レスリン
(※今日の治療薬より) ドグマチール
スルピリド

サインバルタによる不眠の対処法

抗うつ剤の副作用は飲みはじめた初期のころに起こることが多いです。

時間とともに改善してくることも多いですので経過をみるのも1つの手ではあります。
すぐにできる対策としては、内服時間をずらすことです。

サインバルタは1日1回朝食後に服用するのが添付文書通りの用法ではありますが、いつ飲むかで睡眠や日中の眠気に対策を打てることがあります。
サインバルタを飲むと眠気hが出るようなら夕食後や眠前に内服するようにしたり工夫はできるのですが、逆に夕食後や寝る前に飲むと睡眠の質が悪くなったり悪夢をみてしまうこともあります。

先にも説明しました通り、不眠といっても睡眠の質の問題なのか、悪夢やその他の問題の事もありますのでそれぞれについて対策を見ていきましょう。

睡眠の質が悪い場合

サインバルタの内服を夕食後から朝食後にすることで改善することがあります。
これで難しい場合、減薬してみるのも手ですがこれには注意が必要です。

減薬によってジェイゾロフトの離脱症状が起こることがあります。
不快な症状やうつ症状や不安症状の再燃のような症状がでることもありますし、離脱としての不眠もあります。
ですから1ヶ月半以上内服している場合には必ず主治医との相談が必須です。

逆に新しく処方されたばかりの飲み始めなら、中止も減薬もあまり心配なく行えます。
ジェイゾロフトの場合、25mg錠という最小量の錠剤は割線がないので手で割るのは難しいかもしれませんがはさみならきれます。

飲む時間を調整しても不眠に悩むようなら半分にするのもありです。
しかし、そのような内服方法にしたことを次回の外来で必ず主治医に伝えるようにしましょう。

不眠について主治医と相談した場合、鎮静系の抗うつ薬(デジレル・レスリン)や睡眠薬が処方されると思います。
抗うつ剤は全般的に効果が出だすのが遅いため、不安薬・睡眠薬を最初から一緒に処方することも少なくありません。

ただ重要なことはもともとの不眠なのか、ジェイゾロフトを飲み始めてからの不眠なのかは、はっきりしておく方が良いと思います。
というのもセロトニンが作用することで不眠になった場合は、アクチベーションシンドローム(賦活化症候群)の一症状であることもあり、このことはもしかすると背景に潜在する双極性障害(躁うつ病)の可能性もあるからです。

悪夢を見る場合

トラゾドン(商品名:レスリン/デジレル)は浅い睡眠(レム睡眠)を抑える効果のある鎮静系の抗うつ薬ですので悪夢を減らすのに有効な薬剤です。

悪夢はジェイゾロフトなど抗うつ剤に限らず様々な薬剤でも生じます。
例えば抗精神病薬、抗ヒスタミン薬(アレルギー・花粉症の薬)、βブロッカー(高血圧や心不全の薬)などです。
もちろん処方薬でなくともタバコやアルコールも関連はしますのでこれらの可能性は念頭に置かなければいけません。(寝る前の一服や寝酒など)

急にお薬をやめたり減薬したときジェイゾロフトの離脱症状として悪夢を見ることもありますのでその場合には再内服する必要があります。

足がむずむずしてしまったり、手足がピクッとなって起きてしまう

前者は「むずむず脚症候群」、後者は「ミオクローヌス」と言います。
ミオクローヌスに関しては筋弛緩作用もあるベンゾジアゼピン系睡眠薬が有効ですが、むずむず脚症候群は有効な治療法が確立しているわけではないため、ジェイゾロフトの減薬や中止を考えなければいけません。

なお、先にも説明しましたがNaSSA(リフレックス/レメロン)と呼ばれる抗うつ剤とジェイゾロフトの併用ではむずむず足症候群が起こりやすいのでとにかく足がむずむずして眠れないときにはジェイゾロフト意外にも併用している薬を確認しましょう。

まとめ「ジェイゾロフトによる不眠と対策」

  • ジェイゾロフトによるうつ病の改善は睡眠の質の改善につながるが、逆に「不眠」の副作用を起こすこともある
  • ジェイゾロフトによる「不眠」の要因は睡眠の質が低下することにあるが、中には悪夢を見るようになったり足がむずむずして不快で眠れない場合もある
  • 基本的には経過をみるだけでおさまるものも多く、内服する時間の調整で改善する例もある
  • ジェイゾロフトと併用するのならデジレル・レスリンといった鎮静系の抗うつ薬やベンゾジアゼピン系の睡眠薬を合わせるのも有効

 

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