はじめに

うつで仕事できない
2015年12月に労働安全衛生法の改正によって、労働者の精神状態を1年に1度チェックすることを義務付けた「ストレスチェック」。2016年現在は従業員50人以上の事業所に対し実施が義務づけられていますので、50人未満の事業所ではチェックされた覚えはないという方もいるでしょう。

ストレスチェックの狙いは労働者が自分のストレス状態を知って早めに対処し、うつなどを予防することにあります。自殺やうつによる経済的損失は、2009年で約2.7兆円に及び、2014年の自殺者は2万5427人、うち実に2227人(およそ10%)が勤務問題を苦に命を絶っています(厚生労働省)。

ここからもわかる通り、仕事のストレスはうつにとって無視できない問題なのです。仕事できない状態に陥る前に救済するのが理想というわけです。

高ストレス状態は要注意

ストレスチェックで高ストレス状態と出た場合でも、自覚症状のない方が見受けられます。いわばなんとか気力で乗り切ってしまっている状態なのでしょう。本人が希望すれば産業医と面談ができるのですが、本人に自覚症状がなければわざわざ面談しないでしょう。

しかし、その後をフォローしていくと、後々仕事に行くのが辛いと訴えるようになってきて、「そういえばあの時、高ストレス状態とでていました。」という患者さんも散見されます。高ストレス状態と出た場合は自身でもそれを気に留めておく必要はありそうです。そして朝仕事に行くのが辛いとか、仕事の効率が落ち始めたら早期に対応するようにしましょう。

これってうつ病?どこから病気?

うつで仕事できない
この明確な線引きは非常に難しく、あいまいさがあります。(現在は光トポグラフィー検査が診断を補助するのに使用される客観的な検査です。)
とは言っても自分でもある程度の指標は必要です。

そこで「二質問法」というものがあります。

  1. この 1 ヶ月間,気分が沈んだり,憂うつな気持ちになったりすることがよくありましたか?
  2. この 1 ヶ月間,どうも物事に対して興味がわかない,あるいは心から楽しめない感じがよくありましたか?

この2項目のうち最低1つ満たすかによって、一般診療におけるうつ病のスクリーニングとして十分であることが米国で示されており、日本の職域でのうつ病スクリーニングにも有用であることが言われています。

そしてもう一つの判断基準に「不眠」があります。現時点でうつ病を発症していなくても不眠を訴えている患者は3年以内にうつ病を発症する危険率が不眠のない人たちに比べて4倍高くなることが言われています。

ですから、不眠の訴えがあればうつ病の発症をまず疑い、2項目質問票の1つにチェックがつくならすぐに医療機関を受診し、その時点で仮にうつ病が発症していなくても、今後うつ病が発症する可能性を考えておきましょう。

【参考文献】

  • Riemann D, Voderholzer U : Primary insomnia : a risk factor to develop depression?. J Affect Disord 2003 ;76 : 255―259
  • 尾崎紀夫:不眠の訴えからうつ病診療へ 一般診療における留意点.日経メディカル 2005 ; 三月号 :132―133
  • Whooley MA, Avins AL, Miranda J, et al : Case-finding instruments for depression. Two questions are as good as many. J Gen Intern Med 1997 ; 12 : 439―445
  • 鈴木竜世,野畑綾子,金 直淑ほか:職域のうつ病発見および介入における質問紙法の有用性検討:Twoquestion case-finding instrument と Beck Depression Inventory を用いて.精神医学 2003 ; 45 : 699―708
スポンサーリンク

うつで仕事ができない状態になってしまったときにはどう対処したらよいのでしょうか?

うつで仕事できない状態とは

うつで仕事できないとは以下の状態を指します。

  • ミスが多い(注意散漫)
  • 集中力がなく、仕事が進まない(集中力低下、仕事の能率低下)
  • 人の話や文章が理解できない(理解力低下)
  • 考えがまとまらない(思考力低下)
  • 些細なことでも判断、決断できなくなる(判断力、決断力低下)
  • ふとした時に悲しくもないのに涙が出てくる(感情失禁)
  • やる気が起きなくなる(無気力感)
  • 身体がだるい、重い(疲労感、倦怠感)
  • 気分が落ち込み、仕事が手に付かない(抑うつ気分)
  • 夜に十分な睡眠が取れず、日中の眠気が強い(不眠)
  • 遅刻・早退・欠勤が増えている

その結果、

  • 上司に怒られる
  • 残業、休日出勤が増える
  • 仕事ができない自分が嫌になる
  • 仕事が辛くなる、仕事に行けなくなる

という悪循環に陥っていきます。

どう対処するのが良いか?

うつで仕事できない
症状が出るに至ったきっかけを探して改善することができればよいですが、もちろんそれが難しい時もあります。

現時点で既に仕事できない状態であれば、今後自然に改善する可能性は低いでしょう。かえって無理することでより悪化していく可能性さえあります。

自分の今の状態がうつ病なのかは自分ではわかりません。心療内科、精神科で専門医に診てもらうことも考慮しましょう。家族、友人、恋人、職場の人、産業医など信頼できる人に相談することも有効です。
今の自分の状態について他の人に知っておいてもらうことで、今後の仕事や生活についての相談もしやすくなるでしょう。

また、最近は脳疲労というとらえ方からストレスに対応する科学的な方法として「マインドフルネス」という手法もあります。
アメリカのイェール大学医学部を卒業し、現在はロサンゼルスで開業しマインドフルネスやTMS磁気刺激など脳科学の最先端の治療を取り入れたクリニックを開業されている久賀谷 亮くがや あきら先生(精神科医・医学博士)の著書「世界のエリートがやっている 最高の休息法-脳科学×瞑想で集中力が高まる-」では、その脳疲労に対するアプローチが紹介されています。
グーグルやフェイスブックなどアメリカを代表する企業ではマインドフルネス研修が取り入れられているようですし、アップルの創業者である故スティーブジョブス氏も、マインドフルネスの実践者であったようです。

「最高の休息法」が教えるマインドフルネスの効果に医師がお答えします

仕事をどうする?

次に考えるのが、仕事をどうするかだと思います。いくつかの選択肢がありますが、

  • それでも今の状態で続ける
  • 仕事の負担を減らしてもらう
  • 休職する

などの方法があります。では具体的にどうしたらいいでしょうか?

うつ状態のときはマイナス思考になりやすく、このことが効率を下げて仕事できない状態をつくります。

「これ以上働いていても周囲に迷惑をかけるだけだ。遅刻早退も増え、周囲からは怠けていると思われているんだろうか。辞めよう。」と極端な考えにになってしまいがちになるのです。

また、正しい判断をするための前頭葉の機能が落ちることから、安易な結論を出してしまうという、YesかNoかといった二分法、白黒思考と呼ばれる思考パターンに陥るのです。
いったん落ち着いて、会社(上司、同僚、人事、労務など)に自身の現状を素直に説明するのがいいでしょう。

うつで仕事できない状態であることを会社に報告する

うつ病に対しては言葉は浸透したものの、世間は十分に理解しているとは言えないでしょう。

未だに、うつ病になるのは「心が弱い」「ストレスに弱い」せいで、気合いが入っていないだけの単なるなまけ者、甘えであると考える人もいます。

だからと言って、うつ病が「脳(特に前頭葉)」という1つの臓器の機能不全であることを一生懸命話したところでその考えが変わるわけでもありません。

しかし、こんな見方もできます。うつ病を隠すことで周囲に「仕事への意欲がない」「なまけている」「甘えている」と誤解されて見られているかもしれないことです。また、うつ病を隠して仕事を続けると、悪循環に陥って余計にストレスを溜め込んでしまうことにもなりかねません。

まずは、きちんと自分の病状を職場に報告し、周囲からサポートを受けられるような状態を整えておくことが重要です。話してみると上司も「昔自分もうつ病だった。」ということを逆に聞いて安心したという患者さんもいらっしゃいます。

症状が改善するまで休職する

「仕事を辞めよう」
「転職すればなんとかなるかもしれない」

このように考えているうつ病・うつ状態のかたは非常に多いです。

「怠けているのではないか」
「甘えているのではないか」
「この環境が悪い」

という思考を持つことでこのような考えになるのですが、うつ病・うつ状態に陥ったために仕事できない状態にあるのであり、決して怠けや甘えなどではありません。

ですからまずは、「会社を辞める」という判断ではなくそれなら「休職」をとるようにしましょう。

休職には通っている病院の医師から診断書を書いてもらい提出する、産業医がいるなら相談するなどして、休養の手続きを進めることができます。また、休職にともない有給休暇や健康保険加入者を対象とした傷病手当金などが活用できる場合があります。社会保険事務所、もしくは会社の総務・労務・人事など担当の部署に確認してみましょう。

「休職は絶対にできない!」そんな時はどうしたらいい?

うつ病の治療では休養は有効な手立ての1つです。ですから働きながら治療を受けることは必ずしも望ましいとは言い切れません。

それでも休職できない状況というのも現実問題あると思います。その場合は、うつ病の症状が軽いことが前提で、その中で無理な働き方をしない、必要な時には休養を取ることができる環境を整えておきます。そのためにも会社には必ず自分の病状を報告し、業務内容や勤務時間も配慮してもらえるようにする必要があります。報告することで「それなら少し休んだ方がいいのではないか?」と逆に会社から言ってくれる場合も非常に多いです。

いつも通りに働き続けていると、うつ病が悪化した時に、業務にも影響を与えてしまう可能性があります。もし働きながらうつ病の治療を行う場合は、自分ひとりの問題と捉えず、周囲のサポート・情報共有を心がけるようにしましょう。

自分でこうすべきと決めつけず必ず医療機関と相談しましょう。必要に応じて診断書を出してもらう場合もあるでしょう。

大切なことは仕事を勝手に辞めないこと

「仕事辞めようかな?」という考えが出てくるかもしれませんが、今の状態で大きな決断をすることは避ける方が賢明です。うつ病の状態では極端な思考になりがちになり後々後悔することもありますし、仮に休職になったときには傷病手当も申請することが可能です。

「今辞めるか」「辞めないか」の二択ではなく、「一度ゆっくりと期間をおいて考える」「誰かに相談する」ことが必要です。仕事できない原因がうつ病にあると分かれば、治療をすることで症状が軽快し、仕事ができない状態も改善されるでしょう。

仕事がなくて困っている場合

仕事を辞めないことが大事とはいっても治療が長引いたり、都合によって退職せざるを得ない状況ももちろんあります。

うつ病・双極性障害の治療が長引いて仕事をやめざるを得ない状況になってしまった場合、ある程度コントロールがついても次に問題になりやすいのは次の仕事をどうするかです。

もちろんやらなければいけないこと、次にやるべきことが決まっていれば別かもしれませんが再び同じ状態になったらどうしようという怖さもあるでしょう。

ながらく働けていなかった場合、通常の職務への復帰に不安があるなら障害者手帳(精神障害)を取得して障害者枠での雇用も可能です。
ハローワークに通っているけどなかなかないという場合、障害手帳を持っている方のための就職・転職サポートもありますので利用してみるのも良いでしょう。

専門家の立場から

産業医の立場から

うつで仕事できない 産業医
社員から希望があればいつでも面談することができます。会社の人事・労務と社員の間を中立的立場で介入し、社員からは職場環境のストレス因子や、異動などの希望を聞き必要があれば職場環境の調整をすることも可能です。

また直接上司には言えないことも相談頂いたりすることがありますが、もちろん守秘義務で守られていますので安心して相談してみてください。

異動した方が良いか、就業制限した方が良いかを会社の人事・労務と調整していきます。休職になる場合には、主治医の診断書が必要になります。基本的に休職した場合、完全に良くなってから復職してくださいと言わざるを得ないですが、実際問題は復職には結構なストレスがかかることが多く、徐々にフルタイムで勤務していくように支援していく場合もあります。

精神科専門医の立場から

うつで仕事できない 精神科
まずは、しっかりと問診をして現在の状態を把握します。うつ病を疑う場合には光トポグラフィー検査という、客観的に現在の状態を評価できる検査機器も有用です。

その結果、必要に応じて休職をすすめ、休職する場合には診断書を発行します。この方法はストレス因子が職場にある場合には有効です。

ただし、ストレス因子が仕事ではなく、家庭の事情などプライベート、借金などの経済的な問題の場合は休職が逆効果になる場合があります。職場が直接のストレス因子でなくとも、うつでは過敏性がでてくるため、職場で起こったちょっとしたトラブルが落ち込みやイライラにつながり、抑えきれないで問題になる場合もあります。

職場にも影響がでて仕事できない、仕事行けないということがあるためこの辺のストレス因子をしっかり整理していく必要があるでしょう。

経過次第では抗うつ薬を中心に薬物療法を始める場合もあります。どうしても改善なく、薬を飲みたくない、薬の副作用(眠気・だるさなど)が辛い場合、現在は磁気刺激治療(TMS)という薬を使用しない治療方法もあります。

精神保健福祉士からのアドバイス

うつで仕事できない

精神保健福祉士Y氏精神保健福祉士Y氏

医療機関にかかって治療が必要になってしまった場合には以下の制度が受けれます。自分で申請するものなので知らないと受けることができないものです。

自立支援医療費制度

制度の概要

通院治療の負担軽減を目的とした制度です。医療保険は医療費の3割負担が基本ですが、この制度を併用すると負担が1割に軽減されます。実際には所得に応じて、それ以上に軽減される場合もあります。

申請方法

お住まいの区市町村が申請窓口となります。必要書類は役所窓口にある「自立支援医療費支給認定申請書」が、別途マイナンバーの記入と主治医の記入する「自立支援医療診断書」が必要になります。医療保険の被保険者証と所得を証明する書類(課税証明書など)も一緒に提出します。

申請後の流れ

認定された場合、都道府県知事から「自立支援医療受給者証」が交付されます。
ただし、自立支援医療制度が適用される医療機関・薬局はすべての機関ではないことに注意しましょう。有効期間は1年間で、治療が長引く場合は更新手続きが必要になります。

精神障害者保健福祉手帳制度

制度の概要

精神障害を持つ方が一定の障害にあることを証明し、この手帳を持つことにより税金の減額、公共交通機関(バス、電車、タクシーなど)、NHK受信料、NTT・携帯電話料金などにおいて割引が受けられます。

障害者手帳(精神障害)を取得して障害者枠での雇用も可能になります。
障害手帳を持っている方のための就職・転職サポート

申請方法

お住まいの区市町村窓口にある申請書(マイナンバーの記入が必要になりました)、診断書を提出します。診断書は専用の用紙があり、初診から6か月経過している必要があります。等級は重症なものから1-3級までありますが重症度によっては発行できない場合もあります。

その他

有効期間は2年間です。

傷病手当金

制度の概要

うつで働けずに仕事を休み、給料が支払われない場合や給料が下がった場合、その間の生活に対し健康保険から受けられる保障が傷病手当金です。

支給額と支給期間
支給額

1日につき、標準報酬日額×2/3を受け取ることができます。

支給期間

支給が始まった日から1年6ヶ月の期間で、支給を受ける条件を満たしている日に支給されます。

支払いを受ける条件

健康保険給付として受ける療養に限らず、自費で診療を受けた場合でも、仕事に就くことができないことについての証明があるときは支給対象となります。
医師の意見をもとに仕事につけないと判断され、3日以上連続で仕事に就けず欠勤したことを証明する必要があります。もちろんその期間給与を受けていないことが前提です。

申請方法

上記の条件を満たしていれば申請できます。全国健康保険協会のホームページからダウンロードし、印刷してお使いいただくか、全国健康保険協会で申請書をもらうかして、申請書を用意します。傷病手当金の申請書の中に事業主の証明と主治医の証明欄がありますので、働けなかった期間の証明をもらいます。その後、全国健康保険協会に傷病手当金の申請書を提出します(郵送もしくは持ち込み)。全国健康保険協会の各都道府県支部の住所はこちら

まとめ

「仕事できない」「仕事に行けない」こんな状態になってもまずは落ち着いてひとつずつ対処していきましょう。

絶対に「怠けているんじゃないか」と自分を責めるのはやめてください。その考えがある時点でもう十分に真面目に頑張りすぎているのではないでしょうか。

落ち着いて周囲に相談するようにしましょう。職場には産業医もおりますし、必ず打開していく策があります。休職が必要になってしまった場合であっても、経済面において上記に説明したような支援もあります。

まずは、現在の状態を医療機関で客観的に判断してもらい、どうやって復帰していくかを考えていくようにしましょう。

Q&A

仕事できないことがうつのせいであることを上司がわかってくれません。上司からは「考え方だ、うつ病のせいにするな」と言われてしまいます。このままでは仕事に行けないようになってしまいそうです・・・。どうしたらいいでしょう?
すでに精神科通院中なのでしょうか?自身の病気を必ずしも周囲(家族も含めて)にわかってもらうことは難しい場合も多々あります。意地になって理解させようとすることのほうがかえってストレスになりやすいです。
仕事ができないために悪循環に入ってしまうようであれば、休職もやむを得ないかもしれません。無理しすぎて社会から逸脱していくことのないようにすることを第一優先として動くようにしていきましょう。
光トポグラフィー検査は視覚的にとらえることができる検査です。この検査によって家族も納得したりすることも多いのでどうしても理解させたいという場合はこの検査を受けてみるのも手だと思います。

うつ病と診断されましたが、自分では納得できません。職場で周囲とぶつかることが多く、このことがストレスで仕事できないだけだと思っています。1か月休職して調子が良くなったので復職するのですが、環境調整されませんでした。これで戻って大丈夫でしょうか?
大丈夫かどうかは難しい問題で、実際目の前の患者さんでさえも復帰してみないとわからないことも多いです。現実問題環境調整ができないままで復職することになるのも少なくありません。
うつの中でとにかく過敏性が強く、周囲とぶつかりやすい症状のタイプがあります。ある程度病態が安定していれば、過敏性が収まり周囲と折り合いがつくこともあります。逆に職場に戻ってまた同じ状況になるようであれば、周囲とぶつかってしまう理由に着目し、自身に衝動性の高さ、軽躁状態(攻撃性、イライラ)がないかをみて、場合によって治療方針を変えることが必要になるかもしれません。
スポンサーリンク

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします