このコンテンツは医学論文データベース「PubMedパブメド」とわたくし医師個人の経験をもとに、正しい情報をわかりやすく解説することをモットーにしています。
睡眠薬と安定剤(抗不安薬)の実際

睡眠薬と不安薬は、一般的には「精神安定剤」とか単に「安定剤」などと呼ばれています。

睡眠薬は「夜眠れないとき」「眠れないことが気になる」「生活や仕事に不眠が影響しているとき」に飲むお薬です。
一方で抗不安薬は「不安感・緊張が強いとき」「不安で動悸など身体症状がでているとき」に飲むことで楽になるお薬です。

睡眠薬も抗不安薬と別々に分類されていますが、ともにベンゾジアゼピン系と呼ばれるお薬がその主役です。
最近は非ベンゾジアゼピン系も出てきています。

ここでは睡眠薬・抗不安薬に関する全般的な解説をします。


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睡眠剤・安定剤(抗不安薬)の基礎知識

社会で生活をしていると、ストレスを感じないことの方が難しく、このストレスに対してどう対応していくかが常に求められます。

このとき、脳にとって処理しがたい刺激が溜まっていくとパフォーマンスが落ち、意欲が出なかったり、漠然と不安にさいなまれるようになります。
この状態がひどくなると、かなり過敏に反応するようになり、ついには普通の社会生活が送れなくなっていきます。

このとき「不安」「緊張」の症状が目立つ方、「眠れない」「眠ってもすっきりしない」「早朝に目が覚めてしまう」こういった睡眠障害が目立つ方、もしくはその両方の症状がでてしてしまい学校や仕事に行けない、家事ができないなど社会生活に支障をきたすようになります。

この状態で病院やクリニックに行くと出される薬、これがマイナートランキライザーと呼ばれる「睡眠剤・安定剤(抗不安薬)」なのです。

(※ここでいう安定剤は、医療現場では一般に抗不安薬と呼ばれています。ここでは患者さんの目線から安定剤と言わせてもらいますが、逆に医師の目線からは安定剤と言うとデパケン®やラミクタール®に代表される「気分安定薬」とよばれるてんかん系のお薬のイメージを持ちやすいかもしれません。)

マイナートランキライザーとメジャートランキライザー

Pt

「安定剤・睡眠薬をマイナートランキライザーでくくりましたが、メジャートランキライザーもあるんですか?」

Dr.GDr.G

いい質問ですね。ありますよ!

そもそもトランキライザー(tranquil-izer)とは”tranquilトランキル“という”落ち着いた”とか”静穏な”という言葉から来ており、つまり「落ち着かせる作用をする物」という意味がトランキライザーとなります。

その作用が強く、例えばかなりの興奮状態で暴れたとしても落ち着かせてしまう作用を持つものを「メジャートランキライザー」と呼び、ここに属するものは統合失調症などに使用される抗精神病薬ということになります。
一方で、落ち着かせる、鎮静の作用がマイルドなものを「マイナートランキライザー」と呼び、ここに安定剤(抗不安薬)・睡眠薬が属するというわけです。

さて、安定剤(抗不安薬)・睡眠薬をマイナートランキライザーと呼ぶことはお分かりいただけたと思いますが、もう一つ「ベンゾジアゼピン系」なんて言葉を聞いたことのある方もいるかと思います。

現在の処方事情から考えると、「安定剤(抗不安薬)・睡眠薬」=「マイナートランキライザー」=「ベンゾジアゼピン系」と言っても過言ではありません。

「安定剤(抗不安薬)・睡眠薬」
=「マイナートランキライザー」
=「ベンゾジアゼピン系」

さて今度はこのベンゾジアゼピン系という言葉に注目してみましょう。

ベンゾジアゼピン系睡眠剤・安定剤(抗不安薬)とは?

睡眠導入と抗不安作用をもつマイナートランキライザーという意味なのですが、「ベンゾジアゼピン」というだけあってこのベンゾジアゼピンにも色々あります。

もとは睡眠導入作用である催眠作用抗不安作用、ここまでで触れなかったですが筋肉の緊張をとる筋弛緩作用をもっています。
肩こりが少し楽になったとかはこの作用によるものと思われます。
ちなみに「本当かな?そんなに効くのかな?」と思って仕事中肩こりが強かったので私もデパス®を服用したことがありますが、催眠作用が強くその後の診察が眠気との戦いで地獄になりました。

高齢者にとってはぼーっとする感覚や筋弛緩作用は転倒リスクの一つの要因になりますので注意が必要です。

実際の医療現場でみられる睡眠薬・安定剤(抗不安薬)の抱える問題

睡眠薬・安定剤(抗不安薬)は、効果の実感が強い反面、乱用や依存を引き起こしやすい特徴を持ちます。
現に一般救急をやっていると、夜間にこの薬をもらいに来るという患者さんもいらっしゃいますし、一般外来でももう何年もデパス®を処方し続けているなんてこともあるでしょう。

睡眠薬・安定剤(抗不安薬)は依存性のリスクだけが着目され、極端に処方を嫌う医師もいますし、逆に効果が出やすく患者さんの満足度も高いことから困っているならとたくさん処方してくれるドクターもいます。
「もう依存症になっている」とか「これでは一生薬をやめられない、治らない」と言われたことがあるという患者さんも少なくありません。

ベンゾジアゼピン系(睡眠薬・安定剤)の作用機序

ベンゾジアゼピン系(睡眠薬・安定剤)は基本的に脳の神経細胞の活動を抑えることで、上記の催眠作用・抗不安作用・筋弛緩作用をもたらします。

実際に神経細胞の活動を本当に落としちゃうと思うと怖いのですが、実際はそうではなく神経細胞にブレーキをかける役目をしている神経の活動を高めます。

いわば、自動車で言えばブレーキを効きやすくするというイメージです。
たしかに高速で走っていた車(神経の活動が高い状態)を落ち着かせるにはブレーキをかけなければなりません。
ブレーキをかけたからと言って、急に車が止まるなんてことはなく徐々に速度が調整されていきますよね。

抗うつ剤なんかでよく出てくる「セロトニン」とか「ドパミン」のような神経と神経のやり取りに関連する物質(神経伝達物質しんけいでんたつぶっしつ)はGABAギャバ:γ-amino butyric acid(ガンマアミノ酪酸)」です。

GABAは聞き覚えはあるはずです。

そうGABAチョコレートです。

GABAはストレスを緩和する物質とも言われ、チョコレートなど食品に添加されるようになってきました。(はたして口からGABAを摂取して脳に作用するのかは不明ですが・・・。睡眠薬・安定剤は直接GABAを摂取させるわけではなく、GABAの作用を強める働きです!!)

ストレスを察知すると、脳は興奮を高めます(具体的には大脳辺縁系だいのうへんえんけいと呼ばれる感情に関係するところ)。
この興奮を抑えるためにブレーキで制御を担当する神経からGABAが放出され、脳がオーバーヒートしないようにするわけですね。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬・安定剤(抗不安薬)は、このGABAを受ける神経の搬入口(GABA受容体ギャバじゅようたいと言います)を広げ、多くのGABAが作用しやすくなるような働きをするのです。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬・安定剤(抗不安薬)の強さは力価りきかで表されます。

自動車で言うと、前の車に接近したのでスピードの調整をするためのブレーキ、赤信号で車を止めるためのブレーキとひとえにブレーキと言っても「スピード調整」「止める」と2つの作用があります。

スピード調整だけの作用は力価が低いと言いますし、止めるためのブレーキは力価が高いとなるわけです。

薬に話を戻すと低力価のものは抗不安作用がメイン(スピード調整)になりますし、高力価のものはそれを超えて睡眠作用をもたらす(車が止まる)わけです。
もちろん低力価であっても量を多くとれば車は止まってしまいます。

非ベンゾジアゼピン系もあるんですか?

そもそもベンゾジアゼピンという名称は、化学構造からの視点の名称です。
同じ睡眠剤・安定剤(抗不安薬)としての作用をして、ベンゾジアゼピンではない化学構造の物を非ベンゾジアゼピン系と呼ぶわけです。
ですから非ベンゾジアゼピン系薬剤も睡眠剤・安定剤(抗不安薬)としての作用をマイルドに起こすわけですから、マイナートランキライザーの一種ということになります。

非ベンゾジアゼピン系の睡眠剤・安定剤(抗不安薬)はセロトニンに作用し不安を緩和するもの、ノルアドレナリンの過活動を抑えて作用するものなどがあります。

主な抗不安薬
<作用時間>
<強さ>
<一般名>
<商品名®>
1.ベンゾジアゼピン系抗不安薬
短時間作用型
(-6時間)
高力価エチゾラムデパス®
低力価クロチアゼパムリーゼ®
中期作用型
(12-24時間)
高力価ロラゼパム
アルプラゾラム
ワイパックス®
コンスタン®
ソラナックス®
中力価プロマゼパムレキソタン®
長期作用型
(24時間-)
高力価メキソゾラムメレックス®
中力価ジアゼパム
クロキサゾラム
セルシン®
ホリゾン®
セパゾン®
低力価クロルジアゼポキシド
メタゼパム
コントール®
レスミット®
超長期作用型
(24時間-)
高力価フルトプラゼパム
ロフラゼブ酸エチル
レスタス®
メイラックス®
低力価プラゼパムセタプラン®
2.非ベンゾジアゼピン系抗不安薬
セロトニン1A型タンドスピロンクエン酸セディール®
α2作動型クロニジン
(本来は高血圧薬)
カタプレス®

睡眠剤・安定剤(抗不安薬)の過量内服による睡眠は「気絶」

睡眠剤・安定剤(抗不安薬)の作用は、ブレーキシステムによって脳の興奮を抑えてリラックス状態を導くことにあります。
リラックスにむけてスピード調整をしている段階が「抗不安作用」で、完全にリラックス状態までもっていくのが「催眠作用」です。

これ以上いきすぎると、今度は車がエンストしてしまいエンジンがかからなくなります。
これは「気絶」です。

眠れないからと言って、過量に服薬したり、アルコールと一緒に飲むと薬が効きすぎてしまい「気絶」状態を招きます(周囲からは眠っているように見えます)。
ここから目覚めると、本人にとっては「寝たのに頭がさえない」、「ぼーっとする」、「体がだるい」、「頭痛がする」など二日酔いのような状態になります。気絶では脳は休めていないのです。

しかし本人は睡眠が悪いからだと思い込みさらに増量していくことを希望するでしょう。
この悪循環に気を付けなければなりません。

睡眠剤・安定剤(抗不安薬)の耐性と依存

この薬の最大のデメリットは耐性と依存です。

耐性とは、同じ量では効果が得られにくくなることをいいます。
結果、飲む量が次第に増えていきます。

そして依存性とはその薬がなくてはいられなくなる状態です。
厳密には、依存には精神依存身体依存とがあります。


  • 精神依存:ないと渇望かつぼうする、いわばくせになる状態
  • 身体依存:それがないと身体に症状がでてしまう状態

実際に、睡眠剤・安定剤(抗不安薬)を中止すると離脱症状(禁断症状)がでることがあります。

    <おもな離脱症状>

  • 不安
  • 焦燥感(そわそわ、落ち着かない)
  • 振戦(ふるえ)
  • 知覚異常(しびれ感)
  • 動悸
  • 頭痛
  • 発汗

ただ、現場で遭遇することが多いのはやはりなんといっても精神依存の方です。
これが強いがために、一度癖になる感覚があると薬がなくなることに恐怖を感じてしまうのだと思います。

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“医師が教える【睡眠薬・安定剤(抗不安薬)】の実際” への8件のフィードバック

    1. 申し訳ございません。
      抗不安薬系の各論もすこしずつ載せていく予定ですが、2017年7月現在、当サイトではまだソラナックスの説明を単独で載せていません。

  1. セルシンを脳梗塞の後遺症で頭痛、しびれなどのために10年程1日2から4mg飲んでいますが、依存とか認知症の心配をしていますが、如何でしょか?

    1. コメントありがとうございます。
      Dr.Gです。

      セルシン(もしくはホリゾン)は一般名「ジアゼパム」というベンゾジアゼピン系の抗不安薬の1つです。

      このジアゼパムですが、抗不安作用以外にも筋攣縮(きんれんしゅく)といって筋肉がぴくぴくしてしまう不快な症状や、けいれん発作などにも使用されます。

      もともとてんかん発作を持っていたり、脳出血や脳腫瘍・脳炎などで二次的にけいれん・てんかん発作が起こってしまうようなとき、その頻度をコントロールする目的で抗てんかん薬の補助剤として使用されることもあります。
      おそらく主治医の先生のお考えはこの延長で、脳梗塞後遺症による頭痛やしびれを一種のてんかん発作としてとらえて処方しているのかもしれません。

      また不安症状にともなって増悪することも考えられるのでその意味を込めているのかもしれませんね。

      おっしゃる通り、ベンゾジアゼピンには依存性があるため乱用にならないよう注意しなければなりません(ときに多幸感を求めて内服する例があります)が、2mg~4mg/日を飲んでいるものを乱用とは言わないでしょう。
      また4mg以上増えたりする様子もなければそこまで依存を心配しなくても良いかもしれません。

      依存状態では減薬したり中止するときに不安感が増強したり不眠が強くなったりするのですが、現時点では減薬・休薬を考慮するものでもないのでしょうから極端に増薬していなければ経過をみて良いかもしれません。

      また、「ベンゾジアゼピン系が認知症のリスクを高めるか?」という質問ですが、リスクは上昇させないとされています。

      【参考文献】
      Shelly L Gray, et al. Benzodiazepine use and risk of incident dementia or cognitive decline: prospective population based study. BMJ 2016; 352

  2. はじめまして。高校3年生の娘のことでアドバイスを頂きたいのです。
    娘は受験が近づいてきた漠然とした不安からか、就寝間際に泣いていたり、不安になって眠れなくなったりすると訴えるようになりました。受験が無事に済めば落ち着くとは思われますが慢性的な睡眠不足や心の不安定さ等が心配です。
    依存が少ない安定剤や睡眠導入剤のようなものは何をお願いしたら良いのでしょうか?

    1. コメントありがとうございます。
      Dr.Gです。

      受験期の不安定さは「受験うつ」を疑います。
      もちろん誰でも、受験期の不安は強くなりやすく不安定になることはあるでしょう。
      しかしながら、お母様が心配してここにたどり着くということはただごとではない印象です。

      さて、「受験うつ」ですが実際にそのようなうつ病が存在するわけではありません。
      このように俗にいわれているだけです。

      でもこのように俗に言われるには理由があり、普通のうつ病とは違う特徴があります。

      ・「うるさい」「ほっといて」が口癖のようになる
      ・やさしかったのに攻撃的になる
      ・周囲への批判や悪口が急増する
      ・急に志望校のレベルを挙げたがる
      ・かすかな音もきになってしまい集中ができない
      ・過去の嫌な経験をフラッシュバックしてしまう

      気持ちの落ち込みよりも、焦りや不安、焦燥感が強く、何かにとりかかろうにも切り替えがかかりづらくなかなか時間がかかります。
      ひとたびスイッチが入れば何事もなかったかのようにとりかかれることがあるため気のせいのように思うかもしれません。

      またやりだすと途中でやめれないなどの融通の利かなさがでたりすることもあります。
      このように受験期になりやすい子供のうつは通常のうつ病のイメージ(気持ちの落ち込み、パワーが出ない)と異なります。
      むしろエンジンは強く空回りしている印象です。

      薬も抗不安薬は効果を発揮しますが、根本的な解決にならないことも多く抗うつ薬がでるとかえって攻撃性を増したり自殺衝動が出たりすることがあるのでクリニックにかかりだしてすぐに安心せずに薬を飲み始めてからの様子もしっかりみていくのが賢明です。

      抗うつ薬が効かなかったり逆に不安や攻撃性、焦燥感を増す時は抗精神病薬を使用する場合もあります。
      しかし、受験生にとっては頭がまわりにくく勉強がよりてにつきにくくなり結果抗不安薬だけで経過をみていることも少なくありません。

      カウンセリングなどに行ったとしても本人の考え方はしっかりしていることが多く、「考えすぎずに、まあいっかと切り替えれれば楽なのにそれができずにこまっていることをわかってくれない!」となりやすいのが特徴です。

      最近は磁気刺激治療(TMS治療)もありますが、これは自由診療の扱いですので効果は一定あるにしても賛否両論といったところでしょうか。

      結局のところ抗不安薬に頼らざるを得ないですし、人によって抗不安薬もあう合わないはあります。
      個人輸入で手に入れることはできますが、必ず医師と相談しながらやっていくのがよいでしょう。

      抗不安薬は有効なのはほとんどがベンゾジアゼピン系の抗不安薬でそのどれもに依存性はあります。
      抗不安薬でお茶を濁すだけでなく、何に葛藤しているかを明らかにしていくことが大事です。

      すべて受験だからという受験のせいにしないで、人間関係(多くは家族内である)についても考える必要があります(親の前で良い子を演じてきているかもしれません・・・)。

      1. 音に敏感になっている点は当てはまるような気がします。
        まずは今まで以上に本人の話に耳を傾ける様心掛けて見ようと思います。その上でアドバイスに従い方法を探ってみます。ありがとうございました。

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