
デプロメール(一般名:フルボキサミン)は抗うつ剤の中でもSSRIに属するお薬です。
SSRIは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬といってセロトニンの神経系を主に増強させるお薬です。
もともと色々な神経系に作用してしまうことで副作用が多く飲みづらい(処方する側としても処方しづらい)印象のあった「三環系抗うつ薬」に対して、その効果と安全性のバランスがとれた薬剤として登場したのがSSRIです。
その第一号として1999年に日本で発売されたのがこのデプロメールなのです。
ルボックスも同じSSRIで成分はデプロメールと同じになります。
ここではデプロメール(フルボキサミン)の用法や飲み合わせについて解説します。
デプロメール錠の用法
剤型と薬価
<デプロメール/ルボックス錠>
(2016年4月1日 薬価基準改定)
デプロメール錠(フルボキサミン)の飲み方
飲み始めは、デプロメール錠 50㎎を1日2回に分割して食後に飲みます。
つまり初回は1回に25㎎錠を1錠内服し、数時間おいて朝1回目に飲んだのなら次は夕食後にも同じように25㎎錠を1錠内服し、1日量として合計50㎎として開始するということです。
添付文書上は1日2回に分けて内服するように指示はありますが、実際は1日量75-100㎎くらいの少量のときには、就寝前に1回内服とする場合もあります。
これ以上量が多いときは2回にわけつつも夜に飲む量を多めに分割して工夫したりして使用します。
これは眠気が強く仕事や自動車の運転などに支障が出る場合があるからです。
どうしても問題になるときは相談してみましょう。
眠気を起こす副作用がある一方で、逆に不眠になることもあります。
不眠になるようであれば朝飲むようにすると解消されることがありますので主治医と相談してみてください。
デプロメールに限らず、抗うつ剤は増量していくことで効果を出します。
増量はゆっくり行い、最高で1日 150mgまでです。(75mg錠を1日2回)
海外での最高用量は300㎎で、日本でもここまで使用すると効果のある例もあります(特に不安や強迫に対して)。
ただ用量を超えての使用は保険診療上はルール違反です、とは言っても患者さん本人が3割負担でなくなることはありません(病院の持ち出しになるだけです)。
ただし副作用も強くなりますし特に相互作用しやすい薬ですから飲み合わせは注意が必要です。
(安い薬なので目をつぶってもらえているのかわかりませんが・・・)
不安が強い場合、デプロメール(フルボキサミン)とともに抗不安薬を一緒に飲むと効果があるので、しばしば一緒に処方されていることがありますがこれは不安症状に対して有効な手立てです。
ただ、デプロメールは米国ではうつ病よりも強迫性障害や不安障害の治療に適した薬と考えられていた経緯があります。
耐えられないような不安や不眠、アカシジア(そわそわして、じっと落ち着きのなさがでる)、攻撃性がでる、急に活動的になりすぎるなどの症状がでたときは、双極性障害の存在を考えなければなりません。
このような症状がでるのはデプロメールに限った話ではなく、SSRIやSNRIにこういったことが見られることがあります。
この副作用をアクチベーションシンドロームと言いその場合は、気分安定薬や非定型抗精神病薬に変更が必要になることもあります。
デプロメールの減薬・断薬について
注意主治医の指示に従って減薬・中止して下さい
離脱症状(ふらつき、嘔気、胃痙攣、発汗、ちくちくした痛み、知覚の異常)がでないようにするためゆっくり減らすのが大事です。
薬がなくなって数日飲まないでいる日がでてしまったときは上記のような離脱症状がでることがあるので残薬に注意しましょう。
万が一、離脱症状が出てしまう時には症状を抑えるために逆に徐々に増量して飲むようにして落ち着いてから、さらにゆっくり減らすようになるか、その量を維持して飲みます。
それでも、デプロメールを飲むほとんどの患者さんでは、1週間で半分に、さらに1週間かけて中止していくことができますがどうしても離脱症状が出やすい場合、個人的には交互内服を指示することもあります。
(1日目)朝25㎎-夕50㎎、(2日目)朝50㎎-夕50㎎、(3日目)朝25㎎-夕50㎎、(4日目)朝50㎎-夕50㎎・・・・
どうしても離脱症状に悩まされている場合、ゆっくり減らしすぎてもゆっくりすぎるということはないためこれぐらい慎重に減量していくのもありだと思います。
個人差もありますので主治医と相談しながらにしましょう。
過量服用による症状
SSRIの過量服用で死に至る例の報告があります。
嘔吐、不整脈(QT延長:無症状だが危険な不整脈につながりやすい状態)、ふらつき、発汗、吐き気、振戦、けいれん、錯乱、昏睡、けいれんなどの症状が出ます。
15歳少年のフルボキサミン(デプロメール)過量服薬による死亡例が2011年に我が国で報告されています。
死因はフルボキサミン過量服薬によるセロトニン症候群で、筋緊張、高熱を認め心停止の状態で救急搬送されています。
参考文献
川野貴久, 他. 症例報告「フルボキサミンとタンドスピロンによるセロトニン症候群により日本で初めて死亡した1例」. 中毒研究(24)4;305-310, 2011
Kawano T, et al. [First death case of serotonin syndrome in Japan induced by fluvoxamine and tandospirone]. Chudoku Kenkyu. 2011 Dec;24(4):305-10.
デプロメール錠の薬物動態と相互作用
SSRIの中で相互作用のリスクが最も高いお薬です。
薬物動態
半減期(最高血中濃度から半分の濃度に減るまでの時間)は約9時間と短めです。(このため1日2回の服用になります。)
デプロメール(フルボキサミン)は肝臓で代謝されますので、肝障害がある場合投与量は少なめにするほうが安全です。
腎機能障害に関しては、投与量の調整は原則不要です。
定常濃度(毎日服用して、一定の濃度で安定するまで)はデプロメール(フルボキサミン)を1週間程度内服し続ければ達成できます。
デプロメールは肝臓の酵素で代謝され身体の外に排出されますが、その肝臓の代謝酵素(チトクロームP450)に対して、デプロメールは作用をしてしまうため他の薬との相互作用を起こすことがあります。
デプロメール錠と他の薬の相互作用
慢性疼痛のお薬に注意
癌による痛み、慢性の疼痛に対して処方されますトラマドール(トラマール®カプセル)によっててんかん発作を起こすリスクがあります。
トラマドールには、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害する(セロトニン、ノルアドレナリンの回収を邪魔することで、これらの活性が増える)という抗うつ薬と同じ作用があります。
それゆえ、抗うつ剤と同時に飲むのは危険です。
三環系抗うつ薬と同時に飲むときは要注意
相互作用により、三環系抗うつ薬が思った以上に効いてしまうことがあります。
パーキンソン症候群の薬に特に注意
デプロメールに限った話ではなくSSRI全般の話になりますが、抗うつ剤は主にパーキンソン症候群に対して使用されるエフピー®(MAOI:モノアミン酸化酵素阻害薬)と組み合わせると、激しい「セロトニン症候群」が誘発されます。
致死的な副作用になるので注意が必要です。
エフピー®も半減期は長いので、もしこのパーキンソン症候群の薬を飲んでいた時には中止しても2週間は抗うつ剤を飲まないのが賢明でしょう。
逆にデプロメール錠(フルボキサミン)を中止したあともある程度の期間(1-2週間)はエフピー®は飲まないほうが安全です。
ちなみに、エフピー®のジェネリック薬品は「セレギリン」ですのでこの名前にも注意しましょう。
血液さらさらの薬に注意
デプロメールの副作用に出血しやすさ(内出血しやすい、あざができやすい)があるので、血液さらさらのお薬(ワーファリン®、バイアスピリン®。プラビックス®など)を飲んでいる場合、注意しましょう。
心臓の手術後で人工の心臓弁の手術をしたり、心房細動といわれる不整脈がある場合、脳梗塞の既往がある場合に処方されていることがあります。
痛み止め(非ステロイド系抗炎症薬)に注意
主に整形外科で処方されるような非ステロイド系の鎮痛剤(ロキソニン®など、最近は市販のロキソニンもあります)は、上記の、出血のしやすさを助長するのと同時に抗うつ剤そのものの効果を減弱する可能性があります。
市販薬ならバファリン®、処方薬ならカロナール®などアセトアミノフェンの鎮痛剤なら安心です。
肝臓の酵素に作用することによる薬の飲み合わせが良くない薬の例
- 抗不安薬の濃度が上がってしまう
- <注意すべき抗不安薬>
- <安全に使用できる抗不安薬>
- コレステロールを下げるお薬(リピトール®)の濃度が上がってしまう
- アトモキセチン(ストラテラ®、注意欠陥多動性障害:ADHD)の濃度を上昇させる
- 抗精神病薬のオーラップ®(ピモジド)との併用で危険な不整脈を起こす(併用禁忌)
アルプラゾラム(コンスタン®、ソラナックス®)、トリアゾラム(ハルシオン®)
ロラゼパム(ワイパックス®)
→筋肉が融けてしまうという副作用「横紋筋融解」が起こることがあります。
デプロメール(フルボキサミン)とカフェイン、喫煙
- カフェインや喘息で使用されるテオフィリンと一緒にデプロメールを飲むと、落ち着かなさや、てんかん発作が起こりやすくなる場合があります。
- デプロメール(フルボキサミン)は喫煙者では増強され体からの排出が早くなる傾向があるので、通常より多めに内服しなければ効果が期待できない場合があります。
まとめ「デプロメール錠(フルボキサミン)の注意事項と使用禁忌事項」
デプロメールはとにかく相互作用の多い抗うつ剤です。
デプロメールからほかの抗うつ剤に変更するときは、主治医ともよく相談して、いつからその新しい抗うつ剤を飲み始めればいいのか確認しましょう。(特に三環系抗うつ薬を飲むときは三環系抗うつ薬の濃度は上がりやすい傾向があります。)
- てんかん発作を持っている方は注意する必要があります。(特に癌による疼痛薬のトラマドールとの併用は危険!!)
- 光線過敏症を起こすことがあります。(光線過敏とはデプロメール内服中に陽にあたると皮膚が反応して炎症をおこしたりすることです。)
- 未成年を含む25歳未満の方では、アクチベーションシンドロームによって、自殺念慮が高まったり、衝動が高まるなどの例もあるため周囲が注意を払う必要があります(保護者など周囲が特に注意を支払う必要があります)。
- 不安や攻撃性、落ち着かなさが高まる、気分が急激に良くなり活動的になったときには双極性障害の可能性を考え主治医に相談しましょう。
使用禁忌
- デプロメール®(フルボキサミン)に過敏性・アレルギーがある
- パーキンソン症候群薬のエフピー®(セレギリン)を内服している
- 抗精神病薬のオーラップ®(ピモジド)を内服している
- 筋肉を弛緩させ、肩こりや筋緊張性頭痛などに処方されるテルネリン®(チザニジン)を服用している
- 睡眠薬ロゼレム®(ラメルテオン)を内服している
いずれもデプロメールとの相互作用により、両者の濃度の以上が起こり作用が強く出たり、セロトニン濃度が過度に高くなったり、血圧低下、死に至るような不整脈が起こったりなどのリスクがあります。
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