Dr.GDr.G

  • 「双極性障害(躁うつ病)という病名に途中で変わった」
  • 「うつ病と診断されていたけど違う病院に行ったら『双極性障害2型』と言われた」

こんな経験をもっている患者さん向けに、なぜこのようなことが起こるのかをお話したいと思います。


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精神科の診断マニュアル(DSM)は改訂されていきます

Dr.GDr.G

DSMディーエスエムは聞いたことがあるでしょうか?

アメリカ精神医学会が作成する「精神疾患の診断と統計のためのマニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental disordes; DSM)」を言います。
1999年に第4版のDSM-Ⅳ、2000年にDSM-Ⅳ-TRに改訂され2013年5月に第5版のDSM-5が登場しました。

毎年多数の医学論文が出て知識が蓄積され医学は日々進歩していくわけですが、精神医学においてはこのDSMを用いた診断でないと学術面では認められにくい慣習があります。
つまり精神科の診断はDSMを基準として診断される傾向はあるわけです。

これはもちろんあたりまえのことで、精神科以外の科では採血やレントゲン、CT、超音波で見て病気の実態をつかむことができるわけですが、精神科では実体は明らかではありません。
症状の経過を聞くことでしかおおむね診断は難しく、ある一定のルールがないとかかる医療機関によってばらつきがでてしまいます。(今でさえかかる病院によって違う病名になることもありますが・・・。)

それを統一するために、皆が同じ疾患に対して物申せるようにするための基準がこのDSMなのです。
これに第5版であるDSM-5がでたということですから、精神科の病気の捉え方に若干の変化が加わったわけです。
この観点から双極性障害(躁うつ病)についてお話したいと思います。

  • 精神科の診断はそのマニュアルであるDSMディーエスエムに基づく
  • そのDSMは改訂されていく(DSM-Ⅳ-TRからDSM-5へ)
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双極性障害

「気分障害」の線上に「うつ病」と「双極性障害」があった

DSM4の双極性障害のイメージ

DSMの1版前の「DSM-Ⅳ-TR」では双極性障害は気分障害に分類されていました。

気分障害
うつ病性障害だいうつ病性障害単一エピソード
反復性エピソード
気分変調整障害
特定不能のうつ病性障害
双極性障害
(躁うつ病)
双極性障害Ⅰ型
双極性障害Ⅱ型
気分循環性障害
特定不能の双極性障害
その他の気分障害一般身体疾患による気分障害
物質誘発性気分障害
特定不能の気分障害

このように気分障害の中に「うつ病性障害」と「双極性障害」が含まれていました。DSM-Ⅳ-TRから見た双極性障害についてまず説明します。

双極性障害はいわゆる躁うつ病のことです。
躁状態とは、気分が高まる、自身に満ち溢れる、睡眠時間が極端に少なくても元気、多弁、考えがあちこちに飛ぶ、注意散漫、性欲亢進するような状態を示します。

うつ状態と躁状態(躁病)を周期的に繰り返したり、うつと躁を同時に含む混合状態(気分がハイになるのではなくむしろ不快感がつよくそわそわ、不安、攻撃性が強いような状態)になることもあります。ですから躁うつ病とは必ずしも、調子がいいようなハイテンションを皆さんが自覚するものではなく不快な症状のこともあるのです。

双極性障害の混合状態
躁とうつが同時に存在することで単純な躁状態のときのようなハイな感覚はなく、むしろイライラや落ち着かない、不安などの不快な症状がメインである状態

双極性障害のⅠ型とⅡ型

躁状態とうつ状態を繰り返すものを双極性障害と診断しますが、簡単に言えばその躁状態の程度が軽いものを双極性障害2型といいます。

  • 双極性障害1型:気分異常の明らかな期間が少なくとも1週間以上続く
  • 双極性障害2型:うつ病のエピソードがあり、かつ軽躁状態が存在したことがある

※軽躁状態:躁状態までいかないレベルの躁状態が少なくとも4日以上つづくもの

双極性障害の疫学えきがく

双極性障害Ⅰ型は有病率は0.4-1.6%程度で男女差はないのですが、双極性障害Ⅱ型では有病率は0.5%でやや女性に多いとされています。(ちなみにだいうつ病は有病率6.4-14.0%です。)

発症年齢の平均は21歳で、これはいわゆるうつ病であるだいうつ病性障害よりも若い傾向があります。

双極性障害の診断と経過

発症時の症状は、うつ状態、躁状態、軽躁状態、混合状態のいずれかで始まります。軽躁状態で始まった場合、これが病態であったことに気づかずその後のうつ状態で病院にかかるようになるかもしれません。この場合、診断は最初うつ病とされていることも多く、その後「双極性障害と診断名が変わった」「薬が大きく変わった」となるのはこのためです。

躁とうつの入れ替わりは数年のこともあれば数か月、数日でかわることもありその経過の多様性が双極性障害の特徴でもあり、本人にとって苦しむことになる元凶なのです。
そして急速に入れ替わっていくものを「急速交代型(ラピッドサイクラー)」と言ったりします。

急速交代型(ラピッドサイクラー)

  • 1年の中で4回以上うつ状態・躁状態・軽躁状態・混合状態が入れ替わるものをいいます。
  • 双極性障害Ⅰ型・Ⅱ型は問いません。
  • 遺伝性はなく、ストレスや薬などの外からの要因によると考えられています。

しかも、躁状態が続くというよりは完全に元の水準の生活しやすいレベルで経過することもあり、普通に仕事ができていたりむしろ軽躁状態によって力を発揮していたりすることもあるのです。
それが途端に日常生活すらままならない状況に陥ったり、混合状態でイライラや攻撃性が目立ち社会的に(会社、学校、家庭)で問題を起こしたりしてしまうことすらあります。病気としての特性以上に、仕事、家庭(夫婦関係、育児や虐待など)にも問題を起こすようになりそれから診断されるようなことも少なくありません。

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DSM-5に改訂されてからの双極性障害

DSM5

DSM-5にかわってから「気分障害」という用語は使用されなくなりました。これまでは「気分障害」の中に「うつ病」と「双極性障害」がありましたが、この改訂で「気分障害」という言い方は消滅、「うつ病」と「双極性障害」は全く別物としてとらえられるようになりました。
ここには双極性障害の過剰診断を減らすための意図が見え隠れします。

おそらく患者さんの中には、「双極性障害かも」と言われている方が多数いると思います。
先にも述べましたが、躁状態が軽く躁とはとらえにくい状態の方は多数存在しています。
そのとき本人にも躁という自覚はなく、平均の水準で生活できているような感覚かもしれません。

ですから、うつ状態にあるときに「うつ病」と診断され、後に抗うつ剤が効かずに「双極性障害かもしれない」と言われ、薬も双極性障害の薬が追加されたり、抗うつ剤からまったくとって変わったりする事例もありますが、これはある種仕方のない部分でもあります(処方としては間違いではありません)。
つまり明らかな躁状態が確認できないものの「双極性障害」という病名がつけられていることは少なくはないのです。

これが「双極性障害の過剰診断」といわれているものですが、この背景には1版前のDSM-Ⅳ-TRにも原因があったのです。
そして、双極性障害がいつでも「うつ状態」と「躁状態」が誰でも分別できるようにきれいに分かれているわけではないことにあるのです。

最初「うつ病・大うつ病」と診断されていても、後に「双極性障害」と診断されることがある

双極性障害の過剰診断と「混合性エピソード」

双極性に対して単極性のうつ病と双極性障害の中間のグレーの部分、つまり普通のうつとしての特徴と、明らかには双極性障害とは言えないけどいわれてみれば躁状態かもしれない状態をあわせ持つ混合性うつ病という概念があります。

明らかには捉えがたいが軽躁状態が存在しそうなうつ病を混合性うつ病双極性うつ病などと呼んでいる。

このうつ病と双極性障害を足して2で割ったようなイメージの「混合性エピソード」という記載はDSM-Ⅳ-TRに記載されているのです。
実際には「混合性エピソード」のDSM-Ⅳ-TRの定義としては、「少なくとも1週間の間ほとんど毎日、躁病エピソードの基準と大うつ病エピソードの基準を(期間を除いて)ともに満たす」とされていますが、つまりは上記のような概念をいっているのだと思います。

DSM4の双極性障害のイメージ(再掲)

捉えることができないレベル(閾値いきち以下)の軽躁状態は躁状態に移行しやすいという報告もあり、当初うつ病と思っていたのは実は閾値以下の軽躁状態を隠し持っており、通常の薬物治療に反応しない原因は本当は隠れ躁うつ病だったという意見が出てきたのです。
そのため、薬の治療に反応しない難治性うつ病では、その中に隠れている双極性障害を見つけることが大事であるという考えが浸透し、双極性障害の過剰診断が生じた可能性があるわけです。

しかし、この過剰診断がということではなく、これだけ閾値以下の双極性障害が実態として潜んでいたのがわかってきたというのが正しいのかもしれません。
そこで新たなDSM-5が登場したというわけです。

明らかな躁状態はわからないけれど、双極性障害はうつ病の中に潜んでいるかもしれない!!

DSM-5での「双極性障害」は「うつ病」と別物

 大うつ病エピソード閾値下いきちか大うつ病うつ症状がない
躁エピソード
双極性障害Ⅰ型
軽躁エピソード双極性障害Ⅱ型他で特定される双極性疾患他で特定される双極性疾患
閾値下いきちか軽躁病他で特定される双極性疾患気分循環症特定不能の双極性疾患

縦軸が躁状態の強さを、横軸がうつ状態の強さを示し、とても柔軟に対応できるような表になっているのがわかります。閾値下いきちかという言葉が、躁の欄にもうつの欄にもでてきていますが、これは「明らかではないけどありそうというレベル」を示すものです。

DSM5による双極性障害のイメージ

これによって、躁状態があればうつの程度によらず「双極性障害Ⅰ型」、軽躁状態があってかつ大うつ病もあれば「双極性障害Ⅱ型」、それ以外は「他で特定される双極性障害」もしくは「気分循環症きぶんじゅんかんしょう」としましょうと約束され、躁やうつの微妙なレベルの分類がはっきりされたことになるわけです。

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結局のところ

うつ病と双極性障害の鑑別診断が、ひよこのオスとメスを見分けるくらい難しいということです。
メスのひよこと思ったら育つとオスのニワトリになったということがこれまでたくさんあったわけです。

DSM-4ではひよこはオスとメスとその中間もいると言われていたものが、今回DSM-5になってひよこのメスとオスは明確に区別され、ただオスっぽいメスもメスっぽいオスもいるという分類になったのです。

しかし大事なことがあります。
いくらこのように概念が修正されたとしても、これからの研究では役立つことがあるかもしれませんが、そもそも躁状態の程度(今回は軽躁以外に、明らかではない閾値下の軽躁状態が定義されていましたが)の把握の難しさが問題で、概念だけの問題ではなかったはずです。

つまり患者サイドからしてみたら、やはりうつ病と双極性障害の区別がしっかりされ診断されることは難しく、これからも「うつ病と思って治療してたら途中から双極性障害に診断が変わった」、「病院を変えたらうつ病が双極性障害と言われた」となる事例はたびたび出てくると思います。

問診で患者さんが何と症状を話したかだけでは心もとなく、光トポグラフィーのような補助的な客観的な指標がもっとでてくることを期待するばかりです。

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