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サインバルタカプセルは慢性腰痛に有効か?-医師が教える抗うつ剤-

このコンテンツは医学論文データベース「PubMedパブメド」とわたくし医師個人の経験をもとに、正しい情報をわかりやすく解説することをモットーにしています。
サインバルタカプセルは慢性腰痛に有効か?-医師が教える抗うつ剤-

サインバルタカプセルはSNRI(選択的セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬)に分類される抗うつ剤です。
日本ではうつ病・うつ状態や糖尿病性神経障害に伴う痛み、線維筋痛症に伴う痛みに承認されているお薬です。
このように、うつ病を超えて疼痛とうつうに対する有効性があるお薬であることが特徴です。

ここでは、慢性腰痛に対するサインバルタの有効性についてお話したいと思います。(慢性腰痛に対するサインバルタの承認は2016年3月にされました。)


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サインバルタが慢性腰痛に適応承認

3か月以上痛みを抱えるいわゆる慢性疼痛とうつうの患者は日本でも2000万人以上おりその過半数が慢性腰痛です。
基本は整形外科に通院していることが多いでしょう。
整形外科ではMRIなどで脊椎の状態をみて脊髄神経の圧迫を少し受けているなど診断はされたりしているでしょうが、それ以上対応策がなく結果痛みを抑える対症療法や針灸や整体に通っている人も少なくないと思います。

対症療法としては湿布を貼ったりしてどうしても痛みが強い時にはロキソニンなどの非ステロイド性鎮痛薬(NSAIDエヌセイド)を内服していると思います。

鎮痛薬ならなんとなく腰痛に効くイメージがわかると思いますが、2016年3月にはなんと抗うつ薬の一つであるサインバルタが慢性腰痛に効くとして承認されたのです。

『腰痛診療ガイドライン2012』(日本整形外科学会・日本腰痛学会)で推奨する薬物療法を見てみましょう。
腰痛に対しての薬物療法の第一選択はNSAIDs(ロキソニンやボルタレンなどの非ステロイド性鎮痛薬)とアセトアミノフェン(カロナールやコカールなど、市販薬ならバファリンが有名です)です。

慢性腰痛に対する第二選択として、抗不安薬、抗うつ薬、筋弛緩薬、オピオイド(麻薬系の鎮痛薬)を挙げており、この第二選択の薬物の抗うつ薬の中にサインバルタ(デュロキセチン)が加わったことになります。

サインバルタ以外に疼痛を対象とした抗うつ剤として三環系抗うつ薬のアミトリプチリン(トリプタノール)があります。
末梢性神経障害性疼痛への適応拡大が2016年3月に認められました。

そのため、慢性腰痛に保険診療で処方できる抗うつ薬はサインバルタとトリプタノールの2剤となりますが、三環系抗うつ薬はSNRI(サインバルタ)に比べて副作用の頻度が高いため、薬価は高いですがサインバルタが処方されることでしょう。

国内の臨床試験でもサインバルタの痛みに対する有効性は示されています。
海外の文献でもプラセボ(偽薬)とサインバルタを比較したものがあるので見てみましょう。

サインバルタと慢性腰痛

縦は痛みの度合いで、VAS(visualヴィジュアル analogueアナログ scaleスケール)を使って評価しています。



横は週数でW1は1週間目、W2は2週間目という意味です。

2週間目まで痛みの度合いは改善し、その後も維持しているのがわかると思います。

参考文献
Schukro RP, et al. Efficacy of Duloxetine in Chronic Low Back Pain with a Neuropathic Component: A Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Crossover Trial. Anesthesiology. 2016 Jan;124(1):150-8.


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なぜサインバルタが腰痛に効くのか?

これには内因性疼痛抑制系ないいんせいとうつうよくせいけいの神経回路が関係します。

Ns.Norin
ないいんせいとうつうよくせい?
Dr.G
つまり、痛みをコントロールする脳の回路ってとこですね。

通常痛みは、刺激の入った部分(骨折なら骨を折った部分、火傷なら火傷した部位、採血なら針を刺した部分)から末梢神経を伝わって、背骨の奥にある脊髄に入り、脊髄を上って脳に到達し、脳で「痛み」を感じます

しかし、思い起こしてみてください。

例えばタンスに足の小指をぶつけたとしましょう。
ぶつけて「痛いっ」と思った瞬間もまあ痛いのですが、その次の瞬間の方がより強い痛みが襲ってきますね。

これも神経の伝達が関連していて、伝達する神経系にはまるで電車のように「鈍行」と「特急快速」とが存在するのです。
これによって瞬間的にズキッとくる痛みと、次の瞬間から襲ってくるじわっとした痛みがあるのです。
時間差で質の違う痛みが襲ってきますよね?

そしてその後どうなるでしょう。
数分後には大分痛みがひいていますね。
炎症がおさまったのでしょうか?

炎症がおさまったのではなく、疼痛を抑える神経が働いてくれているのです。
痛みはその刺激が入った部位から脳に向かって伝達されるのに対して、逆に疼痛を抑える信号は脳から降りてくるのです。

ですので内因性疼痛抑制系は別名下行性疼痛抑制系かこうせいとうつうよくせいけいなどと言ったりします。

その疼痛抑制に関連する神経にもセロトニンやノルアドレナリンが関連しています。

サインバルタはSNRI(選択的セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬)に分類される抗うつ剤です。
つまりセロトニンとノルアドレナリンを増強する方向に働かせ下行性疼痛抑制系をアクティブにし、鎮痛効果をもたらすのです。

疼痛が慢性化した患者では、この下行性の疼痛抑制系が異常をきたし、本来痛いと感じる必要のない刺激を痛みとして感じているのです。
場合によっては、通常の痛み刺激以上に大げさに痛みを感じてしまうこともあるでしょう。

痛みを抑制する神経回路の意味

内因性(下行性)疼痛抑制の回路はどの様な場面で役割があるのでしょうか?

一般に気分が高揚こうようしているときには痛みを感じにくいのは経験的にもおわかりいただけると思います。

例えばスポーツ選手や格闘技の選手がいちいち痛がるでしょうか?(サッカーのファールは別かもしれませんね)
また戦場に出た兵士も銃創(銃弾で傷ついた部分)や切断創にも痛みを訴えないことが多いようです。

実際に救急車で搬送されてくる際にも、状況によっては傷の割に痛みを訴えない人も多くむしろ少し落ち着いてから痛みを訴えだす人も多いです。

その割に不思議なことに注射をひどく痛がるという現象もあります。

損傷があるのに痛みがないという状態は自己保存のため(逃避や戦いなどの状況に置かれた時)には好都合なのが分かると思います。
猛獣に襲われる動物が足に刺さったトゲの痛みのために走れなくなるようではたちまち命を落とすことになってしまいます。
この様な状況で内因性疼痛抑制系がすばやくスイッチオンされるのでしょう。


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慢性腰痛に対するサインバルタの用法と副作用

用法・用量として添付文書は以下のように記載されています。

2.線維筋痛症に伴う疼痛、慢性腰痛症に伴う疼痛、変形性関節症に伴う疼痛
通常、成人には1日1回朝食後、デュロキセチンとして60mgを経口投与する。投与は1日20mgより開始し、1週間以上の間隔を空けて1日用量として20mgずつ増量する。

引用元: サインバルタカプセル添付文書

サインバルタカプセルは20mgカプセルと30mgカプセルの規格があり、最小量の20mgカプセルを1日1回朝食後の内服から開始します。
最大用量は60mgで、これはうつ病・うつ状態に対する使用法と同じです。

ただうつ病・うつ状態においては40mgを通常使用量とするのに対し、疼痛(線維筋痛症や慢性腰痛、変形性関節症)においては最大の60mgでの使用が標準量とされています。
臨床的にも疼痛に対する効果は多めの量を使ってようやく効きだすような印象もありますし、海外の文献においては日本での最大量の倍の120mgでの報告も散見されます。

またサインバルタは抗うつ剤ですので、もちろん副作用も多く存在します。
ほとんどの副作用は2週間以内に改善しますが飲み初めには副作用が出やすいことを知っておく必要があります。
さらに長期に服用した場合には急に中止すると離脱症状が起こる可能性があることにも注意が必要です。

副作用は主に吐き気、便秘や下痢、眠気や逆に不眠など消化器症状や睡眠に問題が出やすくなります。

サインバルタカプセルによる吐き気

まとめ「サインバルタと慢性腰痛」

痛みに対する治療薬は、以前は非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)がその中心でした。
NSAIDの一つであるロキソニンやボルタレンはあまりにも有名な鎮痛薬です。

近年、その痛み止めにはサインバルタなどの抗うつ剤などもその選択肢に入ってきました。

痛みの種類には、器質的疼痛きしつてきとうつうといって実際に炎症を起こしたり損傷によって痛みがでるものもしくは、神経が圧迫されて症状を起こすようなものと、非器質的疼痛といって明らかな損傷や病変がないにもかかわらず痛みがでるものとがあることがわかってきました。

サインバルタなどの抗うつ剤が有効なのは後者で明らかな病変がないにもかかわらず痛みがでるもので、ここには先にも説明した痛みを制御している神経回路「下行性疼痛抑制系」が関係しているのです。

すべての抗うつ剤が痛みに有効であるわけではなく、現在のところ疼痛関連に承認されているものはSNRIのサインバルタ(デュロキセチン)と、三環系抗うつ薬のトリプタノール(アミトリプチン)の2種類です。
特効薬のように効くわけではありませんが、慢性の痛みを緩和してくれるひとつの選択肢となります。
しかし特に飲み初め当初には副作用が起きやすいことと、長期に服用した後には急に中止すると離脱症状が起こる可能性があることを知っておく必要があります。

 

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COMMENTS & TRACKBACKS

  • Comments ( 4 )
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  1. By ささもりしげみ

    高齢の母が脊柱管狭窄症による下肢の痛みで入院してます。リリカ、トラムセット、ワントラム、トラマール、サインバルタなど投薬されてます。痛みで鬱になったのか軽い認知症になったのかわかりませんが、人間としての母が壊れていきます。目の動きもなく表情も険しく、何の意欲もありません。寝たきりです。整形外科ではなく精神科の治療を受けた方がよいでしょうか。家族としては痛み止めを投薬続ける医療者に疑問です。心因性疼痛にサインバルタと鎮痛剤の併用は大丈夫なのでしょうか
    母が「痛い、痛い」と、もう一年言い続けているので介護施設入所までに何とかしてあげたいのです。

    • コメントありがとうございます。
      Dr.Gです。

      脊柱管狭窄症ということは整形外科に入院されているのでしょうか?
      リリカ、トラムセット(トラマールとアセトアミノフェンの合剤)、トラマール、ワントラム(トラマールの除放剤)、サインバルタが投薬されているとのことですが、これあらのお薬は鎮静作用がそれなりにあるためぼーっとする症状は強くなります。

      そのかわり痛みに対してはいくらか軽快させている可能性はあると思います。

      高齢ということですから、腎機能や肝機能によっては通常使用量では強く効きすぎることももちろんあります。

      もう一度主治医の先生と方針をお話されてみるのはいかがでしょうか?
      痛みをとれて楽な状態にありさえすればよい、高齢なのでなるべく苦しめたくないのか、それとも手術などを控えていて今後リハビリして退院していくのかそれによっても異なると思います。

      これだけの薬であればおそらく身体は動かすのはしんどいでしょうし、ぼーっとしているのは強いと思います。
      間違いとも言えず、逆に正解もありません。

      痛みは完全には除去できない・せめて寝たきりでも楽にさせたいのか、もともと動ける方であれば痛みと副作用のバランスをとる必要があるでしょう。
      もう一度方針を確認してみてください。
      それからだと思います。

  2. By ささもりしげみ

    高齢の母が脊柱管狭窄症で下肢痛があり入院してます。鎮痛剤を複数投薬されてます。最近サインバルタも使われてます。鎮痛剤と併用しても大丈夫なのでしょうか。
    薬剤の副作用なのか壊れていく母を見るのが辛いです。
    整形外科ではなく精神科へ行くべきでしょうか。表情も険しく、話さなくなり無気力です。
    痛み治療が逆に母を悪くしてます。どうしたらいいのでしょうか。

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