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イフェクサーSRは妊娠中・授乳中、子供が飲んでもいいですか?【医師が教える抗うつ剤】

このコンテンツは医学論文データベース「PubMedパブメド」とわたくし医師個人の経験をもとに、正しい情報をわかりやすく解説することをモットーにしています。
イフェクサーSRは妊娠中・授乳中、子供が飲んでもいいですか?【医師が教える抗うつ剤】

女性にとって妊娠・出産は身体にも心理的にもストレスがかかり、ホルモンバランスの急激な変化も重なるためうつ病の発症や再燃の危険性が高まります。
このことは、母親にとっても子供にとっても悪影響を与えるため治療を必要としますが、薬物療法が主体となりやすく妊娠中や授乳中に抗うつ剤を服用していてよいかは大きな心配ごとになると思います。

ここではイフェクサーSRカプセル(一般名:ベンラファキシン)の妊娠中や授乳中の服用について、また子供の服用について説明します。
まだ2015年に日本では販売されたばかりですからあえてこの薬を特殊な状況下で処方されることも少ないかもしれません。
ただ、イフェクサー自体は世界では1993年に登場していますし、アメリカでは最初に販売されたSNRIです。

まずは添付文書を示しますが、そこには共通してできるだけ飲まないにこしたことはないと当たり前のことが書かれています
実際には個人ごと判断が必要になると思いますので、ここではイフェクサーSRを飲む側としてどう判断して理解しておけば良いのか見ていきましょう


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イフェクサーSR(ベンラファキシン)は妊娠中に飲んでもいいの?

まず妊娠中における服用の基準をみてみましょう。

  • (カテゴリーA)ヒトでの研究で胎児への危険性は示されていない
  • (カテゴリーB)ヒトでの研究で危険を示す証拠はない
  • 【カテゴリーC】動物実験で有害作用を示したものはあるが、ヒトでの研究はない
  • (カテゴリーD)胎児への危険性が高い

カテゴリーCと分類されていますが、要は「動物実験では妊娠中に服用することで有害作用を示したものもあるけど、ヒトではよくわかりません」ということです。

では添付文書ではどういう扱いになっているでしょうか?

<6.妊婦、産婦、授乳婦等への投与>
⑴妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。]
1)妊娠末期に本剤あるいは他のSSRI、SNRIが投与された婦人が出産した新生児において、入院期間の延長、呼吸補助、経管栄養を必要とする、離脱症状と同様の症状が出産直後にあらわれたとの報告がある。

引用元:イフェクサーSRカプセル添付文書

イフェクサーSRの添付文書は上記のようになっており、これは他のSSRI・SNRIも同様ですが原則は妊娠中の服用は望ましくはないとしています。

イフェクサーSR(ベンラファキシン)をはじめ一般に薬物は、特に妊娠初期(12週頃まで)は赤ちゃんの重要な臓器や形ができてくるころなので注意が必要です。
とは言いつつも、添付文書にはこう書いてあるからでは実際問題困ってしまいます。

妊娠したことが分かった瞬間、スパッと薬をやめてしまい離脱症状に困っている方もたまにいらっしゃいます。

大事なことは以下のことです!!


妊娠中に抗うつ剤を「飲むこと」と「飲まないでいること」のどちらが母親・子供にメリットがあるか?


すなわち「うつ症状が強いのに、うつ病を放置して妊娠出産したときの子供への影響」と「イフェクサーSR(ベンラファキシン)を飲むことでうつ病を治療しつつ妊娠出産したとき」と、どちらがメリットがあるのかですが、一般的にはまだわかっていません。
その症例ごとに主治医が判断しましょうというのが見解です。

ではその判断をどうしていけばいいのか、飲む側としてもそのことを知っておくほうが安心かと思います。
このことを知って主治医と相談した方が理解も深まります。

その前に大前提として1つ知っておいてください。


基本的に抗うつ薬の胎児に対する危険性はしっかりとは示されていない
(もしかしたらほとんど影響ない可能性すらありうる)


※妊娠中の母体や胎児への影響をみる研究は倫理的な問題で普通はできません。
わざわざ薬を飲ませて胎児に問題が起こるかなんて人体実験もいいところでしょう・・・。
ですから、抗うつ薬を飲んでいてたまたま出産時に問題があったものを薬のせいにしているだけのことだってありうるのです。


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母体への影響

主に2つの問題が指摘されています。


  1. 妊娠高血圧症候群にんしんこうけつあつしょうこうぐんになりやすい
  2. 出血が止まりにくくなる

1.妊娠高血圧症候群

妊娠後期に、妊娠高血圧症候群のリスクが増大する可能性がいわれています。

妊娠高血圧症候群は以前は「妊娠中毒症」と呼ばれていたものです。
では妊娠中毒症がどんな状態で、妊娠において何が問題になるのか説明します。

妊娠前には高血圧がなかったのに、妊娠後期になってはじめて高血圧がでてくるものをいいます。
高血圧がそんなに問題になるのかと思うかもしれませんが、お母さんや赤ちゃんにいろいろな障害を起こすことが多いため妊娠高血圧学会が存在するぐらい重要な合併症なのです。

CHECK詳しくは

2.出血が止まりにくい

出産時には、母体からの出血が多い傾向が出ます(イフェクサーSRのもともとの副作用として出血しやすくなります)。
ですから出産時出血が多くなる可能性について産科の先生に相談しておきましょう(意外と他の科の薬のマイナーな副作用についてはノーマークのこともありますので念のため)。
出産後、血が止まらないというのは輸血の必要性が高まり、あまりにも重篤な場合に輸血血液の準備がなければ母体の命にもかかわる問題にもなります。

イフェクサーSRの胎児・新生児への影響

抗うつ剤の胎児への悪影響については報告がありつつも、実際そんなことはないと否定的な意見が多いです。
ここでは3つ取り上げます。

その中で、最も影響を考えなければならないのは産まれた直後の新生児の一過性の症状でしょう。

1.新生児にでる可能性のある一過性の症状

産まれた直後、一過性ではありますが赤ちゃんの元気がない、逆に過敏性が増して泣き止まないなどの症状がでることがあります。

呼吸が弱く呼吸を補助する必要があったり、うまく母乳が飲めなかったりすると管から栄養をしなければいけない状況になり、新生児の退院までが長引く場合があります。

その他報告があるのは、抗うつ剤の中毒作用と、産まれてから急激に抗うつ剤の成分が母親から胎盤を介してこなくなってしまったことによる離脱症状の両方で、呼吸困難、チアノーゼ、てんかん発作、嘔吐、低血糖、力が弱い、落ち着かない感じ、泣きやむことがないなどの症状がでます。

参考文献

  1. Moses-Kolko EL, et al. Neonatal signs after late in utero exposure to serotonin reuptake inhibitors: literature review and implications for clinical applications. JAMA. 2005 May 18;293(19):2372-83.
  2. Sie SD, et al. Maternal use of SSRIs, SNRIs and NaSSAs: practical recommendations during pregnancy and lactation. Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed. 2012 Nov;97(6):F472-6.

その他は胎児に対する影響としては否定的な意見が多いものですが、どんな報告があるかだけ挙げてみましょう。

2.奇形性(特に心臓の奇形)

妊娠初期のイフェクサー(ベンラファキシン)の胎児への影響として、心臓の奇形(心房・心室中隔欠損症、ただし一般的にも比較的頻度の高い病気)の率が多少ではあるが上がるとされています(そんなことはないとする意見も多く、ほとんど無視できるかもしれません)。

参考文献
Furu K, et al. Selective serotonin reuptake inhibitors and venlafaxine in early pregnancy and risk of birth defects: population based cohort study and sibling design. BMJ. 2015 Apr 17;350:h1798.

3.新生児遷延性肺高血圧症のリスクが上がる

これも否定的ですが、一応挙げておきます。

そもそも新生児遷延性肺高血圧症せんえんせいはいこうけつあつしょうとはどんな状態で、何が問題かということですが、要は肺に血液がいかなくなってしまう状態です。
こうなると血液中の酸素が少なくなり酸欠状態になり、脳の障害を起こしたり最悪の場合死亡に至るケースもあります。

詳細は「メルクマニュアル医学百科家庭版-新生児遷延性肺高血圧-

参考文献
Bérard A, et al. SSRI and SNRI use during pregnancy and the risk of persistent pulmonary hypertension of the newborn. Am J Psychiatry. Br J Clin Pharmacol. 2016 Nov 22.


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授乳中にイフェクサーSRは飲んでいいの?

<妊婦、産婦、授乳婦等への投与>
⑵授乳中の婦人には投与を避けることが望ましいが、やむを得ず投与する場合には授乳を避けさせること。[ラット及びヒトで乳汁中に移行することが報告されている。]

引用元:イフェクサーSRカプセル添付文書

もちろん母乳中にイフェクサーSR(ベンラファキシン)の成分や代謝されたものは移行してしまいます。
そしてその代謝されたもの(デスベンラファキシン)も同等な効果効能を持っています。

ですから添付文書も当然避けるように書かれています。
しかし、授乳によって危険な副作用がでたという報告はまだありません。
母親がイフェクサーSRを内服している例で、子供の血液中の薬物、代謝成分を検出できた例であっても副作用はでていないという報告もあります。
成長にも問題はないようです。

参考Toxicology Data Network (NIH)

授乳中にイフェクサーSR(ベンラファキシン)を母親が内服することで子供に移行はしますので、子供の落ち着かない様子が目立ったり、鎮静がかかって大人しくずっと寝ていて泣くことも極端に少なくなる様子が見られることがあれば、このときに薬を中止すべきか相談したほうがいいでしょう。

出産直後はもともとうつ病になりやすい時期です。
もともとうつ病で治療歴があったり、母親の産後うつ病の可能性が高い時は授乳中でもをイフェクサーSRの内服を始める(再開する)ことを考えなければなりません。
それでも飲んだからと言って、絶対に母乳栄養をやめるというのは賢明ではないかもしれません。

というのも母乳の研究が進んだことで母乳栄養が粉ミルクに比べて優れている点がたくさん分かってきました。
感染症の予防、免疫や神経発達を促す優れた効果、また母児間の愛着形成を促す効果、その他多くの優れた点が科学的に証明されてきたのです。
赤ちゃんや母親にとって母乳をあげるというスキンシップはオキシトシンというホルモンを放出させ、これが母親にとっては幸せホルモンでもあるのです。ひとたび母乳をやめてしまうと、ホルモンの変化などにより母乳を再開することは困難になります。

ここまでみるとあくまで個人的な印象ですが、イフェクサーSRを内服していても原則は授乳をしていることの方が利点は多いのではないでしょうか。
それぞれのケースによるところもありますので、主治医の先生とよく相談して心配のないようにしましょう。


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イフェクサーSR(ベンラファキシン)の子供の服用について

まず添付文書を示します。

<7.小児等への投与>

  1. 低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児に対する有効性及
    び安全性は確立していない。
  2. 海外で実施した7~17歳の大うつ病性障害患者(DSM-Ⅳ精神疾患の診断・統計マニュアル)を対象としたプラセボ対照臨床試験において本剤の有効性が確認できなかったとの報告がある。
  3. 18歳未満の精神疾患を対象としたプラセボ対照試験における、プラセボに対する本剤の自殺行動・自殺念慮のリスク比と95%信頼区間は4.97[1.09, 22.72]であり、本剤投与時に自殺行動・自殺念慮のリスクが増加したとの報告がある6)。

引用元:イフェクサーSRカプセル添付文書

要は、「小児のイフェクサーSR内服の安全性はわからない」「イフェクサーSRが小児に効果あるかはわからない」「小児がイフェクサーSRを飲むことで自殺リスクが増すかもしれない」これらのことを記述しています。

抗うつ剤全般に言えますが、基本的には12歳以上であっても子供や未成年者(厳密には25歳未満)にはあまり出したくない種類のお薬です。
効果の側面もそうですが、アクチベーションシンドロームのリスクが高いことが最大の理由です。
アクチベーションシンドロームというのは、イフェクサーSRを飲むことによってイライラ、不安、焦燥、パニック発作、攻撃性、衝動性、不眠、躁状態などが出てきて最悪の場合、自殺を遂行してしまうことをいいます。

ですから、イフェクサーSR(ベンラファキシン)の成分が子供の成長にどうこうという問題よりは、効果の出ない可能性とそればかりかアクチベーションシンドロームを起こすかもしれないというリスクが目立ってしまうのです。

日本のガイドラインでの小児への抗うつ剤の扱い

また、現時点では、日本において児童思春期のうつ病で安全性・有効性について臨床試験にて示されている抗うつ薬は存在しない。したがって、抗うつ薬を使用する際には、本人、家族に対し安全性・有効性が臨床試験で検証されていないことを説明し、リスクとベネフィットを十分に検討した上で、インフォームド・コンセントを得ることが必要である。薬物治療が選択された場合には、処方量は成人より少量から開始し、年齢に合わせて増量を行う必要がある。(中略)
しかし、知見は成人に比べて十分ではなく、抗うつ薬や精神療法に対する有効性についても一貫していない。(中略)
現時点ではすべてのうつ病の治療薬が児童思春期において安全性・有効性について臨床試験で検証されていないことを説明する必要がある。

引用元: 日本うつ病学会ガイドラインⅡ.うつ病(DSM-5)大うつ病性障害2016

以上のように、「子供がイフェクサーSRを飲んでいいか?」という質問に対して、日本のうつ病学会ガイドラインでもまだ答えが出ていないというのが実情であると考えます。個々の症例によって効果があったりなかったり、リスクが前面にでてしまったりかなりばらつきがあり答えがでていないのが現状です。

子供の使用に関してはSSRI?

日本でのガイドラインは先に書いた通りですが、海外では小児期の不安に対する第一選択はSSRIが推奨されています。
(イフェクサーSRはSNRIに属する抗うつ剤なのでSSRIではありません。)

SSRIもSNRIも小児に対してはかえって自殺衝動を高めてしまうことがもちろんありえます。
しかし、SSRIに関しては特に小児の不安症、抑うつ、強迫性障害に対して有効であるということは明らかにされているのです。

まとめ「イフェクサーSRの妊娠授乳中・子供の服用」

いずれも絶対に飲んではいけないというわけではないです。
もちろん中止できるに越したことはないですが、続けなければならない場合、内服継続を選択しても過度に心配する必要はないと思います。

子供の服用については、アクチベーションシンドロームによる自殺の誘発に最大限注意する必要があります(特に家族や学校の先生など周囲の人)。

 

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