
双極性障害(躁うつ病)は、躁状態とうつ状態の両方をもっていることを言います。
躁状態とは気分が高ぶって開放的になったり(浪費したり衝動的な行動が目立つ)、ほとんど眠らなくても行動できてしまい活動的で、それでいて怒りやすくなっている状態をいいます。
一方で双極性障害でもうつ状態も存在しますが、うつ状態だけを見るといわゆる普通のうつ病と区別はつきません。
そのため当初は躁状態を認めなかったためにうつ病と診断されていたのに経過の中で主治医の先生から「もしかしたら双極性障害の可能性もあるので、薬を変更しましょう」と言われることもあるかもしれません。
これについては以下の記事が参考になります。
双極性障害の治療においては、たとえうつ状態にあっても抗うつ薬を飲むと躁状態を誘発してしまいかえって状態が悪化してしまうこともあります。
双極性障害とうつ病とでは分けてとらえないといけないのです。
ここでは、双極性障害の治療薬について解説しましょう。
参考文献
日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅰ.双極性障害 2012
双極性障害の治療 ―主に躁状態を中心に気分の波がある場合―
双極性障害の治療においては、たとえうつ状態にあっても治療の中心となるお薬は抗うつ剤ではありません。
気分安定薬と非定型抗精神病薬の2つが中心的なお薬になります。
気分安定薬
- リチウム(リーマス)
- バルプロ酸(デパケン、バレリン、エピレナート)
- カルバマゼピン(テグレトール)
- ラモトリギン(ラミクタール)
非定型抗精神病薬
- リスペリドン(リスパダール)
- オランザピン(ジプレキサ)
- クエチアピン(セロクエル、ビプレッソ)
- アリピプラゾール(エビリファイ)
炭酸リチウム(リーマス)による治療
リチウムは躁状態に有効性が高く、継続的に飲むことで躁状態を予防します。
気分安定薬に分類されることもあり、情動の不安定さを落ち着かせることで自殺予防の効果もあります。
また、躁状態だけでなく、うつ病においても抗うつ剤と合わせて飲むことで抗うつ薬の効果が増強することも知られています(増強療法)。
リチウムは双極性障害だけでなく難治性のうつ病にも有効なのです。
リチウムの3つの欠点
1.効くのに時間がかかる
効果が出だすのに数日から数週間かかります。
躁状態が強く、一刻も早く落ち着いてもらわないと困る状況であっても、リチウムだけではすぐには躁状態をコントロールできないのです。
即効性を求める場合には、バルプロ酸や非定型抗精神病薬併せてわせて飲む必要があります。
2.効果が出ない人も多い
もう一つの欠点はリチウムに効果のある人とない人とがいることです。
リチウムを飲み始めて十分な時間がたっても効果がない人(ノンレスポンダーといいます)は何割かいるといわれておりなかなかの割合です。
3.濃度を管理する必要がある
定期的に血液中のリチウム濃度を測る必要があります。
有効なリチウム濃度と副作用が強く出てしまう濃度とが紙一重なのです。
中毒症状の出る恐れのある濃度 1.5 mEq/L以上
リチウムの副作用と中毒症状
リチウムは安全な濃度であっても出てしまう症状(副作用)と、濃度が高まりすぎて出てしまう症状(中毒症状)とがあります。
副作用は飲み始めた最初のころに多く、口が渇いて水分を多く取るようになったり、小さな手の震え、眠気、胃腸障害が出現することがあります。
中毒症状は濃度に依存し、重篤になると腎不全になりおしっこが出なくなり(乏尿・無尿)、血液透析が必要になってしまう場合もあります。
初期症状濃度 1.5 mEq/L~
食欲低下、吐き気、嘔吐、下痢、倦怠感(だるさ)、めまい、ふるえ(振戦)、多尿、乏尿(おしっこがでない)
中等度症状濃度 2.0 mEq/L~
強い振戦(手指の大きなふるえ)、持続する嘔吐、けいれん、歩行困難、錯乱(混乱)、意識低下、脈の不整
重要リチウム中毒濃度 2.5 mEq/L~
無尿、腎不全、けいれん、肺水腫(肺の中に水がたまり呼吸困難)、呼吸停止
バルプロ酸(デパケン、バレリン)による治療
イライラへの有効性が高い
リチウムと同じく、気分安定薬の1つです。
躁状態に対してもリチウムと同等に効果があります。
リチウムより優れるのは効果の速さです。
躁状態の中でもイライラ・怒りっぽさに特に有効性が高いのです。
また、ラピッドサイクラーと呼ばれるようなうつ状態と躁状態を早い周期で入れ替わるタイプではリチウムより有効性が高く、一方でリチウムのようにうつ状態を改善させる効果はありません。
バルプロ酸(デパケン)200㎎錠 1日2回 朝夕食後
バルプロ酸の副作用
重い副作用は少ないのが特徴です。
胃腸障害、手の震え、眠気、だるさなどが主な副作用で特に胃腸障害では吐き気が強く出ることがあります。
まれにだるさが出たと思うと肝機能障害になり中止することになることもありますが、重症化してしまうことはあまりありません。
同じ気分安定薬の中でラモトリギン(ラミクタール)と一緒に併用すると、ラモトリギン(ラミクタール)の濃度が上がりすぎてしまうことがあるため注意が必要です(特に気分安定薬の中でバルプロ酸とラミクタールを薬剤変更するときなど)。
リチウムとバルプロ酸はどう使い分けられている?
気分安定薬と抗精神病薬を一緒に飲む
薬はできるだけ少ない種類であることは基本ですし、飲む側にとってもできるだけ少ない方が望ましいですね。
双極性障害では、躁状態とうつ状態の波があるので、その波をコントロールすべく「気分安定薬」が治療の基本です。
気分安定薬の代表が先ほど説明した「リチウム(リーマス)」と「バルプロ酸(デパケン・バレリン)」です。
しかし、気分安定薬だけで症状が十分コントロールできない場合に非定型抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)が使われます。
①リチウム(リーマス) 200㎎錠 1日3回 毎食後
②リスペリドン(リスパダール) 1㎎錠 1日3回 毎食後
①バルプロ酸(デパケン) 200㎎錠 1日2回 朝夕食後
②アリピプラゾール(エビリファイ) 3㎎錠 1日3回毎食後
双極性障害の治療薬 ―うつ状態に対してどうするか?―
前半は、気分の波、イライラ・怒りっぽさを含め躁状態に対しての治療薬を説明しました。
今度は双極性障害でもうつ状態に対してどう治療するかを説明します。
この場合、気分安定薬でもリチウムやバルプロ酸よりもラモトリギン(ラミクタール)が、躁状態では使われることのなかった抗うつ剤(SSRI)、そして一部の非定型抗精神病薬が選択肢となります。
抗うつ剤を一緒に飲む
双極性障害に対しては、抗うつ剤のみを飲むは原則NGです。
それには3つの理由があります。
- 躁状態を誘発する
- 波が強くなる(いわゆるラピッドサイクラー)
- 躁の状態の心地よさが正常と思い込み、周囲との感覚の格差ができる
躁状態を招いた場合、かえって自殺衝動を強めるリスクもあります。
躁状態の心地よさと周囲との間隔の格差ができると、本人の行動が周囲を常に困らせる結果にもなりますし、常に軽い躁状態を求めるようになります。
通常躁状態を維持することは難しく、結果うつ状態の相を長引かせたりより悪い結果を招くことになってしまいます。
抗うつ剤は気分安定薬と併用し、抗うつ剤もSSRIを基本としてセロトニンだけでなくノルアドレナリンをも増強させるようなSNRIや三環系抗うつ薬は躁状態を招くリスクがより高い可能性もあります。
Question躁うつ病のうつ状態が治まっても抗うつ薬は飲み続けますか?
Answer
これに関しては明確な答えはなく、各主治医の先生に判断が任されています。
しかし多くの場合で、気分安定薬を残して抗うつ薬は中止したり量を減らしていることが多いでしょう。
非定型抗精神病薬を一緒に飲む
非定型抗精神病薬といえば、抗精神病薬の名前の通り精神病症状をコントロールするいわば統合失調症の治療薬のイメージを持っている方も多いと思いますが、難治性のうつ病や、前述した通り躁状態をコントロールしたり、双極性障害のうつ状態にも有効なのです。
双極性障害におけるうつ症状の改善に「ビプレッソ」が登場
非定型抗精神病薬のひとつにクエチアピン(セロクエル)があります。
非定型向精神病薬は一般的に双極性障害の躁状態に有用性がありますが、クエチアピンは双極性障害のうつ状態への有用性がある薬剤であることが知られています。
そのためクエチアピンは海外の治療ガイドラインにおいても第一選択薬として位置付けられているのです。
今回2017年8月30日、クエチアピンがゆっくりと吸収されるタイプの薬剤(徐放錠)が作られ「ビプレッソ徐放錠」の名前で登場しました。
適応は「双極性障害におけるうつ症状の改善」です。
1回50mgより開始し、2日以上の間隔をあけて1回150mgまで増量する。その後、さらに2日以上の間隔をあけて推奨用量1回300mgまで増量する。いずれの場合も1日1回就寝前に、食後2時間以上あけて経口投与する。
ラモトリギン(ラミクタール)
リチウム、バルプロ酸と同じく気分安定薬に分類されるお薬です。
リチウムやバルプロ酸が主に躁状態をコントロールし、そううつの波を抑えるのですが、ラモトリギン(ラミクタール)はうつ状態の改善を主体として気分の波を抑えます。
注意点としては副作用として皮膚のトラブル(アレルギー)が多く、一部で死亡例もあり厚労省から注意喚起された経緯もあります。
特に量が多くなると出やすくなり、バルプロ酸と合わせて飲んでしまうと血中濃度が上がりすぎてしまうことがあるため、バルプロ酸から変更する場合などに注意が必要です。
ラモトリギン(ラミクタール)
1-2週間 25㎎ 1錠 1日おき
3-4週目 25㎎ 1錠 毎日
5-6週目 25㎎ 2錠 1日1-2回に分けて
7週目以降 25mg 4錠 1日1-2回に分けて
抗不安薬も有効ではあるが・・・
双極性障害においても抗不安薬は有効です。
特に不安が強く、落ち着いてじっとしていられないような症状には即効性もあります。
しかし、よく効果が実感しやすいからと言って長期に服用すると慣れ(耐性)ができてしまい、量が増えていきさらに依存性もできてしまいますので注意が必要です。
双極性障害における抗不安薬の使いどころ
躁状態が強く周囲が困る場合には、抗精神病薬をなるべく多い量(高容量)で飲んでもらうことがあります。
しかしこれには欠点もあり、鎮静作用が強くかかってしまいます。
短期的にはこの鎮静作用が躁状態を早期に落ち着かせることになりますが、これでは日常生活もままならないぐらい活動レベルが落ち込んでしまいます。
そこでベンゾジアゼピン系の抗不安薬が登場します。
抗精神病薬は減量すれば鎮静も解除され、活動レベルが戻ってきます。
しかし減らしすぎればやや躁状態が目立ってしまうことがあります。
こういった場合に、抗不安薬を頓服(必要時だけ飲むこと)で使用することでコントロールできたりするのです。
まとめ「双極性障害の治療薬」
双極性障害では躁状態とうつ状態の波が存在しこれをコントロールしなければいけません。
特にうつ状態だからといって、抗うつ剤だけを飲んでいるとかえって不安定な状態になってしまうこともあります。
ですから「気分安定薬」・「非定型抗精神病薬」を中心に薬物療法を行うことになります。
双極性障害の診断はうつ症状で病院・クリニックに通院し始めた最初に診断されることはあまり多くなく、抗うつ薬を飲んでも効かなかったりかえって服用後に調子がわるくなることをきっかけに診断されることがあります。
このときにリチウムやバルプロ酸、ラミクタールといった気分安定薬やクエチアピン(セロクエルや2017年8月に承認されたビプレッソ)などを中心としたお薬に変更されます。
双極性障害によるうつ状態が強い時に抗うつ薬があったほうが良いのかどうかは個人ごとに反応がかわりますので様子をみながら調整することになるのです。
最新情報をお届けします
コメントはこちらからお願いします