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うつ病が治らない?

Dr.GDr.G

重度のうつ病で長く通院しているがなかなか良くならず、主治医からも「甘え」と言われてしまっている方のコメントに対する返信なのですが、深い内容でしたのでコラムとして記事にさせていただきました。


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うつ病って結局何だろう?甘えなの?

うつ病の定義というものはあるのですが、精神科・心療内科の病名というのは内科や外科の病名と違って病態(身体の中で何が起こっているか)というより、起こっている症状そのものに名前がついているだけと考えています。

一般の診療科で言うなら、風邪っぽい症状と言えば風邪だし、花粉症で目がかゆいと言えば病名は花粉症になるでしょう。
しかしその風邪っぽさや、目のかゆみが薬を飲んでも良くならなかったらどうするでしょうか?

おそらく採血したりレントゲンをとったりなどの検査をして、今度は症状だけで判断するところから何がおこっているのか探ります。
すなわち病態びょうたいにせまるわけです。

結果、肺炎であれば感染している細菌に合う抗生剤を使いますし、目のかゆみが花粉症ではなくウイルス性の結膜炎であれば経過をみてウイルスがいなくなるのを待つなどその病態にあわせて対応していくことができます。

話を精神科・心療内科に戻します。
もしうつ症状がよくならなかったらどうなるでしょう?

最初は薬を変えて様子をみたりしますね。
うつ症状には波がありますからその後一旦良くなったとします。
それでも社会に復帰後、再度症状が再燃すれば休みがちになったりするでしょう。

そこで周囲からは「甘え」と言われてしまいます。
主治医からも「甘え」と言われてしまうと、言われた本人からすればもう救いの手がなくなってしまいます。

そうなると他のクリニックにかかるという流れになることが多いと思います。
そこでは「うつ病ではなく双極性障害かもしれません」と言われるかもしれません。
そしてお薬が変わっていきます。

これで効果がでないとなると、やはり「甘え」となってしまうのでしょうか・・・・。

一般の診療科と違って精神科・心療内科では「病態」というものに迫ることができません。
それは採血やレントゲンなど病態を明らかにする客観的指標(バイオマーカーといいます)がないからです。
それでも最近は光トポグラフィー検査などがでてきましたが、まだ完璧ではありません。

うつ病はSTAR-Dという研究において、その約30%の方が治療に反応しないことがわかっています。
通常最初に処方される抗うつ薬(SSRISNRINaSSA)が十分な量を十分な期間内服すればほとんどのうつ病は寛解かんかいします。

寛解しない場合、気分安定薬(リチウム、抗てんかん薬)や非定型抗精神病薬(エビリファイ、クエチアピンなど統合失調症などにも使用されるお薬)を併用し増強療法を行うことが一般的です。
またこれに抗不安薬や睡眠薬、しかもこれらは複数処方されたりして飲んでいる側としては「こんなにお薬飲んでいて大丈夫なのかな?」「飲んでも良くなっている気がしない」と不安に思うこともあるでしょう。

このようにうつ症状が寛解せずに慢性に経過してしまう、それでいて薬もたくさん飲んでいるという方は意外と多いのではないかと思います。

うつ病を違った観点からとらえていきましょう。

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慢性の経過をとりやすいうつ病の特徴とは

※ここからは私個人の知見も入ってきますので、一般論として医学的にエビデンスが揃っているわけではありません。

薬物治療に反応せずに、慢性の経過をとってしまう方にはこんな特徴があります。

  • ぐるぐるずっと考えてしまう
  • 過去未来の事をずっと考えてしまう。心ここにあらずの状態。周囲からもそんなに考えなくてもいいと言われ、自分でもわかっているが考えずにはいられない状態。

  • フラッシュバックしやすい
  • 過去の出来事が何かあるとすぐに浮かんで襲ってくる。

  • なかなか切り替えられない
  • 何かやり出すまでに時間がかかるが、逆にやりだすと完璧にやろうとしてしまう

  • 過敏性が高い
  • ちょっとしたことに大きく反応してしまう(出来事、音、光、びっくりしやすい)

  • 不安・緊張がでやすい
  • 不安や緊張が強く、言葉につまることがある。緊張が強く、肩こりや頭痛、汗、頻尿など体にも症状が出やすい。

  • 完璧思考になりやすい
  • こうあるべきが強く、自爆しやすい。

うつ病と言うと、ほとんどの方が車で言うならエンジンがかからない状態を連想しやすいと思います。
しかし、慢性の経過をしてしまう方というのはむしろエンジンは過剰ですごくパワーを持っていることが多いのです。
つまりエンジンが空回りして自爆している感覚すらあるでしょう。

寝ているときもエンジンは切れずにずっと頭の中で考えていますから、脳のエネルギー消費は高く燃費悪く脳も休まりません。
結果、たくさん眠ったり横になっている時間は長くなるでしょうし、寝たとしてもおきたらいきなり体は重いわけです。

夜にはようやくエンジンが調子よくなってきて「明日こそ仕事行く!頑張る!」となったとしても、朝になると切り替えがかからず「仕事いきたくない」感覚は強くなるでしょう。

エンジンはかかっているわけですから周囲から見ると決してうつには見えません。
やりだすとできることもあるため「甘え」とみなすことも多くなるはずです。
そして決まって言われるはずです。

「考えすぎだよ!」と・・・。

本人からすれば考えすぎなのはわかっていて、そこからの切り替え、すなわち「まあいいか」の感覚が出なくて困っているのです。
このように慢性のうつ病、薬の効かないうつ病はいわゆるうつ病(エンジンがかからない)と違い、逆にエンジンは過剰でむしろブレーキやハンドルなど車をコントロールする側が上手くいっていないのです。

頭の中はとても忙しいbusyな状態で、考えることをやめられず、過敏性も高く、とても疲れやすいのです。

それを「甘え」と言ったり、「考えすぎ」と言ってしまうのが本人にとってなんと残酷なことかと私は考えています。
脳もひとつの臓器であり、その脳と言う臓器の異常なのです。

文藝春秋(2017年5月26日季刊夏号)では「脳と心の正体」が特集されています。

この中で橘玲氏は脳科学が発展した結果からわかったことは「意識は幻覚、自己は無意識」と言っています。
橘氏の意見ではなく脳の機能からみた本質です。

つまり私たちがマインドとして作り出している意識は幻覚であると言うわけです。
これには様々な反論もあるでしょうが、考えすぎたり過敏に反応しているその意識を意識で制することは難しいそのことを言っています。

慢性のうつ病が良くなるためには無意識に「まあいいか」と切り替わりあまり考えなくなることが必要ですし、過敏性はそもそも意識と関係ないのはわかりやすいでしょう。
本人の考え方が悪いわけではないのです、いわんや甘えではもちろんないですね。

慢性の難治性うつ病が良くなるとは「毎日が意欲的で楽しく、落ち込まない、体がいつも軽くやる気に満ち溢れている状態」をいうわけではありません。
治るとは「ぐるぐる考えずいつのまにか切り替えができて、緊張不安はあってもそこにはまだ遊びがある状態」なのでしょう。

では「脳という臓器」をどう治療すればいいのでしょうか?

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難治性うつをどう治療するか

先にも述べましたがいわゆるうつ病(大うつ病)であればSSRIやSNRIといった抗うつ剤が効きます。
それはエンジンがかかっていない状態に、セロトニンやノルアドレナリンを増やすことでエンジンがかかるようになるからです。

しかし難治性の慢性のうつ病はイメージ的にはエンジンの不調ではなく、ブレーキやハンドルといった車の制御に関する部分の異常なのです。
エンジンはむしろ空回りしています。

抗うつ剤は一旦反応するかもしれませんが多くの場合、あまりかわらないかむしろ不安や焦燥感(じっとしていられない感覚)が強く出る人もいます。

治療は、「まあいっか」とスルーできる感覚になること「考えすぎない」感覚になっていくことです。
しかも無意識にです。

カウンセリングは有効でしょうか?
残念ながらカウンセリングのみでは考えすぎないようにさせることは難しいのではと考えています。

現状の保険診療内での治療においてはなかなか解決策を見出すことは難しいと言わざるを得ません。
しいて言えば認知行動療法がある程度有効な例もあるくらいでしょうか。

ここからは保険診療を逸脱するので万人に強くすすめることはできませんが、こんな方法はあるくらいで参考程度に知っていただければと思います。
2つ紹介します。

1つは「マインドフルネス」です。
最近はGoogle社が、社内で取り入れてストレス対策を行っていることでも有名ですが、この方法にはある程度のエビデンスもあるようです。

マインドフルネスとは無にすることを言うわけで、一言で言えば「禅」です。
医学的に解釈するなら頭の中で考えが回らないようにさせる練習をするわけです。

そしてもう一つは経頭蓋磁気刺激治療けいずがいじきしげきちりょう(TMS)」です。
これは2008年にアメリカ食品医薬品局(FDA)が承認し、NHKスペシャルでも取り上げられ一時有名になりましたが非薬物療法の1つです。
磁気を脳に当てて、脳の機能を調整するという方法で米国ではうつ病治療ガイドラインの中でも薬物が効かない場合の選択肢として挙げられています。

ただし、残念なことに保険適応外治療ですので経済的な負担があります
うつ病が慢性に経過してしまっていて、薬物療法も効果がなく打つ手がない場合にも確かに選択肢にはなります。

長くなってしまいましたが、現状うつ病治療で約3割で同じような経過の方々がいることをご理解いただければと思います。
薬物療法で薬の組み合わせを変えるだけで解決できない場合も多々あり、むしろ薬漬けになって副作用なのかうつの症状なのか分からない状態は避けたいところです。

また甘えと言われてしまうことの辛さ、自身の生きづらさそのことを周囲も医療者も理解することは重要と考えます。

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