このコンテンツは医学論文データベース「PubMedパブメド」とわたくし医師個人の経験をもとに、正しい情報をわかりやすく解説することをモットーにしています。
この記事は女性に読んでもらったのち、是非男性にも読んでいただきたい記事の内容になっています。
妊娠中ストレスと産後うつ

はじめに

奥様の妊娠・出産は、男性にとってはこれから父親としてスタートするとても楽しみな気持ちと不安な気持ちが織り交ざっていると思います。

いきなりですが、これから新しい家族を迎えるあなたの明るい未来のために、この記事を読んでいただけたら幸いです。
もしかしたら、奥様から読むように言われているかもしれませんがどうか数分だけお時間をください。
もし、今すでに奥様が情緒不安定になってしまっている場合は絶対に読んでいただきたいと思います。

医師として女性の妊娠中のうつや産後うつで情緒不安定になり、せっかく新しい家族ができたのに家庭が崩壊してしまうという症例をたくさん診てきました。
産後うつは日本では10人に1人がなる病気で非常にその頻度が高いのですが、あまり正確に理解されていません。

マタニティーブルーと産後うつとは違うものですが、同じものと理解されていることも多く産後の不安定な状態を当然のように「マタニティーブルーかな」とか「妊娠中だからしょうがない」とか「産後だから不安定になりやすい」などという一言で片づけてしまっていることが少なくありません。

産後うつ病は決して軽いもの、様子をみていて良いものではないのです。
その問題点は2つあります。


  1. 産後うつ病になった母親は育児を行う上で多くの問題を抱え、子どもへの愛着障害、ひいては虐待・ネグレクトと進むケースも少なくない
  2. 夫としても、奥様がイライラして自分や子供にあたったりしている姿を見るのは非常につらいもので、子供が幼くして別居や離婚の原因にすらなる

妻の妊娠が分かった段階では、夫としては楽しみなことの方がいっぱいで、これから起こるかもしれない悲劇を知る由もないのです。

もう一度言います。
産後の奥様のメンタルヘルスの異常は家庭にとって重大な影響を及ぼします!
そして恐るべきことに、産後うつの問題はとても軽視されやすいのです。

ここでは、奥様の妊娠中・産後ストレスと産後うつ病の予防対策のお話をさせてください。
このことは夫であるあなたにとって決して他人事ではないことは、ある程度お分かりいただけたと思います。


妊娠中のストレスや産後うつの対策を講じることができていたかどうかで今後が変わります!


10人に1人が産後うつ病になる昨今、決して他人事にしないでください。
適切な対応を準備しておくことができれば大部分をコントロールすることができることも研究の結果報告されています。
どうか数分間だけお付き合いください。

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産後うつとは

典型的な症状は、気分が落ち込んで何もできない、周囲に関心が持てない、眠れない、食欲が出ないなどで基本的に他のうつと変わりません。
ただ、産後うつならではの問題があります。


産後うつは母親本人を苦しめるだけでなく、赤ちゃんの健やかな成長にまで影響を及ぼす可能性がある


症状が進行すると、赤ちゃんが泣いても抱くこともできなくなります。
赤ちゃんがかわいいと思えなくなったり、かわいいという感情が本当にわからなくなるのです。
そしてそのことが母親失格というレッテルを自分に貼って悪循環の中に入っていきます。
夫や家族が「そんなことはない、しっかりやっているよ」と言っても奥様には入っていかないでしょう。

さらにそんな状態が続くと、親子の基本的な信頼関係が損なわれ、いずれ子どもの問題行動につながる恐れすらあります。
また産後うつの母親に育てられた子供は身体的な発育も遅れるという研究も報告されています。

産後うつ病は増えている

以前に比べ産後うつは増えています。
都市化や核家族化がすすみ周囲のサポートは減り、結果的に母親の負担は増えてしまっています。
周囲のサポートというのは直接的な介入ももちろんそうですが、育児の知識にもあると思います。
現在は情報社会ですから、育児に関する情報はネットから容易に仕入れられますし、育児に関する本や雑誌も多く出回っています。

逆に情報による弊害もあります。
これらの「適格な正確すぎる情報」によって、育児はこうすべきという絶対的なものが母親の中にできあがってしまい、先人達の「適当にこうしておけば大丈夫!」という融通のきいた意見を知る機会はなくなってしまっているのです。

あたかも、育児方法においてその方法を守らなければ赤ちゃんが大変なことになってしまう感覚は強いのでしょう。
そしてそれがその通りできない自分を責めてしまいます。(あまりにも細かくすべき点が多ければ当然その通りにできないことは当たり前なのですが・・・。)

産後うつのリスクは二人目より初産の方が高いのです。
一度育児を経験すると、こうしなければならないという感覚は薄れ経験が勝るので幾分適当さが身につくからでしょう。

しかし、一人目は大丈夫だったのに二人目で産後うつになってしまう例もあります。
つまり産後うつの原因は育児はこうすべきという思考や赤ちゃんに母親として適応するだけの問題ではないのです。

核家族化のもう一つの問題、それは夫との関係性が以前にもまして重要になっているのです。
むしろこちらの方が問題です。

産後うつの原因は夫にある?

勘違いしないために言っておきますが、夫が原因で産後うつ病になるわけではありません。(もちろん夫だけが原因という場合もあるでしょうが、大半の男性は真面目に育児に関わろうとしてはいます。)
そうではなくて、夫とのコミュニケーションがうまくいかなくなることが原因なのです。

「それなら普通に妻との会話はあるし、コミュニケーションは自分には問題ない」と思うことでしょう。
いや多くの人は絶対そう思っているはずです。
しかし、会話をすることだけがコミュニケーションではありません。
ここが重要です。

例えば、最初にもお話しました妻の妊娠がわかってこれから父親になるということのとらえ方ですが、夫としては楽しみの方が不安よりいくらか勝っていることでしょう。
一方、妻は不安でいっぱいになっているとしましょう。

夫の前では喜んでみせているけれども、夫に言い出せない不安(妊娠・出産だけではなく、その後のことも)でいっぱいのはずです。
これだけで、すでにすれ違いは始まっています。

この潜在的なすれ違いの状態にあると、夫は子供が産まれる楽しみを前提に会話をしますが、妻も最初は夫に合わせつつも不安を隠しながらコミュニケーションをとっていることでしょう。
当然そのことは夫は知る由もありません。
妊娠中だけならまだしも、出産後にその潜在的すれ違いを無視して育児をこなしながら夫とのコミュニケーションをとれ続けることができるでしょうか?

いつの間にか妻からすれば「夫は私の不安をわかってくれない!」になっているでしょうし、夫は夫で「俺はやることはやっているのに何であんな扱いを!」となるでしょう。

潜在的にすれ違うことで、コミュニケーションをとろうとしても相手に伝わらない感覚が強くなります。
そんな状態でも二人だけのときには許せた(我慢できた?)ことが妊娠中や産後には難しくなります。

産後うつの要因はすでに妊娠中に始まっていることが最近の研究で報告されています。
でもそのことは逆に妊娠中に対策を打つことができるということでもあります。

厚生労働省が提示した「健やか親子21」において産後うつ病の減少が目標として掲げられています。
その甲斐かいあって医療・福祉機関のサポート体制の整備がすすみ、産後うつ病の啓発は以前よりしっかりされている感じはしますが、予防においてとても大切なことは難しいのかまだあまりすすんでいません。

それは正しい夫婦のコミュニケーションができる準備です。
これができれば妊娠中のうつや産後うつの大部分がコントロールできるのです。
少なくとも重症化を防げますし、今後の夫婦のあり方においても重要なものとなるはずです。

多くの保健医療機関において保健相談、母親学級、両親学級、母乳相談などが実施されていますが、その内容は主に妊娠経過、分娩の異常の予防などの育児の準備に焦点が当てられています。

これまでの研究において周産期の家族機能と産後うつ病の関連が指摘されていますが、保健相談や母親学級では産後に生じやすい夫婦の感情のズレなどという夫婦の関係性の変化や産後うつ病などについての説明や教育は取り入れられてないことが多いのではないでしょうか。

それでは、正しい夫婦のコミュニケーションができる準備とは何かを次に説明していきます。

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妊娠中のうつや産後うつは予防対策できる

ここまでで、妊娠中のストレスや産後うつに大きく影響を与えているのが夫婦のコミュニケーションのすれ違いにあることをわかっていただけたと思います。

そしてそのすれ違いは、特に男性側は気づきにくいものです。
しかし、女性は妊娠後から潜在的に気づくようになり、出産後にはそのことをカバーできなくなるのです。

何度も言いますが、「しっかり会話できてコミュニケーションできているから大丈夫」とか「育児はしっかり関わっているから大丈夫」という問題ではありません。
極論で言えば、育児にどれくらい関わっているかはあまり重要な問題ではないのかもしれません。

逆に女性がこのズレを言葉で正しく指摘できるかと言えばそれも意外と難しいものです。
ですからズレの修正が必要になります。
そのために妊娠後半、お腹の子供の存在を夫も認識するようになったころにやるべきことをお話します。

紙とペンを用意して、夫婦で横に並んで(医師と患者さんの診察の位置関係)7つのお互いの考え方を共有してください!
これをしたかしなかったかで、あとあと大きく変わってきます。
実際に妊娠ストレスや産後うつで症状が出てきてからでは後手になってしまいます・・・。

※専門的には、家族としての機能をFamily Assessment Device (FAD)を用いて第三者が面接して体系的に評価しながらフィードバックして情報を提供し行いますが、個人的には自分たちで以下の7点について話し合っていくだけで大きな意味があると考えています。

妊娠中のストレス・産後うつを予防するために確認すべき7つの事

以下の7点を夫婦間で確認・共有します。
大事なことは、今問題があっても解決することではなく(もちろん解決できることは解決するのに越したことはありませんが多くの場合譲れないことも多いでしょう)、大事なことはそれをお互いが言葉で共有し知っておくことです。
そうすればいざ問題が起こったときに相手の想いを知っているとズレを最大限に小さくできるのです。

女性は夫のズレに感覚的に気づいているのですが多くの場合、見なかったことにして我慢しています。
そして夫はそのズレの存在にも、妻が我慢していることにも気づいていません。
もしかしたら、直接言えばそれはこうするのが当たり前と夫から言われてしまい伝わらないこともあるのです。


  1. 妊娠に対する想いの共有
  2. 育児に対する想いの共有
  3. 妊娠中・産後の役割についての確認
  4. 家族が機能しているかの評価
  5. 産後うつについて情報共有
  6. 問題が起こったときどのように対処していくか
  7. 今現在夫婦間で悩んでいることの確認と共有

1.妊娠に対する想いの共有

妊娠に対しての想いは女性は不安、男性は喜びがメインになります。
さらに母親としての自覚は早期にできるのに対し、男性には特に妊娠初期には父性の自覚はほとんどありません。

妊娠に対して女性はほとんどが不安に思っており、出産時の痛み、つわりなどの体調面、仕事との両立のこと、経済面、胎児の健康、年齢などその要因は様々です。

一方で男性は無事に産まれてきてくれるかが大きな不安の1つになりますから、不安一つとってもかなりのずれがあることがわかります。
つわりのつらさも完全に理解できるわけではなく、体調を気遣うことはできますが、女性からすれば何ごともなかったかのように毎日を生活する夫に理解がないと思ってしまうでしょう。

女性が何を不安に思っているのか、男性側がいかに喜びの感覚が強いかこのことをお互い認識しましょう(温度差があったことに気づきましょう)。

2.育児に対する想いの共有

男性は子供が産まれるまでは夢を見ている感覚が強いかもしれません。
男性におむつを替えて、抱っこして赤ちゃんをあやすイメージはあっても、実際産まれてみると、他に集中していることがあると泣かせっぱなしになっていたり、自分の気分がのったときだけしか抱っこしなかったりなど、妻としてはイライラする場面が多くなります。

ここでの想いの共有は、男性が父親としての実感がまだ湧いていないことをしっかり認識することです。
男性が父親になることは、女性が母親になることとは別の難しさがあるという指摘がありますが、これは男性には妊娠や授乳の体験がないために,女性と同じようには子育ての自覚ができにくく,子どもとの関係をつくりにくいからです。
したがって男性には「親になること」の自覚や訓練が女性以上に求められ時間がかかるのです。
女性からの父親としてのふるまいを男性側にすぐに求めることは難しく、時間とともに芽生えさせていくという認識を共有しましょう。

3.妊娠中・産後の役割についての確認

妊娠中・産後のほとんどの役割はどうしても女性になりがちです。
つわりで体調が悪いときはどう接してほしいか、家事はどう分担するか、赤ちゃんのことで手が離せないときにどうすべきかなど決めておきましょう。
とはいってもここまではあらかじめやっている夫婦も多いのです。

もう一歩進んだ話が必要になります。
それは「仕事と家庭の両立」に対してですが、男女ではその認識に差があります。
女性は仕事と家庭に対して時間が足りないという「時間の葛藤」を持ちやすいのに対し、男性はどちらも大事と思いつつもどちらを優先しようかという「選択に対する葛藤」を持ちます。

ここにも「ズレ」が出ています。
女性は時間という軸で仕事をとらえますが、男性は質を優先しますから、なるべくはやく仕事を切り上げて帰宅するという「時間を切り捨てる選択」をしない男性に妻はイライラしてしまうでしょう。

大事なことはすべて役割を決めた通りにはならないことを知っておくこと、どこにズレが起きやすいかを知っておくことです。

4.家族機能について

以下の3点について確認しましょう。
ここがうまくいっていない夫婦は、問題が起こってしまったときの対処は「夫婦どちらか一方の意見で決める」、役割も「自分が行う」という妊娠ストレス、産後うつのリスクを最大にしていく行動パターンをとる傾向にあります。


  1. 会話
  2. 夫婦の問題対処の手法
  3. 夫婦のそれぞれの役割

会話

「不満があるときはなんでも話す」が理想の状態です。
「あまり話さない」、「言葉は少ない」という状況であるとコミュニケーションはとれていない状況になります。
さらに体調が悪くても気づいてくれなかったとなるときは妊娠中のストレスは最大になるでしょう。

夫婦の問題対処の手法

「夫の意見が優先される」、「相談するなどは考えていない」という状況にある場合注意が必要になります。
妻は我慢を強いられますので産後うつの潜在的なハイリスク状態です。
話し合って決めるという環境が作れれば理想です。

夫婦のそれぞれの役割

産後に夫の協力が得られるかどうかは妊娠中の不安要素のひとつです。
出産前の環境が、「家事はすべて自分(女性)がやっており産後もそうなるだろう」と考えているような場合、夫からの協力は産後も得にくくなります。
もともと「自分(女性)がやったほうが良い」と考えている場合を除いて、産後の役割についての話し合いを持たなければ夫からの協力を得ることは難しくなります。

5.産後うつについて情報共有

上記でも述べた通り、産後うつ病は軽視したりホルモンのせいにしてはいけません。
場合によっては薬物療法が必要なこともあります。

女性が赤ちゃんをかわいいと思えなくなったり、抱っこもしたくないような感覚までになってしまうときは、隠さずに夫に告げることができる環境が必要です。
そのためにも夫婦お互いが産後うつ病について知っておきましょう。
早期に発見し早期に治療介入していくことが子供の発育のためにも重要です。

6.問題が起こったときどのように対処していくか

夫婦が話し合って決めていける環境にあるかどうか確認しましょう。
どちらか一方の意見に従って行動をとるという形になっている場合、「4.家族機能について」を再確認する必要があります。

7.今現在夫婦間で悩んでいることの確認と共有

夫婦間で悩まない問題は絶対にないでしょう。
我慢して見なかったことにしているような問題が、たとえ些細なことでもある場合は明らかにしておきましょう。
産後、余裕がない状況では我慢ができなくなり今まで抑えられていたものも抑えられなくなり事態悪化の要因にもなります。
すぐに解決できなくても、そのことを共有しておくことは万が一の事態の時に修正すべき点として相手に気づきを与えることができます。

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夫にこそ知ってほしい!妊娠ストレス・産後うつ予防対策のまとめ

妊娠出産して家族が増えることは、育児という仕事量の多さ以上に、実はお互いの見えないコミュニケーションのズレが発生もしくはより大きくなるのです。
育児をすることになった夫婦は、親としての役割感が最初はずれており(これは当たり前のこと)、調整されれば問題ないのですがなかなか調整がつかない状況のまま時間を経ると女性は産後うつを発症するようになります。

産後うつという言葉は有名になりましたが、妊娠中にうつ病になることもあります。
女性はすでに妊娠中に親の役割、育児について考えています。
男性は父親としての実感がどうしても女性より後になるため、考えるタイミングもずれますし、そもそもその感覚が妻とずれているかもしれないなど思ってもいないことでしょう。

現在の夫婦関係、産後の育児における役割について話す機会を持つことで、夫婦お互いが産後のそれぞれの役割についての準備ができ、育児を開始したときに生じる家族機能の変化や心理の葛藤を最小限にすることができるのです。

この記事を通して、男性はコミュニケーションできているようで妻に発生させている「ズレと心の葛藤」を理解していただけたら幸いです。

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