
「現代型のうつ病」という言葉をよく聞くようになりました。
最近のうつ病はそんなに変わってきたのでしょうか?
それとも、精神科・心療内科クリニックが増えて受診する人が増えたために、これまで病院に来ることのなかったタイプの方を診ることが多くなったからなのでしょうか?
また抗うつ薬が数多く登場し、処方される数も増えたために従来では処方しなかった例に診断名がつけられるようになったのでしょうか?
ここでは、現代型うつ病と呼ばれる病態を中心にうつ病の種類について解説したいと思います。
目次
うつ病は時代を映す鏡
うつ病は憂うつなどの気分の障害を基本症状とする精神障害ですが、すべての患者が同じ病態像を示すわけではありません。
その人のパーソナリティや置かれている環境はそれぞれ異なりますから、症状の現れ方や組み合わせにも個人差が生まれます。
もっと視野を広げると、現代人の価値観やライフスタイルは50年前、100年前とはかなり違ったものになっているはずです。
現代のうつ病は、現代社会と現代人の特徴を反映した病態像を持っていると考えられます。
まず、従来型のうつ病、すなわち「いわゆるうつ病」とも言えるものから紹介しましょう。
逆に「現代型うつ」という言葉が意味するものはすなわちメランコリー型、従来型ではないうつのことを指します。
従来型のうつ病「メランコリー親和型」
メランコリー親和型うつ病はいわゆる従来型のうつ病です。
性格的な特徴として几帳面、律儀、強い責任感、他者への配慮が顕著にみられます。
秩序を重んじ、自分に対しても厳しい姿勢を保つ傾向があります。
「うつ病は真面目な人がなる病気」という世間一般の認識はメランコリー親和型によるところが大きいのです。
よく最近は双極性障害(躁うつ病)という病名も耳にするかと思いますが、「躁状態」と呼ばれるような、攻撃性が出たり気分の高まりや感情の起伏が激しいといった特徴はなく、いわゆるうつ状態がメインの症状になります。
「現代型うつ病」をめぐる種々のうつ病
ここで示すうつ病の種類は、いわゆる診断名としてつく病名ではなく、特色を示す研究上の分類となります。
いわゆる病名は米国精神医学会の定める「DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)」や、世界保健機関(WHO)の定める「ICD-10(疾病及び関連保険問題の国際統計分類)」に従います。
ですから例えば主治医の先生に「非定型のうつ病」(厳密には’非定型の特徴を伴うもの’と付記される)と診断されたとして、下記の分類を見て「逃避型」じゃないかとか「未熟型」じゃないかと同じ土俵で見ることはできません。
診断名とは別に、その特色として理解してもらうと良いでしょう。
このようにひとえに「うつ病」と言っても、切り口がたくさんあるために患者さんにとっては混乱してしまう要因なのだと思います。
それでは病名とは違う視点からその特色・研究上の分類を見てみましょう。
ちなみに以下の特色を持つうつ病は多くの場合で診断名は「非定型うつ病」「双極性障害」「不安障害」「人格障害」などとされていることが多いような印象です。
それでは、従来型のうつ(メランコリー型のうつ)とは少し異なる新しいうつに対する概念を提唱された年代順に見てみましょう。
逃避型抑うつ
逃避型うつ病は1977年に提唱された概念ですが、現在でも多くのケースで当てはまることが多いようです。
エリートサラリーマンに見られ、30歳前後で発症することが多いタイプです。
ちょっとした困難な状況で挫折し抑うつ状態が続き、なかなか復職できなかったり、周囲からは逃げているととらえられがちです。
逃げているととらえられがちなのは、平日の朝は起きられないのに、午後や週末には自分の趣味や家族サービスができる点などが従来型と異なるからです。
従来のメランコリー型のように自分を責めることはありませんが、他人を責めることもありません。
ときに気分の高まりや若干の攻撃性、活動性を示すなどの軽躁状態を示すこともあります。
薬物治療が効きずらいことも多く、慢性の経過をとりがちです。
基本、薬物抵抗性なのです。
それでも抗うつ薬や気分安定薬が効く例もありますが、たくさんのお薬を飲んでいるのになかなか良くならないとおっしゃる患者さんもしばしば目にします。
職場環境の影響は大きく、上司との関係や職場での配慮がなされると一気に改善することもあります。
しかし、いったん良くなっても過敏性は強くまた困難な状況に出会うと同じような反応を示すことも少なくありません。
参考文献
広瀬徹也. 「逃避型抑うつ」再考. うつ病論の現在. 49-68, 2005. 星和書店.
現代型うつ病
現代型うつは実は1991年に提唱された概念なのです。
現代型うつ病とは、従来型うつ病の病像が現代的に変化した病態を意味します。
仕事や職場に絡めて説明されることが多いのが特色です。
若いサラリーマンに比較的多く見られ、会社という組織への一体感や忠誠心が希薄で、仲間意識も乏しく、仕事熱心ではない(自分のペースが乱されることを嫌う)といった特徴があります。
全体としては軽症(もしくは軽症のように見える?)ですが、負荷が増大する状況で症状が顕著になることが多いです(仕事量が増えたりなど)。
仕事において終身雇用制が崩れ、転職が当たり前となった現代人の働き方を如実に反映しているようにも思われます。
未熟型うつ病
1995年に提唱された概念です。
未熟型うつ病では激しい不安、焦燥、自殺衝動があります。
これは定義上、双極性障害の混合状態で示すような症状です。
自己中心的、自己顕示的で自己評価が過大であるといういわゆる躁のような要素を持っているのが特徴です。
とにかく不安・焦燥が強く、要求が通らないと依存的になり、さらにその依存が受け入れられないと攻撃的にもなります。
従来のうつ病のような自分を責めるということは少ないのです。
仕事やプライベートで挫折するなどして、思い通りのライフスタイルを送れなくなっている点は「現代型うつ」の形ですが、先の「現代型うつ」と違うのは、攻撃的かつ行動的でエネルギーの高いわりに不安定さがあることからもわかる通り、重症度は高く難治性になりやすいのです。
それでも初期は抗うつ薬がよく効くことも多いです。
しかし次第に効かなくなることから、いつのまにか薬が効いているのかどうかわからない状態にもなりがちです。
参考文献
阿部隆明, ほか. 「未熟型うつ病」の臨床精神病理学的検討. 臨床精神病理16:239-248,1995.
ディスチミア親和型
2005年に提唱された概念です。
表情は深刻そうに見えないことから、本人の口からうつ症状を訴えても周囲は信じられないといった反応を示すかもしれません。
それでもうつ病としての診断基準は満たされます。
漫然とした経過をとることが多いので、いつから発症したということは言いづらいかもしれません。
うつの原因は不全感など満たされない感覚によるもので、ときにリストカットや大量服薬、自殺行動をとることもあります。
人格障害とも診断されかねない状況ですが、人格障害の診断基準は満たさないことで区別されます。
抗うつ薬が使用されますが、やはり対症療法的な意味合いが強いです。
まとめ「現代型のうつ病について」
現代型のうつ病は、いわゆる従来型のうつ病である「メランコリー型」とは違い(非メランコリー)几帳面さや真面目さ、自身を責める責任感の強いイメージとは異なります。
病名とは別に、逃避型・現代型・未熟型・ディスチミア型などが提唱されていますがこれらの分類が重要というより非メランコリー型のうつがあるということが大事かと思います。
診断名としては、「非定型の特徴を伴う」という用語がつけられる大うつ病、双極性障害(Ⅰ型・Ⅱ型)、気分変調症などです。
医師によってこの診断にばらつきがみられることがあるため、うつ病と言われたり、双極性障害と言われたり、ときに人格障害と言われたりするかもしれません。
いずれにせよ抗うつ薬がよく効くことは少ないために慢性の経過をとることが多く、難治性になりがちです(薬物抵抗性)。
よく診断がうつ病から双極性障害に名前が変わったりするのは、こういった現代型うつ(非定型の特徴を伴うもの)なのです。
いわゆる現代型うつは、非定型の特徴を伴うわけです。
その非定型の特徴を悪く解釈したものが「仕事はしないくせに、遊びは熱心で元気」「都合が悪いときだけうつという」「対人関係にすごく敏感で傷つきやすい」「居眠りが多い」などのイメージにつながっています。
周囲から甘えているだけととらえられるとより病状は悪化することが多く周囲の理解も大切なのですが、実際社会に復帰していくときにどうしていけばよいかは現代のテーマでもあります。
抗うつ薬だけで単純に治療しようとすれば効果を出しずらいことから医療不信を招くこともあり、精神療法や認知行動療法が大切とされています。
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